四話
少し走ると、人型の魔物がいた。 その魔物は人にしては大きく、とても筋肉がありそうだった。 そして、後ろからでもいかつそうな顔が想像出来そうで、角がはえている。
敬はそれに向けて魔力を魔物だけを切るくらいの大きさで少し弱めに風の刃を放った。
魔物に風の刃は当たったが、少し傷が付いた程度で切れなかった。 魔物の肉体が強度過ぎただけどが、敬はそれが自分の威力が弱すぎると勘違いした。
くそっ! 不意打ちで当てれたのに倒せなかった。 次からはもっと強く攻撃しよう。
魔物は敬の方を怒りに満ちたような顔で見た。 敬は足がすくみそうになるが、気合いを入れてもう一度魔法を放つ。
しかし、魔物ほそれを躱し、石をすごい速度で投げてきた。
敬はそれをギリギリのところで回避すると、また魔法を放つ。
何回か連続で放つも、外し、魔物は敬に物を投げながら近づいた。
敬はそれを、焦らないように魔物に狙いをつけて、空気の塊を弾丸のように何発も同時に飛ばした。
魔物はそれを避けれず、命中すると、体にたくさんの穴を空けて倒れた。
敬はそれを見て安堵すると、フルールの方を期待を込めた目で見た。
「中々上出来。 少しづつ狙いも良くなってるし、魔法も変えるタイミングがよかった」
「うん、別ののでも練習しといて良かったよ。 でも、やっぱり魔法がまだ上手くつかえないか、魔法の練習しながらいくよ」
「それはいい考え。 敬は魔力が多いからそれでも問題ない」
「よかった〜僕の魔力が多くて」
敬はそれから練習しながら歩いていった。 魔物に遭遇しても、すぐに風の刃と塊を放って倒す。 それを繰り返した。
それからしばらく進んでいくと、敬は止まった。 敬の視界にはかなりやばそうな魔物が見えた。
「あれは⋯⋯ドラゴン?」
「そう。 少し気をつけて」
「少し? いやいやいや、普通にやばそうなんだけど」
「敬なら余裕」
「⋯⋯なんだかその言葉が信じられなくなってきた」
すると、精霊は少しムッとした様子で敬を睨んだ。
「どうしてそんなに弱気なの? 敬なら普通に勝てる相手」
「⋯⋯そうなのかな? 僕はドラゴンと戦ったことがないからわからないよ」
「⋯⋯それもそう。 なら、今から試せばいい」
「うぅ、わかったよ」
敬は少し強めに魔力を込めて小さな空気の塊を放った。
すると、それはドラゴンの鱗に当たり、少し凹んだ。
ドラゴンは伏せて寝ているような状態から起き上がり、敬を睨んだ。
それからドラゴンの顔の少し前に光が出てきて、それが少しずつ大きくなっていく。
敬はそれを見てやばいと感じるとすぐに横に走った。 すると、自分の元いた場所にはドラゴンが放った光のレーザーのようなものが通り過ぎていった。
その攻撃の跡を見ると、かなり地面がえぐれていて、受けたら無事では済まないだろう。
まずい! まずいまずいまずい! あんなのくらったら死んじゃう! 殺られる前に殺らなきゃ!
敬は腕を上に掲げた。 それから魔法を使うと同時に腕を下げると、ドラゴンは地面にめり込んだ。
魔法で空気を上からドラゴンに叩きつけたのだ。 しかし、ドラゴンはすぐに起き上がると、またこちらに向けてさっきの攻撃をしようとした。
敬はそれを見て、魔法を放ちながら走る。 ドラゴンを中心に円を作る形で動いている。
魔法は空気の塊で、かなり魔力を込めて飛ばしている。
そのため、ドラゴンの鱗を貫通しているが、ドラゴンは倒れる様子はない。 当たりどころが悪いからだろう。
ドラゴンは敬の攻撃に怯まず、レーザーのような攻撃を敬目掛けて放ち続ける。
敬はその攻撃を見て、狙いを頭に決めた。
それかれ風の刃をドラゴンの頭部へ向けて何発も放つ。
しかし、風の刃は全部レーザーのような攻撃で消された。
くそ! それならドラゴンでも消せないくらいの威力で放つ!
敬は集中して魔力を込めると、風の刃を今の敬の全力で放った。
すると、ドラゴンは一瞬にして真っ二つに引き裂かれた。
その刃はドラゴンだけではなく、地面や木を切り裂いていった。
地面はかなり奥深くまでえぐれ、森にかなり大きな跡を残した。
敬はそれを見てポカーンとし、フルールは呆れたような様子だった。
「なんかやりすぎたなあ」
敬は今の出来事をなかったことにしようと、そそくさと進んでいく。
フルールはそんな敬に溜息を吐いた。
「敬なら倒せるって言った。 それに、普通の攻撃でもそこそこ怪我を与えれていたし、わざわざドラゴンの攻撃に真っ向から挑む必要はなかった」
「うぅ、確かにそうだよね。 でも、あのドラゴンの攻撃しつこかったし、どうすればいいのかわからなかったし」
「確かに。 敬はまだまだ経験が足りない。 だから今回も仕方ない。 それに、倒せたから問題ない」
「う、もっと考えるよ。 それにしても、なんだか明るくなってきたね。 少し森の外に近づいた?」
「まだ、あと半分以上ある。 でも、魔素の量が少し減っていってるから魔物も弱くなってくと思う」
「そうなの!? それならよかった。 魔物が弱くなるなら少し安心できる」
「油断は禁物。 敬は経験が浅いからもっと注意して」
「うぅ、確かにそうだね」
そうだ。 僕は魔法で遠距離から攻撃しているだけだ。 もし至近距離に近づかれたらきついし、慣れていない。 もっと気をつけないと。
「よし、なら集中して走る!」
「はぁ、そんなに早く森から出たいの?」
「当たり前じゃん。 早く森を抜けてのんびり休みたい」
「そう、なら気をつけてね」
「うん、それじゃいくよ!」
敬はそう言って走って森の外に向かった。 魔物に遭遇するも、すぐに風の刃で切り裂き、魔物からの不意打ちもフルールが敬に伝えることで危うげなく倒していた。 しばらく進んでいると、ほとんど魔物も出なくなり、かなり明るくなっていた。
敬がさらに進んでいると、何かがいる音が聞こえた。
敬は木の影に隠れて様子を見ると、そこには敬よりも歳上に見える女性がいた。
その女性は短剣の入った鞘を持っている。
どうしよう? 話しかけようかな? なんだか緊張する。
敬が躊躇っていると、フルールが首を傾げて、「どうして話しかけないの?」と聞いてきた。
「そうだよね⋯⋯。 よし、話しかけてみる!」
敬はゆっくり女の子に近づいていくと、「あのう、こんにちは」と言った。
「⋯⋯こんにちは」
女性は敬を警戒しながらそう言った。 敬はそんな女性の様子を見て苦笑いを浮かべた。
「僕、この森で迷っちゃって。 それで、森から出るにはどっちに行けばいいのかな?」
「⋯⋯あっちだけど。 あなたは冒険者?」
「冒険者⋯⋯? 冒険者って何?」
「⋯⋯あなた冒険者も知らないの!? そんなの子供でも知ってるよ!?」
「⋯⋯」
困ったな、どうしよう。 誰でも知っているようなことを知らないなんて不自然すぎる。 ⋯⋯あ、でも記憶がないことにしちゃえばいいかも。
「どうしたの?」
「僕⋯⋯実は森にいてね。 あんまり記憶がないんだ」
「⋯⋯それって記憶喪失? 噂には聞いていたけど、初めて見た」
「えぇっと、それで精霊に会って助けてもらってここに来たんだ」
「そうだったんだ⋯⋯。 精霊が助けてくれるなんて珍しい⋯⋯。 でも、するとあなた行く宛はあるの?」
「行く宛?」
「そう、あなた見たところ何かを持っている様子もないし、森から出てどこに行くの?」
「それは⋯⋯」
そういえば何も決めていなかった。 この森から出ようと思ったのは生きるためだ。 なら、僕はこれからどうしよう。
「ないならしばらく私の家に来る? 何も分からないと大変でしょ?」
「それは嬉しいけど⋯⋯でも、それだと家に迷惑がかからない?」
「大丈夫よ。 まあ、手伝いなんかはしてもらうけどね。 それで来るの?」
「⋯⋯うん。 そうさせてもらうよ」
「それじゃあ自己紹介しましょう。 私はアナスタシア。 あなたは⋯⋯名前わかる?」
今からお世話になる人に嘘をつくのは良くない。 それに、言っても問題ないかな。 あ、でも名字から言うのかな? いや、下の名前だけでもいいか。
「うん。 僕は敬。 これからお世話になります」
「ええ、問題ないわ。 それじゃあ行きましょ」
アナスタシアはそう言うと歩きだした。 敬もそれを追う。
それにしても、フルールは見えてなかったのかな? 普通に僕の肩に座ってたのに。 まあ、後になったらわかるか。
敬はそう考えて納得すると、次は緊張したりワクワクしながらアナスタシアについていった。