第七話 『これでしまいかいな』
たぶんきっと、たかが十五の小僧がいっちょまえに黄昏てんじゃねえよ、と神様がツッコんだのだろう。
「いたぞぉ! あいつだ、ナントカのアレを知ってるガキだ!」
「ちくしょお! お前さえ、お前さえ現れなければっ!」
「アイツよ! アイツのせいで、みんなが……、みんながぁっ!」
「くそがあああっ! ぶっ殺してやらあ!」
待ってましたと言わんばかりのタイミングで、背後から叫び声が飛んできた。
もちろん、おれめがけて。いちいち振り返って確かめるまでもない。
なのでおれは即座に走った。全力で走った。死に物狂いで走った。
背後から迫ってくる連中に捕まったらマジで殺されそうなので、文字通り命がけで走った。
しかし、唐突に、背後から迫ってくる足音や叫び声は消えた。
その直前に、おれは短い悲鳴を断続的に聞いた。
さすがに気になったので、立ち止まって振り返る。
そしておれは、突如として現れた謎のロボットらしきものを見た。
そいつはおれから二、三十メートルほど離れたところにいた。
世界に誇るロボットテクノロジーを持つわが国の技術力を結集させても制作できないと思われる姿のロボットが、国道の上に立っていたのだ。
大きさは人間の倍以上はあるだろうか。上半身は簡潔にデフォルメされた人の姿をしていたが、下半身は蜘蛛のように大量の脚を生やしている。
上半身は人間で、下半身は蜘蛛。
うーん……なんか、西洋のモンスターにそういうデザインのやつがいたような気がするな。
ロボットのすぐそばでは人が何人か倒れていた。さっきまでおれを追いかけていた人達だろう。見たところケガや流血はなく、ただ意識を失っているといったかんじだ。
ロボットの顔がこちらに向き、二つの目が忙し気に明滅をくり返す。
もちろん、ロボットの狙いはおれなのだろう。
わかっているなら早く逃げようぜ。
こんなクリーチャーみたいなデザインのロボットが正義の味方なわけないだろ。絶対ヤバいことになる。
いやいや、人を見た目で判断するのはよくないぞ。
いやいや、人じゃねーし。
こんなふうに、無意味に思考をぐるぐると回転させることしかできなかった。
さっきから足がガクガク震えっぱなしで、逃げたくても逃げられない。
そんなおれに向かって、ロボットは大量の脚をガシャガシャと動かしながら迫ってきた。頭部はほとんど微動だにせず、確実におれの姿をロックオンしている。
あと少しでぶつかるというところまで来るとロボットは立ち止まり、音声を発した。
「対象ニ接近。再度データト照合シ、本人デアルコトヲ確認スル」
お客様サービスセンターのガイド音声みたいに、妙にのっぺりとした声だった。
「…………確認終了。対象ガ本人デアルコトヲ確認。コレヨリ『デストロイモード』ヘ移行シ対象ノ抹殺ヲ開始スル」
ロボットからモーター音やエンジン音が聞え、先端に銃口らしき穴がついたアームが背中からニョキニョキと生えてきた。両手はいつの間にか機関銃のようなものに換装されている。
おいおい待てよ。冗談はよしてくれ。
絶対聞きたくない物騒な言葉が聞こえたぞ。
デストロイ? 抹殺?
対象を…………。つまり、おれを?
なんでそうなるんだ!
と、叫ぶことすらできなかった。
もう、こんな、デストロイモードとかになっちゃうロボットが出てきた時点で、おれの理解力は限界を突破していたのだ。
いくつもの銃口がおれに向けられる。
ああ、これで終わるのか。
まさかこんな形で、終わりを迎えることになるなんて。
救いを求めるように空を見上げる。
燃え上がるような夕空と、空を走る黄金色の光が見えた。
最後に見る空としては悪くない。星の姿もいくつか見える。
そっか……。
おれももうすぐ、お星さまになるんだな。
と、思った時。
空に見えた光が、おれのすぐ目の前へ落下してきた。




