11月18日 昼 ファミリーセブン南池袋店 ⑥
どさっ――
私の言葉とともに智子さんの首から時田美鈴の手が離れ、智子さんは床に膝をついた。
「ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ! ……うらっち……。いったいどういうこと?」
「いいから早く行って! 洋子さんと俊太さんが、智子さんの帰りを待っているから!」
「でも、スマホも荷物もまだイートインスペースに置きっぱなし……」
「いいから、早く行って! お願い!」
有無を言わせぬ私の気迫に押しだされるように、智子さんが自動扉の方へ踏み出す。
依然として時田美鈴の霊は彼女の背中にぴたりと貼りついていた。
私が変な真似をしようものなら、今度こそ智子さんの首を締めあげるつもりなのだろうことは、刺すような冷たい視線を私に向け続けていることからも明らかだ。
そのため、私はただ、歯を食いしばったまま、彼女が店の外へと向かうのを見つめているより他なかった。
「うらっち……」
智子さんの消え入りそうな声が、胸の奥に押し殺した『もう一人の自分』に触れる。
それまで我慢してきた悔し涙が溢れだした。
火照った頬に熱い涙が一本の筋を通すと、雫となって床にぽたりぽたりと黒いしみを作っていく。
心配そうな智子さんの視線がちらちらと送られてくるたびに、無力な自分が余計にみじめに感じられた。
それでも嗚咽だけはどうにか抑えて、ただ自動扉の開く大きな音に耳を傾けていたのだった。
……と、その時だった。
「うらっち!!」
弾けるような明るい声が耳に飛び込んできたのである。
うつむいていた顔をはっと上げる。
すると……。
見えてきたのは智子さんの太陽のような笑顔だった――
「大丈夫だから!! 何が起こってるか分からないけど、うちがどうにかしてみせる!」
「智子さん……。なんで……? なんでそんなことが言えるの?」
私には智子さんの心境が全然分からなかった。
彼女が家に戻れば、なんらかの理由で長坂家に恨みを持った時田俊太によって酷い目にあわされるのは、火を見るより明らかだ。
そのことは彼女だって、きっと気付いているはず……。
なのに彼女は、なぜ瞳を輝かせながら高らかと告げたのだろう。
「だってうちら『家族』だもん!!」
と――
そして、すぐに智子さんの後ろ姿は見えなくなった。
……が、その時、私は気付いてしまったのだ……。
時田美鈴の視線に――
そう、それは、智子さんの様子などまるで興味がないかのように、終始私だけを見つめ続けている視線。
――霊は必ず人を見ているはずよ。
――怨霊の役目は人を呪うことだから……。
なぜ……?
なぜ時田美鈴は『浅間麗』を見つめているの――
「言ったでしょう? 私は『見送りにきた』と……」
「ま、まさか……!」
そう私がつぶやいた瞬間だった。
喉に鋭い痛みが走ったとたんに、呼吸ができなくなったのは――





