第九話 『笑えばええと思うで』
真っ逆さまに、おれは落ちていった。
自然界の法則に従い、当然のごとく。
いや、今までの状況のほうが異常だったのだろうけどさ。
しかしこれが正常とはいえ、これはない。
「ああああああっ! 死ぬっ死ぬっ! 落ちるうううぅ!」
「大丈夫よ。あなたなら必ずソレラシキー粒子を出せるわ」
おれに寄りそうようにして、『少女』もソレラシキー粒子をまといながら落ちていく。
「無理無理無理! だいたい、どっからどうやって出すんだよ!」
ここだ、とでもいうように、『少女』は自分の胸をたたく。
「言ったでしょう。意志は力を生む源だって」
そんないいかんじのセリフでどうこうできる状況じゃないだろ。
なんてことはもう言ってられないな。こうしている間にも地面はどんどん近づいている。
ソレラシキー粒子を出さなければ、マジで死んでしまう。
こんなアホみたいなことで死ぬのはごめんだ。
おれは覚悟を決め、両手を前に突き出し、腹の底から声を出した。
「いでよっ! ソレラシキー粒子ぃっ!」
しかし、何も起こらない。
どうすりゃいいんですかね、と『少女』のほうを見る。
『少女』はとっさにおれから顔をそらした。
その寸前にちらっと見えた横顔は、少しふくらんでいるように見え、ほどなくして「ぷっ」と小さく吹き出すような笑い声が聞えた。
「ちっくしょおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ! 殺せぇえ! もう殺してくれぇ! あ、やっぱ助けて。マジで助けて! 死ぬ! 死ぬ! いやだ、いやだ、ああああああぁぁぁっ!」
地上に広がる大都市の姿がいよいよ目前にまで迫る。
密集した高層ビル群と、その下に張りめぐらされた道路網が見えた時、おれの体を包むようにして青く輝く光の粒子が現れた。
落下していたおれの体はギリギリのところで上昇に転じ、雲の上まで上ったところで静止した。
「残念ね。あと少しでいけると思ったんだけど」
そう言いながら、『少女』はおれのそばに飛んでくる。
「はぁ……、はぁ……、そう、だね。ほんと、あと少しで、逝くところだったよ」
「せっかくだし、もう一度チャレンジしてみる?」
「おれを殺したいの?」
冗談、と言って『少女』は笑った。
「まったく……。笑い事じゃないよ」
「あら、あなただって笑っているじゃない」
そう言われ、おれは笑っていることに気づいた。
さっき死にかけたばかりなのに、どうして笑っているのだろう。
なんて考えるまでもないか。
なんかもう、いろいろありすぎたんだ。
あまりにも世界がとんでもなさすぎて、だからもう、笑うしかないんだ。
だからといって、投げやりな気持ちや後ろ向きな気持ちで笑っているわけじゃない。
とても前向きな気持ちで、おれは笑っていた。
今ある悩みも、これからの不安も、どうにかなるさと思えるような、そんな心地よい高揚感と興奮が、おれの心と体を満たしていた。




