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主題なき春のラプソディ  作者: 青山 樹
第三章 『未知の力』
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第一話 『なんでそんなこと言うんや』

 空を飛ぶジェット機のエンジン音のような重くて低い音を感じ、目を覚ます。

 おれはやや固めの小さなソファに横になっていた。夜らしく、まわりは薄暗い。手狭な部屋にいるらしく、立って手を伸ばせば届きそうなところに天井が見える。


 おれは体を起こし、部屋の様子を見る。

 船か何かの船長室のようなかんじの部屋だった。正面に見える壁はガラス張りになっていて、そこから差し込む夜空の光が室内にある計器類や機械類、イスや書き物机、書棚などなどを照らしている。


 目覚めた時に聞こえた音は、部屋の下のほうから聞こえていた。

 外の様子を見ようと、正面のガラスに近づく。月や星々の光がやけに近く、そしてはっきりと見えるような気がした。少し目線を下げ、おれは息をのむ。

 空母の滑走路のような広くて長い甲板と、さらに下のほうに広がるなだらかな雲海が見えたからだ。

 雲海には細長い影のようなものが落ちていて、帆船のようにゆるやかな速度で進んでいるのが見える。


 飛行機か飛行船かはわからないが、とにかくおれは今、飛行物体の中にいるらしい。

 今度もまた、いつの間にか妙なところに来ちまったな……。


 ガラスの向こうに広がる夜空と雲海の境界線を眺めながら、おれはため息をつく。

 その時、天井のほうからドン、ドンと物音が聞えた。同時に、キラキラと光り輝く粉雪のようなものがガラスの向こう側に見える。それは緑色に輝く光の粒子のようなものだった。

 何事かと思いながら見ていると、大量の光の粒子をまといながら何者かがガラスの向こうに現れた。

 それは小学生くらいの小さな子どもだった。

 外国人なのだろうか、透き通るような青い瞳と金色の巻き毛がとても印象的である。顔立ちは男の子とも女の子ともとれるような柔らかくて愛らしいものだった。光の粒子のおかげで、薄暗い中でもその容姿はよくわかる。


 いやいや、それよりも、もっとつっこむところがあるだろう。


 その子どもは宙に浮いていたのだ。

 身に着けているのは子どもには似つかわしくない軍服を思わせるようなデザインの服だけで、機動装甲のようなものは一切身に着けていない。


 その体を包み込むように発生している光の粒子が何か関係しているのだろうか。

 いや、もしかしたらこれも委員長と同じく立体映像かもしれないな。


 そんなおれの考えを否定するように、その子どもはおれと目を合わせるとガラスを軽くたたいた。

 認めたくはないし、信じたくもないが、どうやら実在する人物らしい。

 おれの混乱にかまわず、子どもは上を見ろというように人差し指を立てる。顔を上げると、天窓のようなものと手回し式のハンドルが見えた。

 再び子どものほうを見ると、ハンドルを回して天窓を開けてくれと伝えるようなジェスチャーをしていた。

 わかった、とうなずきハンドルを回す。しばらくすると天井の一部が開き、そこからさっきの子どもが光の粒子をまといながら部屋の中へ入ってきた。

 夜の冷ややかな空気が流れ込み、おれは体を震わせる。しかし、頭のなかは妙に熱かった。


 いったいこれはどういう状況なんだ。

 おれはまだ、夢を見ているのだろうか。


 光の粒子が消えるとともに、子どもはゆっくりと着地する。

 子どもは開かれた天窓を見上げ小さくため息をつき、ぽつりとつぶやいた。


「あかんなぁ……。開かんだけに」


 その瞬間、おれの心は、虚無の闇が無限に広がる奈落の底へと突き落とされた。

 そうだ。

 これはやっぱり、夢なんだ……。

 とてもおそろしくて、そして悲しい、夢なんだ。


 などと現実逃避しているおれに、子どもは言う。


「はじめまして、救世の子よ」


 それはいかにも子どもらしい、明るくて甘みのある声だった。

 しかしその口調は重々しく、異様なプレッシャーを感じさせた。


「私は『結社』の指導者だ。といっても、この子どもの体は私の意識を乗り移らせる媒体として使っているものであり、私本人ではないがな」


 あー……、もう、なんだろうねぇ。

 また妙なのが現れたぞ、おい。


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