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主題なき春のラプソディ  作者: 青山 樹
第三章 『未知の力』
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第十一話 『なんか始まるんやと』

 翌日の明け方、おれは『少女』と一緒にブリッジへ向かった。

 ブリッジには、緑に輝く光の粒子をまといながら宙に浮いている軍服姿の子どもがいた。昨日と同じ、指導者の意識が乗り移っているという金髪碧眼の子どもだった。


「おはよう諸君。昨日はよく眠れたかな?」


「ほどほどにな。それより、何か食べるものをもらえないか。もうずいぶん、何も食べてないと思うんだけど」


「もう少し我慢したまえ。君が救世の子としての役割を果たしてくれれば、好きなものを好きなだけ食べさせてやろう」


「そいつはどうも。それで、おれは何をすればいいんだ?」


「簡単なことだ。これより結社の主力部隊による総攻撃が始まるわけだが、その前に全ての同志に対して我々が君という救世の子を手に入れたことを伝えたい。我々がナントカのアレに近いことを知れば、これからの戦いに臨む同志達の士気も大いに高まるだろうからな」


 指導者はソレラシキー粒子をまといながら、おれの目の前まで飛んでくる。


「これから私は同志達にテレパシーを送る。そこで君は、自分が救世の子であると宣言してくれればいい」


「宣言って、何を言えばいいんだ?」


「適当にすませてかまわん。自分はナントカのアレを導き出す救世の子であることを述べればいい。君がそれを言うことに、つまりその行為に意味と価値があるのだから」


 そういうものだろうか、と思った時。

 はるか遠くに見える空と海の境界線から、まばゆい輝きを放つ太陽が姿を現した。

 おれの隣にいた『少女』は、その光をまっすぐに見つめながら言う。


「いよいよ、日が昇るのね」


 太陽はその姿をゆっくりと現し、空と海はその神々しい輝きに照らされた。

 太古の人々が太陽を神として崇拝していたのが納得できるほど、それはそれは見事な日の出だった。


「では、始めるとしよう」


 指導者は肩車をするようにおれの肩に乗って、両手でしっかりと頭をつかんだ。


「まずは私が訓辞を述べるから、君はその後に宣言をするように」


 指導者は精神を集中させるように深呼吸をくり返す。そのたびに大量のソレラシキー粒子が発生し、おれの視界は緑色の輝きにおおわれた。

 目の奥にかすかな痛みを感じはじめた時、指導者は堂々とした口調で声を出す。


「親愛なる結社の同志諸君。ついに戦いの時は来た! この世界を支配する秩序はもはや形骸化し、既得権益にしがみつく一部の者達のために大多数の者達を隷従させ、搾取し、踏み潰す忌むべき怪物となり果ててしまったのだ! 我々は今、その怪物に正義の鉄槌を下し、打ち砕くための戦いに挑む! 敵は強大だ。だが恐れることはない。我々には世界の要たるナントカのアレを導き出す救世の子がいるのだから! その姿と言葉を今、諸君らに届けよう!」


 始めろと合図をするように、指導者はおれの頭をぽんぽんとたたく。

 まったく、ずいぶんとハードルを上げてくれたな。結局何も思い浮かばなかったし。

 まあいいか。やるって決めたんだから、最後までやりとげるさ。


 おれは目を閉じ、おれの姿と声が届くであろう人々を思い浮かべながら口を開く。


「えっと、あの、どうも。救世の子です。ナントカのアレを導き出せるよう、がんばります、はい……」


 正直なところ、自分でも何を言いたいのかわからなかった。これじゃただのアホだ。

 恥ずかしさと後悔の念がわき上がってきたところで、指導者はおれの頭から離れた。


「ふむ、ご苦労だった。これでひとまず君の役目は終わりだ」


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