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主題なき春のラプソディ  作者: 青山 樹
第三章 『未知の力』
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第七話 『それでええ』

 そもそも、と『少女』は腕を組み、おれに問いかける。


「あなたにとって、世界とはどうあるべきものなの? いえ、どうあったものなのかしら」


 『少女』に問われ、おれは言葉を詰まらせる。

 今までの騒動に関わる前の記憶はまだもどっておらず、世界がどんなものだったのかも当然わからない。

 たんにこの世界がおかしいと感じているだけで、そう感じられる具体的な根拠はどこにもないのだ。

 もしかしたら、おれではなく『少女』のほうが正しい認識をもっているのかもしれない。

 『少女』の言う通り、世界とは最初からこういうかんじのものだったのだろうか。


「世界は常にその姿を変え続けているわ。私達が気づかないうちに、知らない姿に変わっていたとしても、それは不思議なことではないの。私達自身が、私達の気づかない間にどんどん変化しているように」


 心からそう信じているらしく、『少女』の目には一切の迷いがなかった。

 その目を見た時、うっすらとした恐怖と共にある可能性が頭をよぎった。

 委員会の支部で聞いた彼女の言葉がよみがえる。


 神様のごとき何者かによって、自分達の意識はこの世界を受け入れるように変化させられているかもしれない。


 それはあくまでも仮定の話だ。確証はない。

 だけどおれは過去の記憶が思い出せないことを深刻に考えてないし、『少女』はこの世界を受け入れるどころか楽しんでいるという。

 変化の進み具合に個人差があるのかもしれないし、自覚がないだけでおれも少しずつおかしくなっているのかもしれない。


 おれや『少女』は、これからどこまでおかしくなっていくのだろうか。

 今ここにいないあいつは、どこまでおかしくなっているのだろうか。


「大丈夫? なんだかとてもつらそうだけど」


 なんでもないというふうに、おれは首を振った。


「きっと、考えても仕方ないんだろうね。おれが受け入れようと受け入れまいと、世界のあり方にはなんの影響もないんだから……。そうさ、何も変わらないんだ」


 おれは短くため息をつき、星空を見上げる。


「ここがどんな世界であれ、やっぱりおれには何もできないよ。何をすればいいのかもわからない。救世の子の役割なんてさっぱりだし、ナントカのアレなんて見当もつかない。君やあいつみたいに戦えるわけでもないし、ソレラシキー粒子も出せない。そんなおれに、何ができるっていうんだ」


 まったく、情けない限りだ。情けなさすぎて涙が出てきそうだ。

 今までおれがしてきたことといえば、この世界の理不尽や不条理に向かってただ感情のままに叫んだことだけじゃないか。


「できないことを見つけるよりも、できることを見つけなさい」


 『少女』はおれの隣に立ち、ブリッジの外に広がる星空を見る。


「できることって言われても、そんなの、わからないよ」


「それなら、あなたがやりたいと思うことを見つけなさい」


「やりたいと、思うこと……」


「そう。やりたいと思うことが見つかれば、そのためにやらなければならないことがわかるでしょ。今度はそれをやるために、自分にできることとできないことが見えてくるわ。そうすれば、今の自分が何をしなければならないかもわかるはずよ」


「やりたいことが見つからなかったら?」


「心配しないで。必ず見つかるわ。どんなものであれ、あなたはそれを持っているのだから」


「ずいぶんと、自信満々に断言するんだね」


「当然よ。あなたは今、こうして生きているでしょ。やりたいこと、なすべきこと、叶えたい望みや願いがあるから人は生きているし、生きていけるのよ」


「そういう、ものなのかな……」


「まだ不安を感じるのなら」


 『少女』はおれの手を握り、星空を仰ぐように顔を上げる。


「私達が生きているこの世界の姿を、一緒に見に行きましょう。世界の姿が少しでも見えてくれば、あなたの心も変わるかもしれないじゃない」


 おれは『少女』の顔を見る。『少女』もこちらに顔を向けた。

 その顔には、どこか優しげな微笑みが浮かんでいた。


 それはもう見事なまでに可愛らしい微笑みで、今までの悩み事がカスのように思えるほど、おれの心は満ちていった。


 そうだ。

 わかったよ。

 おれのやりたいことが。

 いつまでも君の微笑みを見ていたい。

 ただそれだけでいいし、それで十分なんだ。


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