第十話 『なんやかんや言うても日常が一番ちゃうか』
飛行戦艦のブリッジにもどってからも、そのたかぶりは続いていた。
おれは艦長席っぽい立派な椅子に座り、満足げに息を吐きながら感動をかみしめる。
「どう? あなたの中で、何か変わったかしら」
「変わったよ。具体的にはわからないけどさ。でも、何かができそうな、そんな気分になってきたんだ」
「そう。なら、よかった」
「ところでさ、君にお願いしたいことがあるんだけど」
「なにかしら?」
「コーヒーを淹れてほしいんだ。君が淹れてくれる、あの素晴らしく美味しいコーヒーを、この見事な星空を眺めながら味わいたいんだ」
すると『少女』は不思議そうに首をかしげた。
「コーヒー? 私、あなたにコーヒーなんて淹れたこと、あったかしら……」
「え? いやいや、何言ってんだよ。委員会の支部で、コーヒーを淹れてくれたじゃないか。君の実家は喫茶店をやってて、それでコーヒーの腕には自信があるって話してくれただろ?」
「…………ごめんなさい。やっぱり記憶にないわ。あなたに食事をつくったことは覚えているのだけど、コーヒーを淹れたかどうかはわからない。私の実家が喫茶店だったかどうかも。それに、コーヒーを淹れるって、どういうこと? インスタントの粉にお湯をかけるだけならだれでもできるし、味も変わらないと思うけど」
「え、ちょ、ちょっと待って。本当に、覚えてないの?」
ごめんなさい、と『少女』は言う。
うそをついたりふざけたりしているようには見えない。
それに、『少女』がそんなことをするとは思えなかった。
「これは、一体どういう――」
そこまで言った時、またしてもあの言葉がよみがえった。
神様のごとき何者かによって、自分達の意識はこの世界を受け入れるように変化させられているかもしれない。
救世の子としての役割を、果たすために。
「大丈夫? どこか具合でも悪いの?」
『少女』はおれの肩にふれる。大丈夫、と言っておれは顔を上げた。
「わかったよ。おれのやりたいことが。いや、やるべきことが」
「……そう。うん、あなたなら大丈夫。きっとうまくいくわ」
『少女』に言われ、おれはうなずいた。
もしかしたらおれは、『少女』の意志に反することをやろうとしているのかもしれない。
だけど、それでもかまわない。
おれはおれの意志を貫くだけだ。
おれは『少女』と一緒に記憶を取り戻し、もとの生活に戻る。
おれはただの高校生で、『少女』は実家の喫茶店で美味しいコーヒーを淹れている、そんな本来あるはずの日常へ戻るんだ。
もちろん、あいつも一緒にだ。このふざけた世界から、必ず帰る。
そのためならおれは、救世の子としての役割を果たす。
ナントカのアレも導き出してみせる。
どうすればいいのかなんて小さな問題だ。やってやるという意志を持つことが大事なんだ。
そう、意志は力の源なのだから。




