九話
森に入ると、人型の魔物がいた。
「あれがオーガ?」
「違うよ? これはオーク」
分かりづらい。 日本のゲームで何回か出ていたが、毎回姿が違っているし、何よりここは異世界だ。
「オークだけど倒すの?」
「うん。 倒さないと他の日田が襲われるかもしれないからね」
「わかった」
敬はこちらに走って来ていたオークに魔法を放った。 それを受けたオークは体に大きな穴を空けて倒れた。
「敬の魔法って便利ね」
「うん。 これなら楽に終わりそうだね」
「当たり前。 敬は私のパートナー」
今まで黙っていたフルールがそう言った。 二人はなんとも言えないような表情をした。
「⋯⋯お姉ちゃん。 私精霊嫌い」
「そうねアメリー。 私もよ」
敬はそんな二人を見て苦笑すると、オーガを倒そうと促した。
また少し歩いていると、人型の魔物がいた。
「あれがオーガ?」
「うん。 あ、そういえば敬って剣持ってない」
「剣⋯⋯? 大丈夫だよ。 それに、剣がなくても手に風を纏えば剣みたいになるし」
「へぇ〜。 でもやっぱり剣は必要じゃない?」
「うーん、余裕が出来たら買うよ」
「うん。 それでいいと思う」
「アメリー、敬。 準備して。 こっちに気づいたわ」
敬とアメリーはアナスタシアの言葉を聞いて会話を中止した。
アメリーはオーガに雷の魔法を放ちながら走った。 その魔法はオーガの顔に向かっており、オーガはそれを手でガードした。
その隙にアメリーとアナスタシアは剣でオーガの腕と足をそれぞれ一本ずつ斬った。
敬はそのショッキングな光景を見て顔を歪める。
敬は魔物を楽に倒していた。 それは遠くから一撃でほとんど仕留めていたため、半殺し状態でもがいている魔物はあまり見たことがなかった。
それに生きるために必死だったのもある。
敬は気分が悪くなったが耐えて、アナスタシア達がしめを刺すのを見届けた。
「敬、大丈夫?」
牙と魔石を回収したあと、少し顔色の悪い敬を心配してアメリーがそう聞いた。
「⋯⋯うん。 大丈夫だよ」
「大丈夫そうには見えないけど」
「大丈夫。 それに、そのうち慣れるよ」
「そうかな? うん、そうだよね」
「それじゃあ行きましょ」
そう言って敬達は帰った。
冒険者ギルドに戻ってくると、受付嬢にカードを渡した。
「はい、それじゃあ銅貨5枚。 敬くんはDランクに昇格ね」
「え? もうですか?」
「ええ、そうよ?」
「そうですか⋯⋯」
「それじゃあ帰ろう。 私お腹減っちゃった」
「そうね。 私もお腹減ったわ」
アナスタシアとアメリーはそれから冒険者ギルドを出ようとして止まった。
敬は二人の視線を追ってみると、そこには笑顔の男性がいた。
歳はアナスタシアと同じくらいだろう。 アナスタシアの彼を見る目は嫌そうだった。
「これはアメリーさんにアナスタシアさん。 今日もお綺麗ですね」
「ええ、ありがとう」
「今からおかえりですか? もしよろしければ最近街で有名な」
「ごめんなさい。 これから行くところがあるのよ。 また今度でいいかしら? それじゃあ行きましょ」
アナスタシアは彼の言葉を遮ってそう言うと、そそくさと出ていこうとした。 敬とアメリーはアナスタシアのあとを追うと、彼が敬を見て少し顔を歪めた。
「待ってください。 そちらの人は?」
アナスタシアは聞かれて少し悩むと、敬の腕に自分の腕を絡ませて微笑んだ。
「この人は敬。 私の恋人よ?」
敬は少し狼狽えたが、アナスタシアが懇願する目で見てきたため、演技をすることにした。
「は、はい。 アナスタシアさんとはお付き合いさせていただいてます」
敬がそう言うと、彼は酷く歪んだ表情で敬を睨んだ。
敬はそれに怖気づきそうになるが、アナスタシアのためを思い耐えた。
「恋、人⋯⋯? 嘘、ですよね? どうしてお前みたいなやつがアナスタシアさんと⋯⋯!」
「それじゃ、私たちは行くところがあるから」
アナスタシアはそう言って歩き出した。
すると、男性はアナスタシアの腕を強く握った。
「きゃっ」
「待ってください! どうしてこんなやつと恋人なんかに!」
「離れてください!」
敬はアナスタシアが痛そうにしているのを見ると、憤って相手を突き飛ばした。
「お前⋯⋯! 許さないぞ!」
男性は床に尻もちをつくと、敬を睨んでそう言い、腰にかけていた剣を抜いた。
冒険者ギルドにいた人達はみんな敬達の方を見た。 職員は慌てている。
敬はアナスタシアを後ろに下がらせ、相手に腕を向けた。
「はあっ!」
男性は敬に斬り掛かる。
しかし、敬はその男性を魔法で強めに吹き飛ばした。
その男性は、開いていたドアからから吹き飛んで出ていった。
ドアを開けたと思われる人はいきなり男性が吹き飛んできたのを見て驚いた表情をしている。
幸いなことに当たらなかったから良かったが。
それからギルドは静まり返った。
敬がどうしようかと思ったところで、先程ドアを開けた人物がこっちにやってきた。
「ギルドに入ろう思たらいきなり飛んでくるわでどうなっとるんや」
その人物は男性で、歳は20辺りに見える。
「えぇーと、実は⋯⋯」
それから敬は今起こったことを説明した。
「それは災難やったな。 俺の名前はウッズ。 そっちはなんて名前なんや?」
「僕は敬」
「私はアナスタシアよ」
「私はアメリー」
「そうか。 わいはBランク冒険者や。 よろしゅうな」
「よろしく」
「それで今からなんか依頼受けてこよう思うんやけど一緒にどうや?」
「私は遠慮しとくわ」
「私も〜」
「敬はどうや?」
「僕は⋯⋯」
「敬、行きたいなら行ってくれば? 私達は先に家に戻っているから」
「それじゃあ僕はウッズと依頼受けるよ」
「そう。 じゃあまた後でね」
そう言ってアナスタシアとアメリーは冒険者ギルドから出ていった。
ウッズは首を傾げて敬を見る。
「敬はあの子らと家族なんか?」
「いや、違うよ?」
「じゃあなんで家で待っとるなんや? もしかしてもう同棲しとるんかいな」
確かに疑問に思うのは当然か。
「実は僕記憶喪失でね。 暮らさせてもらってるんだよ」
「⋯⋯そうなんか」
ウッズは気まづそうにそう言った。 敬はそれを見て苦笑した。
「別に気にすることないよ」
そう、気にすることはないのだ。 気にされたら僕がいたたまれなくなる。
「そうか。 ほんなら依頼受けようか」
「うん」
それからケネスと敬は依頼を受けた。
受けた依頼はオークキングと群れの依頼だ。
どうやら森の浅いところにオークの群れとオークキングがいたようだ。
それの詳しい場所を聞き、敬とウッズは雑談しながら向かった。
「ほぅ、これは多いなぁ」
「うん、かなり多いね」
敬とウッズは少し遠くからそれを見た。 オークの数は見える範囲だけでも30以上はいた。
「敬は大丈夫かいな?」
「うん。 全然大丈夫だよ」
「そうか。 ほな行くで」
ウッズはそう言って走り出した。 敬もそれに続く。 ウッズはオークの攻撃を躱しながら剣で斬り裂いていく。
敬はウッズに当たらないように魔法で片っ端から斬り裂いていく。
二人のオークとの戦いはただの蹂躙だった。 敬はオークの流す血を見ても、もう見慣れたのか気にしない。 ただ、苦しめないように一撃で殺すようにしていた。
しばらくすると、そこらのオークよりもデカくて強そうなオークがいた。
そのオークを敬は容赦なく魔法で首を飛ばして殺した。
「敬の魔法は凄いなぁ。 敬くらい魔法使える人はあんま見たことないで」
「そうかな?」
「そうやで〜。 ほな今から魔石回収してこか。 オークの魔石は心臓のとこにあるからよろしゅうな。 一個銅貨一枚で売れるんやで?」
「へ、へぇ〜」
敬はお金の種類とかは聞いたが、あまりわからなかった。 値段は読めないし、聞いてもそれが高いのか分からなかったのだ。
それから敬は手を心臓辺りに突っ込んで取って行った。 初めは抵抗もあったが、やらなきゃと思いながらやっていると慣れてきた。
それから結構な時間が経って敬とウッズはギルドに戻った。
「はい、オークの魔石110個とオークキングの魔石一個で銀貨14枚になります」
「ありがとう」
「それで敬くんはCランクに昇格。 オークたくさん倒したからね。 おめでとう。 一日で二つも上がったわね」
「はい」
「それじゃあまたね」
「はい!」
それからウッズと冒険者ギルドを出る。
「敬、ほら取り分や」
ウッズはそう言って敬に銀貨7枚を渡した。
「敬は今からどうするんや?」
「僕?」
「そうや。 今から娼館行かへんか?」
「娼館⋯⋯?」
「知らへんか? 綺麗なお姉さんのいるところや」
「綺麗なお姉さん⋯⋯」
敬はそう言ってゴクリと喉を鳴らした。 敬もいいお年頃だ。 そういうのには興味がある。
「で、でも⋯⋯」
「恥ずかしいんか? 大丈夫や。 そのうち慣れる。
それに、そういう経験も必要やで」
「どうして?」
「将来敬にもいい人が出来るかも知れへんやろ? その時に下手やったらそっぽ向かれるかもしれへんで? 失敗してもええんか?」
「失敗⋯⋯」
敬はその言葉に激しく揺さぶられた。
もう失敗はしたくない。 なら、恥ずかしいが行くべきなのだろう。
「⋯⋯」
「必要ない。 私が相手になる」
フルールが敬の肩に座りながらそう言った。
「⋯⋯! 精霊かいな! 人型の精霊なんて珍しいなんてもんやないで!?」
敬はフルールの言葉の意味が理解出来ず悩んでいたため、ウッズの叫びはスルーされた。
「そう。 忘れた? 私は人型にもなれる。 それに、私は敬のパートナーだから」
「フルール⋯⋯」
敬は、まるで乙女のように目を潤ませてフルールを見た。 フルールは自信満々に胸を張っている。
ウッズはそんな二人を見て逆だろう!なんてツッコミは入れない。 ウッズは空気を読める大人なのだ。
「そんならわいは一人でいくかいな。 敬、機会があったらまた会おうや。 今日は楽しかったで」
「うん。 またね」
「また⋯⋯か。 そうやな。 ほなまたな」
ウッズはそう言って手をひらひらと振って歩いていった。 そのときウッズからは悲しそうな雰囲気を感じたが、気の所為だろうと気にしないことにした。
「それで敬、私は相手をするの?」
フルールにそう聞かれ、敬は首を振った。
「ううん、また今度お願いするよ」
「そう、わかった⋯⋯」
フルールは残念そうにそう言った。 敬はそんなフルールを見なかったことにした。
それから一度街を見て回ろうと思い、寄り道をすることにした。