第十話 『こらあかんやつやな』
何者かが着地すると同時に、おれたちも着地する。
おれは『少女』の手を離し、突如として現れたそいつの姿を見た。
沈みゆく夕日を背にしているため、はっきりとした姿はわからない。
それでもそいつが『少女』と同じくパワードスーツらしきものを装着していることはわかった。
『少女』のそれが機動性を重視しているといったかんじの洗練されたデザインであるのに対し、あちらさんのは戦闘特化型といったかんじの重武装型だった。
頑強そうな機械装甲と、右手に握られた身の丈ほどはある大剣がいかにもそれっぽい。フルフェイスのヘルメットらしきヘッドギアを装着しているため顔はわからなかったが、見た目といいさっきの声といい、少年であることはたしかなようだ。
いや、しかし…………。
なぜだろうか。妙に胸がざわつくのは。
「その女から離れるんだ」
空から降ってきたそいつは、おれに向かってそう言った。
その声を聞いた瞬間、胸のざわめきは不吉な予感へと変化した。
「その女と一緒にいてはだめだ。お前は、おれのもとへ来るべきなんだ」
おいやめろ。それ以上しゃべるな。
予感が疑惑に、疑惑が確信に変わっちゃうだろ。
「大丈夫だ。何も心配しなくていい……。お前はおれが、守ってやる」
そいつはヘッドギアを外し、素顔を見せた。
それは、おれが知っている顔だった。見間違うことなどありえない。
そいつは、センター街で別れた『親友』だった。
なんかもう、行き場のない感情で心が押しつぶされそうだ。
なのでおれは、そういう感情を全部ぶちまけるように、全力で叫んだ。
「何してんだお前はぁっ! なんだその格好は! お前、おれと同じ普通の高校生の一般人だろうが。なんでそんなSF的な姿してんだ。何がどうしてそうなったんだ! なんなんだよ、そのバカでかい剣は! ちくしょう、カッコイイな、おい!」
「わけのわからないことを言うなっ!」
おれの叫びを吹き飛ばすように、あいつは真剣な表情で一喝した。
いやいや。とんでもなくふざけた格好しているお前に、それだけは言われたくないっての。
別れてから数時間しかたってないのに、ほんと何があったっていうんだ。
おれの困惑をよそに『親友』はまっすぐな眼差しを向けて語りかけてくる。
「いいか、よく聞いてくれ。お前はおれについてくればいいんだ。あとのことは上層部がうまく処理してくれる。何も心配することはない。おれを信じてくれ」
「って、言われてもなぁ……」
上層部ってなんだよ、とツッコミを入れるのもバカらしくなってきた。
いよいよもって状況が理解できないし、理解しようとすること自体がもう面倒くさくなってきた。
「とりあえず、お前が何者になってるのかを説明してくれ。話はそれからだ」
「だめよ。彼のもとへ行ってはいけないわ」
『少女』がおれの腕をつかむ。
「行けばあなたは上層部に捕えられ、抹殺されてしまう」
「ちょっと待て、おれが上層部とやらに何をした? なんでそいつらもおれを抹殺したいんだよ。やっぱあれか、ナントカのアレなのか?」
「そうよ」
「だからなんなんだよ、ナントカのアレって……。もう、いいかげんにしてくれ」
そんな正体不明のふわっふわしたもんが原因で、なぜ殺されなければならんのだ、おれは。
「その女の言葉に耳を貸すな!」
『親友』は声を張り上げ、巨大な剣の切っ先をこちらに向ける。
「よく聞くんだ。その女と、背後にある委員会は、お前を利用しようとしているだけなんだ。そしてもし、委員会の思惑が実現すれば、この世界は、この世界は……、くぅっ!」
くぅっ! じゃねえよ。その先を話せよ。
「えっと、つまり……、おれの存在が世界にとって、何かしら深刻な影響を与えることになるのだと、そう言いたいのか?」
「そうだ」
なるほど。
どうやらこいつは、頭がお気の毒なことになってるらしい。




