第八話 『ぼーい・みーつ・がーる』
まばゆい光が視界をおおい、おれはとっさに目をつぶる。
その直後に爆発音が轟いた。
衝撃波が発生し、おれは吹っ飛ばされて地面に体を打ちつけ、ゴロゴロと転る。
体中あちこちをぶつけてめちゃくちゃ痛い。
でも、デストロイはされなかったみたいなので安心した。
何がおこったのかはさっぱりだが、とりあえずここを離れなければと思い、体を起こしながら目を開ける。
少し離れたところに、燃え上がる炎に包まれながら黒煙を上げているロボットが見えた。今の爆発で破壊されたのだろう。
その姿を遮るように、一人の少女がおれの前に降りてきた。
そう、降りてきたのだ。
軽快なブースター音を響かせながら、空から降りてきた。
まだ立ち上がっていなかったおれは、足の先からふともも、腰、腹、胸、顔と下から順にその姿を目にした。
その少女は、ロボット以上にありえない姿をしていた。
いわゆるパワードスーツというやつだろうか。
少女の手足は機械の装甲でおおわれていて、脚部にはブースターだかスラスターだかの推進装置が見える。
腹から腰にかけてはがっしりとした装甲におおわれており、胸や肩、手足の関節といった装甲のすき間からは、体にぴったりとフィットしている黒色のインナースーツが見えた。
手足の装甲からは背中に向かってコードやら動力パイプらしきものやらが伸び、その背中には大がかりなバックパックと鳥の翼を模したようなデザインの推進装置が見える。
目元はスキーのゴーグルみたいなディスプレイにおおわれていて、頭にはカチューシャのようなヘッドギアらしきものが装着されていた。
顔でまともに見えるのは口元だけなのになぜ少女だとわかったのかというと、インナースーツに包まれている胸が、わずかながらもふくらみを見せていたからだ。
おそらく、この少女があのロボットを撃破してくれたのだろう。
その証拠に、少女はどう見ても対人用とは思えない巨大で危なそうな銃器をかついでいた。
しかし、さすがにこれは…………、ありえないだろ。
いかにわが国の技術力が前人未到の変態領域に到達しているとはいえ、漫画やアニメでしかお目にかかれないようなSF的パワードスーツを実用化できるわけがない。
しかもそれを少女が、おれと同い年くらいに見える女の子が装着しているのだ。
そんなことが、現実にあってたまるか。
『少女』はかついでいた銃器を背中のバックパックに装着すると、かがんでおれの腕をつかみ、体を引っ張り上げた。
パワードスーツの作用のためか、少女とは思えないほどの強い力に引っ張られ、おれは立ち上がった。
「しっかりしなさい」
『少女』が言う。美しい響きのある繊細な声だったが、その口調には冷たさというか高圧的な力強さというか、声色にはにつかわしくないものが感じられた。
「呆けたまま生きていられるほど、世界は優しくないのよ」
『少女』はディスプレイを額にあげ、おれと目を合わせる。その目は鋭く威圧的だった。
しかし顔立ちは全体的に柔らかく幼さを感じさせるため、無理をしてこういう目つきをしているだけなのかもしれない。
「君は、いったい――」
誰なんだ、と尋ねようとしたとき、炎上中のロボットからヒステリックな機械音が鳴り響いた。
見ると、ロボットは炎の中でもがきながら体を起こそうとしている。
「モク、ヒョ、ハ……、ハイ、ジョ……。ハイ、ジョ、ハイジョ、マッ、サ……、ツ」
半壊している頭部をぎこちなく動かしながら、ロボットは調子の狂った音声を発している。まさにお約束というか、このロボットはスクラップ寸前の姿になりながらも、律儀に使命を全うすべく奮闘しているらしい。何が何でも、おれを抹殺したいようだ。
そこまでされる理由は全然わからないのだけど、なんだかそのことが申し訳なく思えてきた。
そんな健気なロボットに一片の憐れみをかけることもなく、『少女』は腰の装甲から小型の銃器を取り出し、連続してぶっ放した。ロボットの頭部は爆発四散したものの、本体は攻撃を回避するように空高く跳躍し、ゆるやかな弧を描きながらおれ達の頭上を飛んで、少し離れたところに着地する。
そして、決死の特攻をかまそうとするように、こちらへ突撃してきた。
「うっとうしい……」
『少女』は軽く舌打ちし、バックパックに装着していた大型の銃器を構え、ロボットを狙撃した。
人の形をした上半身は木っ端微塵に爆砕され、下半身は動作を停止し炎の中に身を沈めた。
「この程度のガラクタをトアルカンパニーは新型として売り込もうとしていたのね。採用しなくて正解だったわ」
どこか気だるげな口調でそう言うと、『少女』は銃器をバックパックに装着した。
……なんかさっき、ありえない感じの企業名が聞えたような気がしたけれど、まあ触れないでおこう。




