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主題なき春のラプソディ  作者: 青山 樹
第三章 『未知の力』
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第六話 『男は根性、女は度胸やいうけどなぁ』

 困惑するおれに、『少女』はその理由を話してくれた。


「前にも話したと思うけど、私は今の状況をまあまあ気に入ってるし、楽しんでいるの。けれどナントカのアレを導き出してしまったら、全部終わってしまうじゃない。私も救世の子としての役割を果したら、元の一般人にもどってしまう。そんなのつまらないわ」


「ちょっと待って。そんな理由を指導者は認めてくれたのか?」


「まさか。指導者も委員長も最初は反対したわ。だから私は条件を出したの。自分のかわりに役割を果たしてくれる救世の子を見つけるから、自由にさせてくれって。創世の書によると救世の子は一人ではないらしいし、彼らにしても接触できた救世の子は私一人だけだったから、結局は認めてくれたの。そっぽを向かれて敵対勢力に行かれるよりはマシと考えたのね」


 『少女』の度胸に対し、おれは畏敬の念すら抱いてしまった。

 委員長にしろ指導者にしろ世界的な組織のトップらしいのに、そんな連中を相手に自分のわがまま、もとい意志を貫き通すとは。

 勇敢というか、無謀というか、命知らずというか。


 ていうか、おれは『少女』のわがままのせいで、今の状況に置かれているのでは?


「けれど、それもここまでね。あなたやあなたのお友達のように、私以外の救世の子が現れてしまったから。そしてあなたのお友達は、私達とはちがう勢力に属している。これからは誰が先にナントカのアレを手に入れられるのかがこの世界の、ひいては私達の運命に大きく関わってくるでしょうし」


 『少女』は軽く背すじを伸ばし、席を立ってこちらに顔を向ける。


「当然、あなたも無関係ではいられないわ。あなたも救世の子としての役割を、果たさなければならないのよ」


「ナントカのアレを導き出すために?」


「ナントカのアレを導き出すために」


 おれは深く、それはもう地獄の底まで届きそうなため息をついた。

 聞きたいことや知りたいことはたくさんあったはずなのに、今となってはすべてどこかへ消えてしまった。たぶんもう、どうでもよくなったんだろう。


 ブリッジから見える星空に目をうつす。

 しばらくの間星空を眺めているうちに、自然とこんなことを口にしていた。


「ここは本当に、現実の世界なのかな」


「どうして、そう思うの?」


 おれは『少女』の顔を見る。

 その表情には、何かを意図しているような印象はなかった。


「うまく言えないけどさ、なんていうか何もかもがおかしすぎるんだよ。委員会や結社みたいな世界規模の組織といい、機動装甲とか飛行戦艦とかその他諸々の近未来的テクノロジーといい、現実的じゃないものが多すぎる。挙句の果てには超能力やソレラシキー粒子なんてありえないものまで出てきた。そして何より救世の子とかナントカのアレだ。それをめぐる世界規模の戦いまで起こっているそうじゃないか。もうだめだ、頭痛が痛いどころの話じゃない。本当に頭がどうにかなっちまいそうだ」


「ソレラシキー粒子なら私も出せるわよ」


 『少女』は手を広げ、青く輝く光の粒子を発生させる。どうやら人によって色は異なるらしい。

 いや、そうじゃなくて。


「頼むからやめて。ほんと、お願いだから」


 そう、と『少女』は残念そうに言い、ソレラシキー粒子を消した。


「だいたいどいつもこいつもおかしいよ。ナントカのアレを手に入れるためかどうか知らないけど、なんでそんな漠然としたものを理由にして戦えるんだ?」


「そんなにおかしなことでもないでしょう。誰もが具体的な理由や目標をもって戦っているわけではないと私は思う。やりたいからやる、理性ではなく本能に従う、理由はあとからついてくる……。人間も動物の一種である以上、理性のみで行動できるわけではないのだから」


 それはそうかもしれないけど。

 でも、だからって、ナントカのアレはないだろう。


「それに世界なんて、いつもあやふやな理由で動いているんじゃないかしら。もし世界中の人々が明確な理由や目標をもって動いていたら、それこそ不気味だと私は思うわ。それに嫌よ、そんな世界。ゆとりも遊びもなくて、息苦しいだけじゃない。ある程度いいかげんに生きることが、人間らしい生き方だと私は思うの」


「まあ、一理あるかもしれないけどさ……」


 なんというか、怠けぐせのついたダメ人間が言いそうな言葉だった。


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