八話
やっぱり僕は書くよりも読む方が断然好きですね。
「敬くんは起きるのが早いな」
ケネスは庭に出てきて敬にそう言った。 敬はそれに対して曖昧な表情をした。
「は、はい⋯⋯」
「少しは上達したかな? どうだい、また模擬戦してみないかい? ああ、今回は剣だけでだよ」
「いいんですか!? ならお願いします!」
「うん、敬くんは戦うのが好きなのかな?」
敬はそう聞かれ、どう答えようか迷った。
僕は戦うのが好きかもしれない。 だけど、それ以上に強くなりたい。 模擬戦すれば、もっと強くなれるはずだから。
「いえ、それもありますけど⋯⋯、僕は強くなりたいんです。 ⋯⋯今度は失敗しないように」
「失敗しないように⋯⋯?」
「ああ、いえなんでもありません! それよりも模擬戦しません?」
敬は要らないことを言ってしまい、慌ててそう言った。
危ない。 もしバレたら記憶喪失じゃないことがバレてしまう。
「あ、ああ、確かにそうだね」
ケネスはそう言うと、敬から距離をとって剣を構えた。 敬も構え、ケネスをじっと観察した。
そして、ケネスが敬に向かって走った。 その速度は普通の人間では不可能な速度が出ている。
ケネスは敬に剣を振り下ろした。
その剣を敬は自分の剣で受け止めると、足蹴りを放った。
ケネスはそれを軽く避けると、剣を振り下ろした。
それを敬は躱し、すぐに斬り掛かる。
ケネスと敬は、お互い一歩も譲らずに剣戟を続けた。
ケネスがフェイントを掛けても、すぐに敬は立て直す。 一度掛かったフェイントには掛からず、敬からもフェイントをかけるようになった。 その敬の成長速度は凄まじかった。 いや、凄まじいで言い表すのは間違いだろう。
異常だった。
それにはケネスも気づいていたが、これが記憶を失う前も剣をやっていたんだと勝手に解釈し、気にしないことにした。
しばらくすると、ケネスの気が緩み、そこを敬に木剣を飛ばされて終わった。
「いやー凄いね敬くんは。 本当に前は何をしていたんだか」
「あはは⋯⋯わかりません」
敬は気まづそうにそう言った。 それも仕方がないことだろう。 まさか一晩練習しただけで剣がここまで上手くなるとは思わなかった。 これには敬自身も驚いた。
「そんなに気まづそうにしないでくれ。 敬くん、実は寝ていないんだろう? ソフィアが言っていたよ。 部屋を見てみても居ないからもしやと思って庭に行ったら敬くんが練習をしていたとね。 本当に大したものだよ」
「い、いえ! そんなことはないですよ」
「いーや、大したものさ。 それに、謙遜しすぎるのは良くないよ?」
「⋯⋯謙遜なんかではないですよ」
ケネスは敬の事をじっと見た。 その表情は真剣で、何か大切なことを言おうとしているようだった。
「⋯⋯正直、君には嫉妬するよ」
「へ?」
敬はいきなり言われた言葉ご理解出来ずに変な声を上げた。 だが、その言葉を理解すると、申し訳なさそうにする。
「世の中そんなものさ。 どうしてあいつだけ、なんて思ったり⋯⋯言われたこともあったかな」
「⋯⋯」
「でもね、みんなそれ以上に思うことがあるんだよ」
「思うこと⋯⋯?」
「そう。 みんな憧れるのさ。 そうして自分も頑張ろうと思える。 本当に強い奴ってのは心も強いんだよ。 自分なら音をあげるだろうことも耐える。 それとは逆に弱い奴は心も弱い」
「そう⋯⋯なんでしょうか?」
「そうさ。 だから何を言われても気にするな。 敬くんは強い。 心も体も。 それに、そんなに気まづそうにしていたら負けた人に失礼だろう?」
「⋯⋯すいません」
「はははっ、だから気にする事はないって。 まあそれはそのうち直していけばいいかな。 それで敬くん。 まだ体力はあるかい? もう一戦しないかな?」
敬はケネスの問いかけに元気よく頷いた。
「はい! もちろんです!」
「よし、それじゃあ行くよ!」
「はい!」
それから敬とケネスは、みんなが起きるまで模擬戦を続けた。
「おはよう。 敬とお父さんは朝から元気ね?」
アナスタシアが敬とケネスにそう言った。
「はははっ、敬くんにはかなわないよ」
「そうね。 敬は身体大丈夫なの?」
そういえば起きてたのバレていたんだ。 まぁファンタジー世界だし、バレても問題ないだろう。
「うん。 全然大丈夫だよ」
敬がそう言うと、アナスタシアは溜息を吐いた。
「確かにそうよね。 聞いた私が間違いだったわ」
「あはは⋯⋯」
敬はそう返すのが精一杯だった。
「敬、剣も使えるんだね! 記憶失う前はSランク冒険者だったりして」
「確かにありえるわね。 まぁいいじゃない。 そいえば敬って今日は何をするの?」
「今日⋯⋯? 今日は剣の練習か冒険者ギルドに行ってみたいな」
「冒険者ギルド⋯⋯? いいわね。 私たちも行きましょうか」
「いいねお姉ちゃん。 敬の初めてじゃないかもしれない依頼を一緒に受けよう」
「初めてじゃないかもって⋯⋯」
「いいわね」
「みんな〜、そろそろご飯にしましょう」
アンナにそう言われ、みんな席に座って食べ始めた。
それから食べ終えると、ケネスは剣を持ってそそくさとどこかへ行った。
「ケネスさんは?」
「ああ、お父さん? なんか最近依頼で剣を教えているんだって」
「へぇ、そうなんだ」
ケネスさんに教えて欲しい人はたくさんいるだろう。
「それじゃあ、行きましょう」
「うん」
敬達は冒険者ギルドに向かった。
しばらく歩いていると、少し大きめの建物についた。
そこにアナスタシアとアメリーが入っていったため、敬も慌てて追いかける。
中に入ると、武器や鎧を来た人達が結構いた。
敬は少し恐縮しながらアメリーとアナスタシアについて行く。
受付に着くと、そこには美人さんがいた。
その美人さんは笑顔を浮かべた。
「あら? アメリーとアナじゃない。 そっちの子はどうしたの?」
受付嬢へアメリーとアナスタシアとは仲が良いのかそう言った。
「この人は敬。 見た目は弱そうだけど、実はかなり強いわよ」
「⋯⋯そうなの? そんなふうには見えないけれど」
「ううん、本当だよ? お父さんにも勝ったし」
「ケネスさんに!? それは凄いわね」
「そうだよね? それで、敬の冒険者登録しに来たの」
「わかったわ。 それで、敬くん?でいいわよね? 説明は聞く?」
それならアナスタシアに聞いた。 聞く必要はないだろう。
「大丈夫です」
「そう? わかったわ。 それじゃあこのカードに魔力を流してくれる?」
「魔力をですか? わかりました」
敬は受付嬢に渡されたカードに魔力を流した。
「それじゃあそのカードを無くさないようにしてね? それが無くなるとランクがFからになるから」
「はい、わかりました」
「はい。 それでアメリー達は何か依頼を受けるの?」
「うん、何か依頼ない?」
「そうねぇ、オーガの討伐なんてどうかしら?」
「オーガね。 敬とアナスタシアはそれでいい?」
アメリーは敬とアナスタシアにそう聞いた。 敬とアナスタシアは頷くと、アメリーは冒険者カードを受付嬢に渡した。
受付嬢は何か機械を操作すると、また冒険者カードをアメリーに返した。
「オーガの牙二本と魔石一個につき銅貨5枚ね。 それじゃあ気をつけてね」
そう受付嬢さんに言われてギルドを出た。
⋯⋯オーガか。
森では色々な魔物を見たけど、どれがオーガか分からないな。 でも、少し大きめの牙がある魔物なら見たな。 一つ目で角が生えてた。 岩を投げてきて怖かったなあ。
敬はそんな事を考えながらアメリーとアナスタシアとについて行った。
その道中、ふと思ったことがあった。
「ねぇ、僕ってFランクだよね? それなのにあの依頼受けても大丈夫なの?」
「⋯⋯? ええ、護衛依頼でもなければ大丈夫よ? ただ失敗するとポイントが引かれてランクが下がるだけ」
「Fランクでも下がるの?」
「ええ、Fランクの下はGね。 Gランクだと受けられるクエストが制限されるわね」
「へぇー。 そいえばあの機械ってなんだったの?」
「あの機械⋯⋯? ああ、受付にあったやつ? あれは魔道具よ。 魔道具ギルドもあって、その人達が量産しているの」
「そうなんだ⋯⋯」
敬達が歩いていると、小さな女の子と、その母親に見える人達が手を繋いで歩いていた。 その様子を見て敬は懐かしく感じた。 そして羨ましさと悲しさを感じた。
敬は三人家族で、裕福な家庭に生まれた。 それから幸せに暮らしていたが、中学生になりテストで悪い点数を取ってしまった。 それに対して母は怒った。 不幸なことに敬の父はゲームが好きでよく敬とゲームをしていた。 そのせいか母は父にも怒った。 それから母と父の仲は悪くなった。 それは、敬がいい点数を取り続けても続いた。 敬はこの事を自分のせいだと責め続けていた。 だから仲のいい家族の様子を見る度に羨ましさと後悔を感じていた。
「敬、どうしたの?」
「ん? いや、なんでもないよ」
「そう? とっても悲しそうな顔してたけど⋯⋯」
「本当になんでもないよ」
「本当? ならいいけど」
敬はさっきの母娘を最後にもう一度見た。
「お母さん、あれ欲しいー!」
「ダメよ。 また今度ね」
「えぇー! 買ってよぉー!」
「ダメ。 そんなに我儘言ってると死攫いに会っちゃうわよ」
「えぇー。 うぅ、わかった。」
「うん、良い子ね」
それから母娘はそのままどこかへ歩いていった。 敬は女の子が死攫いと聞いてすぐに諦めたことに驚いた。
「ねえ、死攫いって何?」
「死攫い? ああ、怖い魔女だよ」
「怖い魔女?」
「うん、稀に現れて気に入らない人達を殺しちゃうんだよ」
「それを誰も止めないの?」
敬がそう聞くとアメリーは曖昧な表情になった。
「止めれないんだよ。 宮廷魔法士が向かった時にはいないし、魔女は一人じゃないしね」
「止められない⋯⋯? 冒険者達でも勝てないのかな?」
「うん、多分無理だよ。 街一つ氷漬けにしたり、軍を差し向けられてもみんな返り討ち。 挑んだ人はみんな殺されちゃったの」
「そんな!」
酷い。 どうしてそんなことを⋯⋯。
「でもね、それでいいこともあるんだよ?」
「いいこと?」
「そう。 悪いことをしている人は悪さをしづらくなったしね」
「そうなんだ⋯⋯」
どうにも現実味がない。
人がたくさん死んでいるのだろうが、どうにも実感がない。
「敬が気にすることないよ。 それじゃあ行こ」
「うん。 わかった」
敬達は街を出て森に向かった。
ストーリー大まかには決めていたんですけど、変更しました。 なんか戦争のこととか詳しくないので書ける自信が無いんですよね。