一話
有山敬は暗い面持ちで登校していた。
年はまだ15歳で幼さの残る顔立ちをしている。
今日は平日で学校がある。
暗い表情なのは、悪い出来事があったからで、別に連休明けだからとかいう理由ではない。
このままでは遅刻になるのではないかと思える速度で歩いてた。
だからだろう。
車が信号無視して自分の方に向かってきているのに気づかなかった。
逃げなきゃ! と思った時にはもう既に遅く、車に轢かれた。
轢かれたあと、光っているのが見えたがそれどころではなく、意識を手放した。
「ん、ううぅ⋯⋯ここは⋯⋯?」
敬は目が覚めると、石で出来た部屋のような場所にいた。 足元を見てみると、薄らとだが、文字のようなものが見えた。
僕は確か⋯⋯学校に向かっていて、それから⋯⋯⋯⋯車に轢かれた。 なら、目が覚めるのは普通病院じゃないのか⋯⋯? ここは苔が生えてるし、人がいるような形跡がない。 ならここは一体どこ?
敬は立ち上がって歩こうかと思ったが、変な感触を感じて顔をこわばらせた。
気になって自分の服を見てみると、血がついていた。
これは⋯⋯血? どうして血が⋯⋯いや、轢かれたんだから血が出てもおかしくはないか。
敬は体を見回した。
しかし、怪我をしているところは見当たらない。
どうして⋯⋯? 怪我はしたはず⋯⋯。 いや、もしかしたらここは夢なのかもしれない。
なんだか体がとても軽いし、なんでもできそうな気分だ。
敬は表情を少し緩めた。
だが、ここに居ては何もわからないと考え、とりあえず部屋の外に出ることにした。
部屋の外に出ると、大広間のようなところへ出た。 そこには、階段のようなものや外に続くであろう扉があり、ボロボロになっていた。
かなり暗くて怖い。 まるでお化け屋敷みたいだ。
これは何かのドッキリかな? でも、とても嫌な予感がする。
敬は少し緊張気味に外へ続くであろう扉を少し開けた。
すると、森があった。
その森は夜の暗さも相まって、より一層不気味に感じた。
敬は鳥肌を立てて、その場に蹲った。
どうしていいかも分からず、怖くて敬は涙を流した。
怖い。
怖いよ。
どうして僕はこんなところにいるの? 他に誰か居ないの? 僕はこれからどうすればいいの⋯⋯?
敬がしばらくその場に蹲っていると、物音が聞こえた。
擦れているような音で、まるで何かが移動しているような音だった。
その音は階段の方から聞こえた。
敬はその方向を見ると、蛇がいた。
だが、その蛇は敬が今まで見たこともないくらいに大きくて、敬を軽く丸呑みしてしまいそうな大きさだった。
な、なに⋯⋯? なんでこんな生き物が? 逃げなきゃ。 逃げなきゃ⋯⋯死ぬ!
敬はそう思って動こうとするが、足が震えてなかなか立ち上がれない。
だが、そんな敬に無慈悲にも蛇はゆっくりと敬に近づいていく。
その動きはとても余裕そうで、まるで敬を捕食するのは当然といった様子だ。
⋯⋯ダメだ。 早く逃げないと。
敬は蛇に背中を向けると、全力で走った。 後ろも振り返らず、森の中に。
そんな敬を蛇は巨体を楽々と動かして追う。
敬の走る速度はクラスで中の上くらいだ。
にもかかわらず、とても早い速度で駆ける。
その走っている様子を見れば、誰もが驚くだろう。
だが、敬はそれだけでなく木にぶつかるような様子も無かった。
普通そんな速度で走っていればぶつかりそうなものだが、反射神経も上がっているのかぶつかる様子もない。
だが、蛇がはそれでも付いてくる。
「くそ、いつになったら諦めてくれるんだよ⋯⋯」
敬はそう愚痴た。
敬は必死に動いていて普通なら愚痴る余裕もないだろう。
しかし、敬の様子は誰が見ても異常だった。
敬は走っているにもかかわらず、呼吸をしていなかった。
それだけではなく、瞬きもしていなければ疲れている様子もない。
だが、そんな自分の様子に敬は気づかない。
止まれば殺される! 転けても木にぶつかっても死ぬ。 このままずっと走るしかないの!?
敬はそう思いながら走っていると、敬は青ざめた表情になった。
敬の視界には狼がいた。それも、普通の狼に比べて一回り以上大きい。
その狼は敬を見ると、すぐに襲いかかった。
敬は横に転んでそれを躱す。
狼の動きは速かったが、敬もまた速かった。
体だけでなく、思考速度も反射神経も上がっていたからだ。
狼はまた敬に襲いかかろうとして止まる。
狼は敬から目を離すと、蛇を見た。
蛇もまた、狼を見る。
すると、お互い威嚇しあい、今にも襲い掛かりそうな様子だ。
今がチャンスだ。
敬はそんな狼と蛇の様子を見ると、好機と思い、走った。
後ろも振り返らず、できるだけ二匹から離れようと。
必死に走っていると、今までのとは雰囲気の違う場所に着いた。
「ここは⋯⋯?」
森の中で暗いはずなのにさっきよりも明るく、大きな木と池があった。
なんだか安心ここにいると神聖な感じがして安心する。
少しここに居よう。
敬はそう思うと、木の方へ歩いていく。
木の下に着くと、寝転がった。
体は疲れていないが、突然のことで精神的に疲れたせいか、敬は目を瞑ると眠ってしまった。
きっと、眠ってしまったのは精神的に疲れただけでく、ここがそれだけ安心出来たのもあるだろう。
敬は安心した様子で寝ている。
⋯⋯見られているとも気づかずに。