第1話:リストラされた同僚の再就職先が宇宙人経営?!(Aパート)
奴からtwitterのDMが来たのはは、最後に会ってから3ヶ月後の事だった。
「ちょっとおつかい頼まれてくれんか」
内容はそれだけで具体的な事は書かれてない。とりあえず
「ええけど。何?、今キミ何やっとんの?」
と返事をしてから、とりあえず、この3ヶ月の事を思い起こしてみた。
私が奴こと「けな(もちろんあだ名である)」と出会ったのは新卒として就職した某ゲーム会社。
同期入社で、同じ部署に配属。借り上げ新人社員用マンションも隣の部屋同士で、しかもお互い子供っぽい遊びが好きだったので、会社帰りはいつも一緒にゲーセンに通い、週末は自転車でボーリングや卓球、カラオケと遊び回る仲だった。
私と奴が所属した部署の仕事は「電子回路設計課」という、ゲームセンターにあるゲーム機の中の回路を設計する仕事で、ゲームを直接作る部署ではなかった。
私自身は希望の職種だったものの、他の同期の6人は必ずしも回路設計が希望ではなく、「回路設計に適正がありそう」という理由で配属されて来ていて、奴も心のなかでは「ゲームを作りたい」と思っていたのは、新人研修の時から分かっていた。
そんな私たちに転機が訪れたのが、日本のトップ家電メーカーが発売した高性能家庭用ゲーム機と、パソコン用グラフィックボードの進化だった。
それまでは自分たちで作るしかなかったゲーム用の高性能なCG描画回路が、数百人レベルの開発者と、何十億の予算を投入した世界中の企業から安く提供されるようになった結果、元々10人程度で開発していたゲーム会社としては、費用対効果がなくなり、私の所属していた「電子回路設計課」も縮小を余技なくされたのである。
そこで、学生時代はプログラムがメインで「これからはプログラマーが増えるから、ライバルの少ない回路設計をやろう」という理由で回路設計を仕事にしていた私は、昔取った杵柄でプログラマーに転向。一方奴は、元々志望していたゲーム企画者への転向し、お互い袂を分かつ形になったのが3年前。さらに規定により、新人社員寮を追い出され、住居も離れ離れになったのもあって、そこからは段々疎遠になっていた。
そんな私が社内SNSで奴の退社を知ったのが3ヶ月前。
日本の不景気や、若者のスマホ志向などで、大規模なリストラが行われたのだが、その対象に奴も含まれていたようだ。転向といっても同じエンジニアとしての私とちがって、奴はまったく違った職種へ、それまでの実績を捨てての挑戦だったから、どうしてもリストラで肩を叩かれ易かったのは想像に難くない。
これは後から聞いた話なのだが、リストラ対象者はかん口令がしかれ、割増退職金と引き換えに直前まで他の社員に知らせてはいけなかったらしいというから、なかなかのブラック企業っぷりである。
そんなわけで、退社直前に退社を知り、当時国内で利用者が増え始めたtwitterのアカウントを交換して、あわただしく分かれた、その3ヶ月後の今日、初めてDMを受け取ったという次第である。
「今みかん農家に『現地人従業員』として雇われてる」
はぁ。確かに別れ際に「今度は誰も知り合いが居ない新天地で、何か違うことをやる」と言っていたような気がするが、なぜみかん農家なのだろうか?
「最初は北海道の酪農会社に応募したけど落ちたから、戻りの列車で読んだ新聞の求人欄に載ってたこの会社に応募した」
うへぇ。なんという衝動的行動。「石橋を叩いて叩き割る直前に渡る」を信条にしてる私には、良くも悪くも絶対無理な行動である。
「で、みかん農家ってどこよ?、和歌山?、熊本?」
とりあえず、なんとなく真っ先に浮かんだ県を除いて聞いてみると
「愛媛県」
との回答。そう、私も愛媛県を真っ先に思い浮かべたものの、予感がしてあえて候補から外したのだ。ただ、こうなると、もう少し詳しく聞かねばならい。
「愛媛のどのへん?」
「カエリ村」
ああやっぱり。同じ寮の隣部屋になって以降、なにかと縁が強いから、そんな気はしたんだが。
「ごめん、けな。誰も知り合いが居ない新天地を目指したキミには悪いけど、そこうちの実家の隣だわ」
「……まじか?」
「……まじ」
実際は隣といっても、奴の村は峠を越えた先にあるいわゆる「限界集落」で、十分田舎な実家から、さらに車で山道を走って1時間はかかる所なのだ。ただ度重なる市町村合併もあって、住所としては「お隣」で、市で言えば「同じ市」だったりする。
私自身は実家には住んだことは無いのだが、なぜか本籍地はずっと実家だし、盆と正月には子供ころから帰省していて、祖父母が無くなった後は両親が移住したので、結局年に2回は訪れている。そして、帰ってもやることがない私は、若いころには不要だと思っていたのに、両親が衰える姿を目の当たりにし「これはいかん」とあわてて取った運転免許の練習として、近隣の「交通量が無さそうな僻地」を目指してのドライブに勤しんでいたため、奴の居住地「カエリ村」も知っていた、というわけである。
ちなみに、この過疎地ドライブはあまりお勧めできない。当然だが過疎地なので道幅は狭く、対向車が来よう物なら、半分涙目になりながら、ギリギリまで道端に車を寄せたり、バックしたりを余儀なくされる。しかも、地元の人はみんな軽なのに、私の父親の車は意味もなくセダンなので、ただでさえ困難なすれ違いの難易度が3割ほどアップする。さらに言えば、そんな道を小型とは言えバスが走ったりするのだが始末が悪い。一度ひどい目にあってからは、地元の時刻表を片手に、バスが来ない時間を狙ってドライブをするという「石橋」っぷりが、実に私らしいところである。
さて、奴はどんな反応を示すのか。返事を待っていると
「あははは。俺たちは腐れ縁だね、やっぱり」
という、私と同じ感想が返ってきた。とりあえず「だったら辞めて、別の場所へ行く」と言い出したらどうしようかと思ったのだが、流石にそこまでする気はなさそうだ。
「で、みかん農家で何やってんの?『現地人従業員』って何やねん。雇用主か宇宙人かなにかかよっw」
と軽い突込みを入れたのだが、返ってきた答えが
「あたり」
という予想外の一言で、付き合いの長い私も、流石に「どういうこっちゃ」と首をかしげる。しかし、奴は元々私と違って饒舌なタイプじゃないので、こちらから聞き出さないと情報が出てこない。
結局そこからは「長文の質問」に「短い答え」というDMのやり取りを繰り返すこと丸1日、やっとさ、にわかに信じがたい全貌が頭の中にに構築されるに至るも、私としては聞き出したはずの真実に確信を持てないでいた。とりあえず奴の話から分かったことを箇条書きで書くと以下の通りになる。
・奴が就職したのはカエリ村のMuuChart社という農業経営会社で、宇宙人が経営。
・一部の宇宙で地球のみかんに人気が出たため、現地(つまり地球)で直接経営に乗り出してきた。
・過疎の村のみかん畑の権利を地主から宇宙人がまるごと買い取ったものの、みかん畑を地主から借りていたカエリ村の人たちには一切説明しなかったため、軋轢が発生。
・カエリ村の農家はMuuChart社は海外資本の企業だと思っている(彼らの顔立ちがやや西洋人っぽいらしい。なぜ地球人と同じような容姿なのかは不明。というか奴は私が指摘するまでそこに疑問を抱かなかったらしい)。
・宇宙人の思考はやや淡泊(文明が進んでいるせいか?)らしく、人間関係を重視し、理屈よりも感情で動く良くも悪くも昔ながらのカエリ村の人達と上手く交流できないため、『現地人従業員』が必要になり募集を開始。当然?ながら、誰からも応募も問い合わせものなかったのだが(なにせ地方紙の広告欄である)、どんな運命のいたずらだったのか、奴が応募してしまったので、面接で即採用になり現在に至る。
・宇宙人であることは、当初から説明を受けたらしい。村人にも説明しようとしたが、そもそも聞く耳を持ってもらえないため、今のところ誰も知らないらしい。奴自身、宇宙人であると聞かされてどう思ったのか聞いたのだが「日本語通じるし、給与も前払いだったので、別に問題ない」との答え。
・今は奴自身が村になじむための活動を実行中だが、MuuChart社の社員ということで難航している。
さて、これはどう考えればよいのだろうか。まぁ「宇宙人」という設定を除けば、ありそうな話に見えなくもない。どうせ今年も帰省するのだ。最終判断は自分の目ですれば良いだろうと棚上げし(私もたいがいいい加減である。類ともというべきか)、当初の話に戻ることにした。
「で、おつかいって何?」
「純金のアクセサリーを送るから、換金して」
はぁ。奴はみかん農家経営会社に就職したハズだが、なぜ「純金アクセサリー」なのだろうか。
「宇宙人は金は別惑星で調達できるので、それを運転資金にしたいと考えてる。ただ、刻印もない金ののべ棒だと売れないから、アクセサリーとして売りたいと思って。ネットのフリマも考えたけど限界があるので、上手く売りさばいて欲しい」
簡単そうで難しいお願いである。
「美香さんだったらどうにからならない?」
ほお。奴は私だけじゃなくて、美香を巻き込むつもりのようだ。
美香というのは私の嫁で、ネットで知り合って意気投合し、1年前に結婚して、今は隣に住んでいる。「隣って何?」と思うかもしれないが、私と美香は同居してない。お互い一人の時間「も」愛する、趣味多き変人(つまり私の同類)で、お互い「人と一緒に24時間過ごすのはたとえ親兄弟であっても息が詰まる」という、対人に対して神経質な面を持っているので、とりあえず隣同志で生活している。
これだけ聞くと、冷めた夫婦に思えるかもしれないが、自分で言うのも何だが、周囲があきれるほどのラブラブカップルで、ごはんもどちらかの部屋で一緒に食べるし、週の半分はどちらかの寝室で一緒に寝ている。周囲からは「別居の意味がどこにある」と良く聞かれるが、こればっかりは当人たちにしかわからないだろう。ただ一般に理解され難いからこそ、外見もなにもぱっとしない一周り年上の私と結婚してくれたとも言えるだろう。
本人は小柄なことにコンプレックスがあって、口癖は「私はかわいくない」なのだが、客観的に見ても可愛いのは、周囲の私へのやっかみが如実に証明している。
奴がそんな美香を持ち出すのは、美香は色々小物を作ってあちこちに売っているのを知っているからである(それ以外も色々やっている)。詳しくは知らないのだが稼ぎはかなりあるようだ(結婚してるけど、今の所、一緒に持ってるペーパー会社以外は独立会計である)。
「美香が捌けるようなデザインなのか?」
「まだ現物はなくて。とりあえず美香さんがデザインしてくれたら、3D純金プリンターで出せる」
なんだ、その微妙に近未来なデバイスは。
「3D純金プリンターって、どうやって形状入力するんや?」
「地球の3Dフォーマットならどうにかなるらしい」
「頭に思い浮かべたら出てきたりせえへんの?」
「しない」
うーむ、残念。奴の雇い主の宇宙人は飛びぬけて地球より文明が発達してるわけではないようだ。
CADが必要となると、私も手伝うことになるかもしれない。美香はITはスマホ止まりなので、以前も彼女が作った粘土モデルを3Dスキャナで取り込んでデジタル化し、3Dプリンターで出したことがあるのだ。というか、そのあたりが私との馴れ初めでもある。彼
女の私への愛の一部は、そのあたりの能力への評価も含まれていることは間違いないところだろう。私自身も、嫁への愛の一部に彼女の才能が含まれてるのは自覚するところである。
私はエンジニアやクリエイターというものは、多かれ少なかれそんなものだと思っているのだが、どうだろうか?。一般人(と言う言い方は正しいのか?)だって「お金」や「地位」が愛情に含まれる場合があるのだから、似たようなものだろう。
まぁ、それはともかく、それなりに現実性はありそうだ。
「美香に相談しとく」
と返事をして、私とけなは、その日のDMのやり取りを終了した。
しかし、自分の実家の隣で、そんな面白そうな話が進行してたとは。
いつか介護で実家に転居しないといけないかも、とは思っているものの、転居するなら今のゲーム会社を辞めなければならないので、正直具体的なことは考えないようにしていただけに、こういう展開は正直悪くない。奴がこのまま居ついくなら、少し真面目に検討しても良いかもしれない。
ちなみに、美香はどこででも今の仕事はできるから基本的には将来の転居も反対していない。ただ、イベントに不便だから、彼女も当面はこちらに居たいハズである。
とりあえず晩飯の時にでも美香に話をしてみることにしよう。はたして彼女はどういう反応をするだろうか。
書き始めたばかりなので、表記のブレがあると思います。
そもそも「けな」のしゃべり言葉が安定しない。けっこう愛媛某所のしゃべりに染まってるけど、私がぱっと出てこないので…。あ、すべてフィクションですよ、フィクション~