第7話:女の子が増えたら、やっぱり海水浴でしょ(Aパート)
GWに起きた「ばれちゃった」事件からあとは、特にトラブルもなく日々が過ぎた。けなやマデによると、あの日のことはまるで「無かった」かのような日常が翌日から訪れたらしい。みんな大らかだな。私ならグズグズ引きずりそうだ。
美香の18金アクセサリーのほうも、ぼちぼち売れてるらしい。ぼちぼちなのは、評価が悪いのではなくて、あのサンプルを見せた上で、より高いオーダーメイドを受注しようとしてるからのようだ。まぁ、1個あたり原価の数倍で捌けるみたいなので、一気に売ると今年の売り上げが多くなりすぎて税金が大変なことになるから、丁度良いかもしれない。そのあたりは美香も十分わかってるだろうしな。
仮想空間の方は、結構すぐに飽きてきたので、今は週末に遊ぶ程度だ。ただ、機能は無駄に増えている。最初のプレイルーム以外に、真面目な会議室ができて、世界中のどんなパソコンよりも高性能な仮想PC上で、ありとあらゆるソフトが動くようになっている。CADとか使うととても快適なのだが、ちょっと解像度が足りないので、今の所実用にはなってない。
いっそ、うちのPCをThin client端末にして、ゾラ子をサーバーにしようかと思ったが、ネットが繋がらないと使えないリスクが怖いのと、カエリ村にはまだ光回線が引けないので、帯域が足りなさそうなので保留している。
それに自分でやるよりゾラ子に直接頼んだ方が早いからな。エンジニアとしてはダメダメな気もするが、もうプログラマーは引退でいいかもしれない。
かえり村のみかんの方も、肥料を入れたり、最初の摘果をしたりと、忙しい毎日を送ってるらしい。なにせ、栽培面積に対して就労人口が少ないからな。あと、山の斜面だし。私だったら、1日で筋肉痛で動けなくなるのは間違いない。美香より重い物は持ち上げない毎日だしな(それって結構重いか)。
ついでに言うと、コスプレ衣装が増えた。もちろんゾラ子作だ。最初は不織布の安っぽさがあったのだが、布の質感の再現や、縫い目の生成など、細かい調整を経て、今や見た目だけなら本物の布で作ったものを超えた、といっても過言ではないクオリティーになっている。ただ、通気性や吸湿性に関しては、技術的には解決できるものの、出力時間がかかり過ぎてコスト的に合わないので、今の所コスプレ衣装止まりである。とは言え、触ると体温で透明になる素材とかも作れるので、色々と面白い衣装ができている。吸盤触手衣装とかは、我ながらかなりの傑作だ。
ちなみに、これらは研究として「経費」にしていて、趣味と税金対策を兼ねている。税務署が調査に来たら、かなり呆れられることになりそうなので、帳簿は気をつけないといけないかもしれない。とはいえ、その経理も、もうゾラ子に丸投げにしてあって、論理武装は完璧なので、どこからも何も言われないはずだ。
それをけなに言うと
「少なくともミチが呆れてるよ」
と返された。そう、マデ子作の衣装を、毎回梱包して送り出してくれてるのが、例のミチなのだ。どうやら彼女はあの後、新たな地球駐在社員に加わったらしいのだ。別に我々の馬鹿な発注が増えたせいではないと思うが、もしそうだとしたら、けなに感謝して貰わないといけないな。
「元々予定されてたらしいよ。地球支社が安定したら、事務要員として来る予定になってたんだって」
何をもって安定としたのかが謎だが。あの一件の結末をそう判断したのだろうか。
「それより、農協から融資が受けられるようになったのが大きいんじゃないかな。ぼや達との契約や取引も、審査にはプラスになったみたい」
実態はペーパーだし、取引したのはみかんじゃなくてスマホアプリやコスプレ衣装なんだけどな。まぁ、MuuChart社は土地の権利を持ってるから、それが担保になったんだろう。
「で、どうやねん、ミチとは上手くいっとんか」
とりあえず仕返しとばかり聞いてみると
「う、上手くって、別に俺とミチとは、そういう関係じゃないし、まだ」
と明らかに狼狽した様子が返って来た。
「まだ、ね」
それって、気があるって言っるのと同じなんだが。本人は気付いてないのかもしれないが、これは村の人にもバレバレな気がする。宇宙人のミチには、そこまでのニュアンスが伝わってるかはわからないが。
そもそも、恋愛感情があるのだろうか、あの宇宙人には。
「そこでだ。そんな君に朗報がある」
今回はそんな与太話をしたいわけじゃないので、そろそろ本題に入らせてもらうことにする。
「朗報?」
「我が嫁が海水浴をご所望なので、その会場を探して欲しいんや」
「それの、どこが朗報なわけ?」
ごもっともだ。どちらかと言えば厄介ごとだ。ただ今回は、男としては悪くない話のはずである。
「その会場には、我々夫婦の他に、マデとけな、そしてミチを招待しようっちゅー計画や。我々男が誘うと警戒されるかもしれんが、美香が誘えば、その心配はない。あいつなら、100%うまく誘いだせるやろう」
「そっちの方が心配だけどね」
まぁ、確かにそうではあるが、美香はミチには手を出さないと言っているから、大丈夫だろう。
「峠の入り口付近の海岸線には、海水浴場があるやけど、知っとるか」
「いや、俺は知らないけど」
そうか、奴は地元民じゃないからな。私は、独身の頃、姪っ子の家族に連れられて、何度か行ったことがあるのだ。ぶっちゃけお守り要員だ。姉は子供を私に押し付けて、旦那とデートしてやがったからな。
「いくつかあって、シーズン中でも割と空いていてよいのだが、できればそういうメジャーなところじゃなくて、一般客が来ない、地元民しか知らないようなビーチがないかと思ってな。なんなら無人島でもいい」
そう、車で走ると、ちょとした海水浴ができそうな砂浜や、小さな砂浜がある小島というか、岩の島が海岸線から見えているのだ。きっと、地元住民なら、良いスポットを知ってるに違いない。
「でも、この村は、そこから峠を登った山奥だよ。地元とは言えないんじゃないかな」
「それでも、遠い青春時代には、きっとその辺で海水浴の一つや二つはやっとるハズやし、親戚とか知り合いが居る奴も、探せばおるやろ」
買い物だって峠の先まで出るのだ。あのあたりだって庭みたいなものだろう。
「まぁ、聞いてみるけど。でも、島はどうするの。船が必要なんじゃない」
ふっふっふ。そこは抜かりはないぞ、けな。
「聞いて驚け。今船舶免許を取るべく、講習を申し込んでいるところや」
「なんでまた!?」
「いや、GWに何度か通った時に『欲しいな』って。お陰さんで、臨時収入もあったしな」
まぁ、それを稼いだのは主に美香とゾラ子だが。
「なので、船が必要そうなら、ついでに漁船かなにか、借りられそうなつても探しておいてくれっちゅーわけや」
「無茶言うね。まぁ、一応聞いてみるけど、当てにしないでよ」
そう言って奴は通話を切った。
ちなみに今回はLINE電話である。MuuChart社に無線LANが入ったおかげで、パケット量を気にしなくてよくなったから、それからは結構使っている。あいつのスマホは格安スマホだから、外で使うとあっという間にパケットが月額上限に達してしまうから、それまではもっぱらDMだったのだが、やはりどうでも良い会話は直接話した方が早い。証拠も残らないしな。
そうそう、私のアイデアで、最近理科室がセルフ居酒屋になっている。理科室なのは、水道があるのと、冷蔵庫があるのと、あとガスが来ている(プロパンだが)ので、酒を冷やすのや、おつまみを用意するのに便利そうだったからだ。
一応狙いは、ここで飲みにケーションをして、親睦を深めることだったりする。ここは経理上は、うちの会社が経営していることになっていて、お酒やおつまみは、例の酒屋に定期的に補充してもらっている。村民からの個別注文も、こっちで取りまとめて渡してるので、酒屋としても文句はないハズだ。光熱費を考えると利益は出ない予定だったのだが、村人が想定外に大酒のみなので、ちょっとだけ利益も出ている。ちなみに、女人禁制である。その理由が「マデを立ち入らせないため」なのは言うまでもない。
そのセルフ居酒屋効果がどうかは不明だが、けなからの返事は割とすぐに来た。
「良さそうな場所、あったよ」
あったのか。あまり期待はしてなかったのだが。
「海岸からは1km離れた岩の島だけど、小さいけど砂浜もあるし、一応簡易の桟橋もあるから、小型の船があれば行けるらしい。以前は地元の子供が泳いて行ってたらしいけど、最近はその子供がいなくなったから、まず貸し切りだろうって」
それはうってつけだな。ただ、さすがに1kmは泳げないから、船も欲しいところだ。
「船も貸してくれるって。元漁船だけど、今は遊びで使ってるだけの船で、2級の免許持ってれば乗れるって」
完璧だな。どうやったんだ。
「テルヨさんが、その漁村からお嫁に来たんだって。で、船を貸してくれるのは、テルヨさんの弟さん。元漁師らしいよ」
なるほど、そのパターンがあったか。これは船舶免許、きっちりと合格しないとな。
「わかった。上出来や。褒美にミチと一緒に誘ってやろう」
「そりゃどうも」
不満そうだな。よし、サービスしてやるか。
「よっしゃ。ほなついでに、水着をミチと一緒に買いに行けるように、裏から手をまわしておいてやろう」
「え、それは」
「そのかわり、車の運転や水着代は、お前が持つんだぞ」
まぁ、それを実現するのは美香になるのだが。元々あいつの希望だ。これだけの働きをしたんだから、引き受けてくれるだろう。
「帰省は7月後半を予定している。詳細は追って連絡するから、検討を祈る」
コミケがあるから、毎年帰省はいつもその時期だ。ちなみに用があるのは、私じゃなくて美香の方である。私も独身時代には何度か行ったけど、入場待機列に並ぶほどの情熱はないから、すぐに行くのは止めた。美香はサークル入場するけど、あいつもコミケは買う側だ。知り合いのサークルの売り子の手伝いをする代わりに、サークル入場券をゲットしているのだ。
ちなみにあいつが手伝うサークルは百合系、買う本は百合とショタだ。それでいて結婚したのが、長身で一回り年上の私というのは、正直よくわからない。自分で言うのも何だが、甲斐性があるわけでもないしな。私だったら、結婚しないだろうなぁ、私とは。
その後、幸い無事船舶免許も取得し、けなはミチの水着を購入することに成功して、7月下旬を迎えることができた。
私と美香もGWに引き続き夜行バスで帰省し、いつものようにレンタカーを借りて、MuuChart社に行ったり、いつものホテルに遊びに行ったり、墓掃除など、実家の手伝いをする日々をすごす。
そしていよいよ、待望の海水浴の日を迎えたのだった。天気は雲りだが、予報では昼には晴れ間も見えるらしいから、期待しておこう。
おかしい、ペースを落とすつもりなのに、もう書きあがってるし。人はこれを「現実逃避」という。一応構成は作ってあるので、毎回Aパートはすぐ書けるんですよね。ただ、構成にオチが含まれてないので、毎回Bパートはぶっつけですけど。ちなみに第7話は構成には「水着回」とだけ書いてありますw。ところでミチは本来メインヒロインになるハズだったんですよね。ヒロインはけなで。だから、もうちょっと早い段階で連絡員としてちょろちょろ出る予定だったんですけど、ぼやと美香にすっかり食われてしまいまして。ここからの巻き返しを著者としては期待したいところですが、果たしてどうなることやら




