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主題なき春のラプソディ  作者: 青山 樹
第三章 『未知の力』
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第三話 『えらく古臭い主人公の運命やな』

 あ、だめだ、そろそろ正気の糸が切れる。

 というところでおれは部屋の中に戻された。


「どうだね、素晴らしい眺めだっただろう。特に我々が今乗っているこの飛行戦艦は見事なものだったはずだ。つい先日手に入れたばかりの最新鋭の艦だからな」


 おれはへたれ込むように腰を落とし、息を整えながら指導者を見る。


「まったく……、素晴らしいもんだよ。生きていることの喜びを実感するね」


「ふむ。やはり救世の子といったところか。見込みがないわけではないようだな」


「そいつはどうも。それで、あんた達はナントカのアレを手に入れてどうするつもりなんだ」


「さっきも話したと思うが、委員会と結社は長きにわたり対立している。君も知っての通り委員会は世界を裏で操り、この世界における秩序を守り続けているのだ。そして、それをより確固たるものとするべく、彼らはナントカのアレを手に入れようとしている」


 指導者はくるりと背中を向け、ガラスの向こうに広がる星空を見上げる。


「しかし、人が完全な生き物ではないように、人が創り出した秩序もまた完全ではない。それはすべての人々を救う絶対的なものにはなりえないのだ。秩序があるゆえに救われない者も多い。そして、人が創り出すもののほとんどすべてがそうであるように、秩序もまたほころび、腐敗していく。すると今度は、今ある秩序を維持するためにより多くの者が犠牲とされてしまうのだ」


 指導者はおれのほうに顔を向ける。

 そのつぶらな青い瞳がおれの視線と重なった時、おれは心の中を全て見透かされているような不安定な気分になった。


「結社とは、そのようにして秩序から見放され、見捨てられ、犠牲とされた者達によってつくられた組織なのだ。大国の圧迫を受ける小国然り、国内で迫害を受ける少数民族然り、政権打倒をかかげる反体制派然り、富裕層に搾取される貧困層然り、スクールカーストの底辺然り、リア充を妬むボッチ然り……。彼らは結社という共通の絆によって結びついている。そんな我々結社の目的はただ一つ、今ある秩序を打ち破ることだ」


 なるほどな、とおれはうなずく。後半のほうは少しちがうような気がするが。


「でも、おかしくないか? 秩序を打ち破ることが目的なら、どうしてナントカのアレが必要になるんだよ。ナントカのアレってのは、秩序を維持する力があるものなんだろ?」


「その通りだ。しかし秩序を維持する力があるということは、それを打ち破るのに利用できる力もあるということにもなるのだよ。平和のために利用できるものが、その平和を終わらせる力も持っているのと同じだ。力とはそれ単体で意味を成すものではない。そこに人の意志が加わることで、はじめて意味は付与されるのだ」


「それで、あんた達は秩序を打ち破ってどうするんだ? 自分達を中心にした新しい秩序と世界をつくろうってのか?」


「君は話を聞いてなかったのか? そんな無意味なことを、するわけがないだろう」


「……は?」


「秩序を打ち破ることを目的とする我々が、なぜ新たな秩序をつくらなければならないのだ。そんなことをしても、その秩序を打ち破ろうとする者達との戦いが続くだけではないか。もう一度言うが、結社の目的は秩序を打ち破ることだ。変革でもなければ創造でもないのだよ」


「つまり、あれか。好き放題に暴れまわって世の中をめちゃくちゃにして、後のことはほったらかしってことか?」


「そういうことだ」


 アホか、とおれは思った。とんでもなくはた迷惑な連中じゃねえか。


「人の世の歴史とは秩序をつくり維持しようとする者達と、その秩序によって虐げられ、その打倒を目指す者達のあくなき戦いによってつむがれているのだ。そしてその戦いの影では、つねに委員会と結社の戦いが行われている」


「それで、今度は委員会との戦いに勝って秩序を打ち破るために、ナントカのアレが必要だってことか?」


「そういうことだ」


「かんべんしてくれよ……。こんなわけのわからん連中の、わけのわからん戦いに、おれを巻き込まないでくれ」


「その言い方は卑怯というものだよ。そして間違っている。君は巻き込まれたのではない。君が元凶となっているのだから」


 いつだったか、委員長が言った言葉がよみがえる。


「おれが、ナントカのアレって言ったからか?」


「君が、ナントカのアレと言ったからだ」


 だそうだ。

 だけどこれだけははっきり言える。


 今のこの状況は、決しておれが望んだものではない。そこにおれの意志はない。

 ただただ意味不明なことに巻き込まれ、振り回されてきた。

 おれにはそれしかできていないのだ。


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