入院
目を覚ますとベットに寝かされていて、体には点滴がうたれていた。
独特のエタノールのような匂いが充満している。
どうやら病院に運ばれたらしい。
鈍く痛む頭で、一人暮らしのはずの俺が、何故病院に運ばれてきた理由を考えていた。
しばらくするとカーテンが捲られ看護師さんがやってきた。
「目を覚ましましたか。では先生を呼んできますね」
そう言うと看護師さんは部屋を出て行った。
しばらくすると先程の看護師は医師を連れてやってきた。
医師はそれなりに歳をとっているように見える。
白髪に薄毛で小柄。
それなりに年季を感じさせる風貌だ。
「目が覚めましたか。手足を動かしてみてください。後遺症のようなものはありませんか?」
言われたとおりに手足を動かしてみる。
普通に動かせるものの、少し体がダルい。
「体がダルいこと以外は普通ですかね」
「そうでしたか。それは良かった。貴方と少しお話をしたいのですが、よろしいですか?」
そう言われ、体を起こそうとすると、看護師が背中に手を添えて、手伝ってくれた。
たったその動作で激しいめまいと吐き気に襲われたが、なんとか我慢する。
看護師はその様子から察したのか、俺にビニール袋を渡してくれた。
「大量出血による一時的な後遺症でしょう。安静にしておけばそのうち良くなります。さて……私は貴方の担当の橋本です。よろしくお願いします」
俺は軽く頭を下げる。
そして橋本は言ってきた。
「自殺未遂ですか?」
直球過ぎて、俺は返す言葉もなく黙った。
橋本は何かを察したのか、追撃を仕掛けるように言う。
「貴方が生きているのは、貴方のアパートの大家さんのおかげですよ」
大家さん?俺は確か部屋に鍵をかけていたはずだが、どうやって入ったのだろうか。
まぁどうでもいいか。
「そうですか。それで、いつ俺は死ねるんですか?」
すると橋本は目を見開いた。
「命をなんだと思っている!」
俺は鼻で笑った。
俺の命など価値もない。周りからはゴミ扱いされ、存在すら遠い昔に忘れらている。
今更俺が死んだって誰も悲しむものなどいないだろう
一体何故俺は生まれてきたのだろうか。
何故願ってもないのにこの世に生を受け、苦しみながら生きなければ行けないのだろう。
それはきっと何かの罰ゲームだろう。
「罰ゲームですか? ……何故俺を治療したんですか? この入院費や治療費だって払えませんよ。無駄なことしやがって」
皮肉めいたことを口にした。
何故か同時にイライラしてきた。
「貴方には現在の治療が終わり次第、精神科に入院してもらいます。金銭的な問題なら色々な制度もありますので、よろしいですね?」
「よくねーよ。今すぐ俺を殺せ!」
気づけばど俺は怒鳴っていた。
「この馬鹿者!!」
「馬鹿で結構だ。偽善者が!っていうかもう出ていってくれま―」
まるで鬼の形相のような医師の顔が、すぐ目の前にあった。
「……何ですか?」
「クズめ! 早く醜い傷を直して病院から出て行け!」
橋本はそう言うと、部屋を出て行った。
それに続いて看護師も、一つお辞儀をして部屋あとにする。
一瞬にして静かになった部屋にたった一人。
特にすることもなく暇である。
外の景色を眺め、ボーっとしていると眠気が来たので、そのまま寝ることにした。