第十四話 『それっぽいんがでてきたな』
どことなく『少女』が寂しそうに見えたので、何か話題はないだろうかと思い、あらためて部屋全体に映し出された海と、名も知れぬ海の生き物を眺める。
「だけど、そういう目で見るとさ、君の気持もなんとなくわかるような気がするよ。不思議と落ち着くっていうか、安心するっていうか……。そう感じるのは、人間ももともとは海の生き物だったからなのかもしれないね」
そう、と『少女』は言った。
声の調子はさっきとほとんど変わってないけど、少しだけ喜んでいるような感じがした。
やがて、テーブルの上に置かれた端末から着信音のようなベルの音が鳴り響く。
『少女』は端末を操作し、おれの隣に立ってテーブルのほうに目をやった。
「委員長との連絡がつながったわ。今から通信映像が映し出されるから、気をつけて」
「委員長って?」
「委員会の最高権力者よ」
「委員会って?」
「この世界を裏で操る巨大権力機構のこと」
どうやら聞くだけ無駄らしい。おれはあきらめて端末を見た。
「おれも立ったほうがいいかな」
「いいえ、座ったままでかまわないわ。あなたは客人なのだから」
客人という言葉を聞いて安心した。今までみたいに理不尽に命を狙われはしないだろう。
端末から淡い光が浮かび上がり、少しずつ映像が映し出されていく。立体映像というやつだろうか。下から上へとなぞるように一人の人物の姿が映し出されていく。
黒光りする革靴が現れ、少女が身に着けているものと同じ色合いのズボンやスーツが見え、深い緑色のネクタイが映った。ネクタイの結び目が映ったところで映像は止まり、首から上が途切れた状態になる。
そんなわけで、おれの前には首のない等身大の人間の姿が現れた。
「映像がちょっとおかしいんじゃないか?」
すると、映像のほうから無機質な合成音声が聞えてきた。
「いや。映像は、これでええぞう」
心臓が凍りつくほどの寒気を感じた。
悪魔のささやきや天使の怒号でさえ、これほどまでに圧倒的な衝撃を心に与えることはないだろう。
頭は硬直し、顔は奇妙にひきつり、冷たい汗が流れた。
なんだ?
おれはさっき、何を耳にしたんだ?
「委員長。彼が件の少年です」
動揺するおれとちがい『少女』は淡々と言った。なんと頼もしい精神だろうか。
「ああ、ご苦労だった。初めまして、少年。私は委員長だ。つまり、かの委員会の頂点に立つ最高権力者だ。委員会のことは、君もよく知っていることだろう」
「いえ、あの、全然知りませんけど」
「そうだろう。そうだろうとも。我々は決して表舞台には出ない存在だからな。しかしその権力はじつに絶大だ。委員会はな、世界中の国家、政府の中枢とつながっていて、この世界を裏で操っているのだよ」
「へえ。それはまた、すごいですね」
信じる根拠などどこにもないような話だが、とりあえずおれは信じることにした。
今までだって信じられないようなことが起こっていたのだから、世界を裏で操る巨大組織があったとしても特に不思議なことではない。
それに、信じようが信じまいが、状況は変わらないのだから。




