魔法剣士サラナ
「おい、おい、こんな物か?」
「くそっ」
サラナはロザイの折れた箒による連続攻撃に耐えきれず一度後ろに飛び下がった。
折れた箒を使って戦うなど全く持って馬鹿げているが、サラナは一向に攻める事が出来ずに苛立ちを覚えていた。
相手の剣術事態は幼稚で初心者同然なのだが、それを補って余りあるスピードとパワーがロザイの優勢を揺るぎない物にしている。
しかも反射神経も化け物レベルであった。箒を折って以来まだ一撃も攻撃を当てれていない。体どころか攻撃手段である箒にすらだ。
ロザイが攻撃をするときは箒が剣の刃に当たらないように的確な攻撃を繰り返す。何とか刃に当てようと狙っているだが、歪な二刀流のせいでそんな暇を全く与えてくれない。本来であれば両方の刀を使用して攻守優れた剣術なのだが、この男は両方の箒を使い、攻撃120%で攻めてくる。
「やはり二刀流はいいな。普通より二倍で攻めれるし。はぁ、後一本最初から箒があればもっと有利だったのに.....そう思えばこんなに便利なのに何でみんな使わないだろうな?」
普通であれば片手で一つの獲物を振り回すだけでもかなりの筋力が必要になり、短剣でもない限りまともに戦う事など出来ない。しかも片手持ちの剣は両手持ちの剣に競り勝つ事など出来ない。
とてもじゃないが実戦での使用など考えられない。
そうとも知らず、この男は運良く折れた短い箒を使い。人間離れした恵まれた力があるからそう思うだけであって。
「黙れ。お前ごときが剣を語るな」
サラナがそう言うとロザイは馬鹿にするように折れた箒を振り回し。
「なら、サラナさんが俺に勝って、剣術ってもんを教えてくれよ」
くそ、こんな剣術のけの字知らないような初心者に、手も足も出ない自分に心底腹が立つ。
だがこのままでは身体能力を上昇させている補助魔法が切れ魔力切れになり、いずれは負けてしまう。相手はふざけているがこれは一応真剣勝負。敗北すれば対価を取られる。
「仕方ない.....出来れば使いたくは無かったが」
「うん?何言ってんだ?」
魔法剣士のプライドとして、魔法を使わない相手には自分も魔法を使わないと決めているのだが。最早そんな事を言っている場合で無い。しかも今覚えば相手は人間では無いのだ。恥じる事等一切無い。
サラナはもう一度剣を構え。視線だけで相手を殺すような、殺意に満ちた目に変わった。そしてサラナは地面を強く蹴りあげ前へと進んだ。続けてその勢いをつけてロザイ向かって剣を振り下ろした。
ロザイはその気迫に思わず出遅れてしまった。。だがそのサラナ振り下ろされた攻撃は体を捻らし軽々と躱す。
そしてロザイは次の攻撃を先読みする為、そのサラナが振り下ろした剣に目を向けた。
「??」
だが振り下ろされた剣は全く動かない。どうしたのかと思い顔を上げると、
「え?」
その茶髪の女は片手を剣から放し、手の平をロザイの顔に向けている。そしてサラナは勝ちを確信した顔で。
「焼き付くす業火」
サラナは回避不可能な至近距離で広範囲の炎魔法を放った。
ドドドォォォーーーーンンーー
城内はサラナの燃え盛る炎によって、城を侵食していった。恐らくこのまま燃え上がると、丸一日あれば城を焼き付くすだろう
サラナは魔法を放つと、後方に飛び、壁に背中から突撃した。気絶するかのように倒れ込み。だが何とか体を動かし仰向きになった。
「はぁはぁ、これは、ヤバい。魔力..使い過ぎた」
サラナは全力で魔法を放ったことにより、いわゆる魔力切れになってしまった。魔力切れというのは、体中の魔力が極端に少なくなる時に起きる現象だ。魔力切れになると体が尋常じゃない位ダルくなり、全く動く気になれなくなる。そして体が魔力を回復させる為に強烈な睡魔にも襲われる。この状態になると、とてもじゃないが戦いにならない。
サラナは剣を杖代わりに何とか立ち上がった。そして城の手すりに体を預けた。
何とか勝てたが、お爺ちゃんのお酒はもう無理そうだ。魔力切れになってまでやっと倒せたのは、お爺ちゃんが言っていた吸血鬼の王じゃない。本物の吸血鬼はまだこの城にいる。
(今状態じゃとてもじゃないけど、勝てない)
吸血鬼は魔法のプロフェッショナル。あの男は何故か魔法を一切使わなかったが、吸血鬼の王はそうじゃないはず。魔法だけで国を丸々一つ消滅させたぐらいなのだから、なのでこの城が全焼するって事は無いだろ。
(次来た時はこっそり入ってお酒を盗む、あの馬鹿な化け物があいつ一人とは限らないからな)
そう心に決め、壁を這うように大きなドアへと一歩一歩足を進めていった。
そして遂にドアの目の前に立ち、ドアノブへと手を伸ばした瞬間。
トン、トン、トン
後方から突如誰かの足音が聞こえた。
誰が歩いてくるのかは何となく分かる。燃え盛る業火の中を軽々と歩き来る。この渾身の魔法でさえ、物ともしていない。恐らく今後ろにいるのが吸血鬼の王なのだろう。
サラナはグッと全身の力を抜き、息を整えた。
ここで戦うのはもう無理だ。勝てる勝てないの話ではない。このほぼ全魔力を注ぎ込んだ炎魔法を、消そうともせずに楽々と歩き抜ける相手だ。例え私が万全の状態でも戦いにすらならない。
だがここで何もしないで殺される訳にもいかない。逆に考えれば最初に門番と戦えただけまだラッキーと考えよう。最初から吸血鬼の王と戦っていたら、もうその時点で詰んでいたのだから。
相手が馬鹿な門番とはいえ、門番は私の挑戦を受け。私は勝負に勝った。対価を掛けた試合に勝てたのだ。
この事実がある限り、この勝利の対価を《逃がして貰う》のに使えばいい。
サラナは覚悟を決めて後ろを振り返った。
「あんな事を言っておいて、急に魔法を使いだすのはどうかしてるぞ。ほらお前のせいでこの箒がボロボロだ」
「は?」
ふざけた事を言いながら灰を手に載せていたのは、先ほどの自称半吸血鬼の男。ロザイ本人であった。
さっきの魔法は確実に命中していた。確実に本人もろとも灰になっていたはずだ。躱そうとしてもあの攻撃範囲で躱わけるはずなどない。だからといって防御魔法もしていなかったはず。
「な、何故お前が生きている?先程の魔法で.....」
「悪いが、俺は魔法が効きにくい体質でな、さっきに炎ではダメージを与えれても、俺を倒す事は出来ないぞ」
その男の姿を見ると、着ているスーツはボロボロだが、本人は軽い火傷程度で五体満足だ。とてもあの魔法が直撃したとは思えない。
「その様子を見るに魔力切れのようだな、ってことは俺の勝ちか」
ロザイは手を払い灰を捨て、サラナに向かって手を伸ばした。
「く、....くそ、ここまでか....」
サラナは迫り来るロザイ腕が到達する前に、意識が切れた。
「くっ、ここは?」
サラナが目が覚めると、何故だかベッドで寝かされている。そして体全身に力が入らない事から魔力が少ないのが分かった。
「うっ...」
体を動かそうとしたが、ガラガラと音がするだけで、手や足が固定されていて全く動かない。
その瞬間にあの化け物の半吸血鬼に負けた事を思いだした。そして対価を掛けたあの約束も。
ヤバい、逃げないと、このままじゃ殺される。
「おっ、起きたな」
だがもう既にその男は隣に座っていた。男は注射器のような物を持ち、針をちらつかしながら。
「では、対価を頂くぞ」