プロローグ
「これで最後の一匹だぁぁぁぁ」
「「「「「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」」」」」
ある日人類は吸血鬼が住む夜孤城を侵略した。突然の襲撃により吸血鬼達は死力で戦いに挑んだものの圧倒的な数に加え、時間が昼間なのもあり、抵抗も虚しく瞬く間に全滅させられた。人類は吸血鬼に奪われていた領土も城を手に入れ。あの強き吸血鬼が全滅した事を知り、各国で大いに祝杯を上げた。
その時この城の主であり、吸血鬼の王、カイミサナはこの城に不在であった。
夜になりカイミサナが戻ってくると、自分の城に沢山の人間が笑顔で両手いっぱいに酒を酌み交わしているのが見えた。
「ほう、また人間共が血を献上しに参ったか。それにしても今宵は大量じゃのう」
昔から人間とは生き方の違い故に常に争い続けていた。だが最近になってその長年の争いに終止符が打たれた。人間は血を献上し吸血鬼は酒やワイン等を振る舞う事に契約を結び、その関係が3年程続き昔では考えられない程、友好な間柄となった。最初の頃は決められた時間に決められた人数のみの血を決められただけ貰い。一回一回契約書を書き、わしが絶対に見届けなければならない、かなり面倒くさいやり取りを行っていた。だが時が経つのにつれ、
最初は怖がっていた人間達もしっかりとルールさえ守っていればこちらからは何もしない事を知り、その事を知った人間達が酒やワイン欲しさに自ら喜んでやって来るように
なった。吸血鬼の大半も最初は反対していたものの苦労せずとも新鮮な血をいただける事を知り、今ではもう反対する者がほとんど居ない。
そしてもうわしが居なくても人間と吸血鬼同士が契約書もなしに仲良く取引をするまでになった。
「そのお陰で三百年ぶりに城の外に出ることが出来るじゃからのぅ」
カイミサナは人間と吸血鬼が共に暮らせる世界を望んでいた。
お互い争わないで仲良く出来る世界を
だがそれは簡単な道のりでは無かった。会話すらまともにしようとしない人間が余りにも多かった。だが攻めに来た人間達を無条件で解放し、それを続けている内に信頼を得て、ついに今の状況まで持ってきた。遂に人間と吸血鬼が共に暮らせる理想の世界まで後一歩だ。
カイミサナはこの人間が溢れる自分の城を眺めて深く感傷していた。
だが見ていて何かが引っ掛かる、何か大切な物がないような、
しかも城が前より傷だらけになっているような....まぁ気のせいだ。久しぶり外から城を見るからだろうな
何か引っ掛かりを感じたままカイミサナは城に戻ってきた。
「おい、外を見ろ、何かがこっちに向かって飛んでくるぞ、あれ吸血鬼じゃないか。」
「そんな訳ねぇだろ、吸血鬼は一人残らず殺したんだからもう生き残っているはずないだろ」
そう言いながらもやはり気になり皆がその兵士が向いてる方向を見た。
すると満月に照らされ少し明るい夜の空を何かがこちらに向かって飛んで来るのが見えた。
幼女の見た目に羽を生やし、まるで天使のようなシルエット
「「「「「!!」」」」」
雲が晴れ、その姿がハッキリと見えた。
漆黒の翼。髪は黒色で目は美しい紅色、肌は美しく透き通っていた。そして口からは鋭く尖った長い八重歯が見えた。
この特徴からしてあの少女が吸血鬼であることを皆が確信した。そしてその吸血鬼を見て、城の中はパニック状態となった。
「おい、マジかよ隊長をよべ」
「俺ならここにいるぞ、そこまで慌てて一体どうした。」
奥から一人の男が出て来た。この作戦の最大の責任者であり、この城の中いる人間の中で最も強い人物でハクライが姿を表した。
「た、隊長、アレを」
「なんだ、なんだまさか吸血鬼でも現れたって言うのか?まぁ今更野良の吸血鬼が現れたぐらい何とでも、、、」
ハメクライはその人物を見た瞬間、全身から汗が溢れだした。
あの最強の隊長が顔を強張らせているのを見てその吸血鬼は隊長が知っている人物だという事が見て取れた。
「あ、あの隊長、あの吸血鬼は隊長が知っている吸血鬼ですか?」
「ふふふ、ふはははははははははは」
急に狂ったように笑い出した隊長を見て、全員がどうしたのか分からず戸惑っていた。
その狂った隊長は続けて、
「ははは、やっぱりおかしいと思ったんだよな、こんな簡単に作戦が成功したのはよぉ、そして誰一人として少女の吸血鬼を見てないっていうのがな」
一人の兵士が恐る恐る笑い狂った隊長に。
「そ、そのあの吸血鬼はお強いのですか?」
「ああ、かなり強いぞ。っていうか、吸血鬼の王の姿ぐらい覚えておけよ。今時商人どころかただの町人ですら知ってるぞ。
お前たち急いで武器を持って装備を整えて戦闘準備をしろ、後この情報を城にいる奴ら全員に大至急で伝えろよ」
突然の隊長ハメクライは真剣な表情に戻り、この城を占拠した全員に戦闘準備の指令を加えた。突然の戦闘準備により隊員たちは戸惑を隠せないでいた。そんな中、一人の兵士が
「隊長、恐れながら確かに吸血鬼は夜に特に満月の夜にさらに強くなることは知っています。ですが隊員全員に戦闘準備をさせる程なのですか?」
ハメクライはその言葉を聞き、真剣な表情のまま口元だけニヤリと笑い。
「そうだな、あり得ない。絶対にあり得ないが、もし昼間の吸血鬼全員とあいつが戦えば俺は間違いなくあいつが圧勝すると思っている。そもそもこの作戦の本質はあいつを殺すためだったからな。何であいつがこの城にいないのか分からないが、これだけは言える。あいつと夜に戦う時点でこの作戦は失敗だ」
その言葉を聞き半信半疑ながらもあの隊長がそう言うのだから弱いはずが無いと思い。各隊員は急いで装備を整えた。
「た、隊長、奴がもう着ました。」
漆黒の姿をした可愛き幼女の吸血鬼が窓辺にそっと降り立った。
「皆さんご機嫌よう、今宵は満月ですので存分にお酒やワイン等をお楽しみください。ですが飲み過ぎには注意して下さいね。でないと対価の血を致死量まで頂きますので」