表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/32

【夢】2.出会い

 いつもと違う感覚だ。私は今夢を見ているのだと、はっきり意識しているのに身体は起きている感じだ。恐る恐る腕に力を入れ、右腕を上へとゆっくりと動かしてみた。

――動いた。

 このまま上半身を起こしてみた。

――起き上がれた。

 夢なのか、夢ではないのか、いまだにはっきりとしないが目を開けてみることにした。夢なら覚めるはずだ。ゆっくりとまぶたを開けた。が、自分の部屋ではなく真っ暗な世界が目の前に広がっていた。黒一色だ。自分の手さえも見えないほどの暗さ。自分の存在さえあるのかどうかわからないほどだ。自分の部屋なのか確かめようと、床に手を触れてみるが布の感覚はなく、冷たくも暖かくもない硬い手触りだった。一体どうなってしまったのか。わけのわからない状況に、じわじわと恐怖が襲ってくる。

――誘拐?監禁?それとも、もう私は死んでしまった?

 良くない考えが頭の中をぐるぐるしていると、真っ暗な世界に二つの灯りが見えた。小さかった灯りが、こちらに近づいているのか次第に大きくなっている。灯りが近づいてくると、その灯りが人であるということがわかった。どうやら身に着けているアクセサリーが光っているらしかった。逃げたい気持ちが強かったが、自分がどこにいるのかがわからないため動くことができない。

 そうこうしている内に、その人は私の目の前に立ち止まった。思わず強く目を閉じた。

「初めまして、木元来夢さん」

 男性のような声だった。殺気を感じない声に、恐る恐る目を開け、目の前にいるその人を見上げた。全身を覆うローブを身に付け、左手首に白く輝いている腕輪を、右手中指には同様の指輪を身につけていた。そのアクセサリーのためなのか、その人の周りに淡い光がまとわりついているかのように見える。色白の肌に流れるようにきりっとした目つき。短髪で白髪の髪は短く逆立っていた。鼻筋も通り悪くない顔だ。

「大丈夫です、私はあなたをとって食おうとは思っていませんよ」

 そう言うと、一歩私に近づいてきた。思わず後ずさりした。

「やはり信用してくれませんよね」

 すると腕組みをし、なにやら考え込んでいる。

なにか考え付いたのか、納得した表情で再び一歩近づいてきた。すかさず後ずさりをする。

「今この状況を簡単に説明します。まず、私ですが、あなたの敵ではありません。あなたにとって私は怪しい格好でしょうが、これは私の正装ですのでご了承ください。次にこの真っ暗な空間ですが、これはあなたの夢の中だからです。私があなたに触れてもよろしいのであれば世界を開きます。……おっと、触れるのはここですのでご安心を」

 その人は自分の頭をつんつんと指で示した。終始にこやかに話しているが、どうも腑に落ちない。どもらないように、震える身体を必死に抑え声を絞り出した。

「夢の中ってどういうことよ……。それにどうして私の名前を知っているの」

 その人は短くうなり声をあげると、ため息をついた。

「……わかりました。世界を開かせていただけるのでありましたら、質問にお答えしましょう」

 そう言い終えると、つかつかと私に歩み寄ってきた。私は緊張のあまり動くことができない。もうだめだ、と思い強く目を閉じた。

――あぁ私の人生短かったな。

 が、しかし。その人は私のすぐ前で立ち止まると、すぐに触れようとはしなかった。

「本当に何にもしませんって。……怖がらずどうか目を開けて下さい」

 恐る恐る顔を見上げてみると、その人は少し困った顔をしている。どうやら本当に頭以外は触れないらしい。一つ息を吐いたその人は、私の前にひざまずいた。

「あなたを痛めつけるようなことは今後一切ありません。どうか私の言葉を信じてください」

 まっすぐなその瞳に、思わずゆっくりとうなずいた。

――さっきからの口調といい、悪い人ではなさそうだよね……。

「では、よくご覧になってください」

 そう言うと私の頭に右手をそっと乗せた。すると、今まで真っ暗だった空間に亀裂が走り、その亀裂から新しい空間が広がってきたのだ。その亀裂はあっという間に広がり、私の周り全てを覆った。

「こ、これは……私の部屋?」

 真っ暗だった空間から姿を現した世界は、さきほどよりも少しだけ明るい私の部屋だった。明るいといってもたぶん夜だろう。明るいと感じるのは、さっきの空間があまりにも真っ黒だったためだ。その人は右手を私の頭から離すと、一歩下がり、おもむろにお辞儀をした。

「私の名前は時人(ときと)。この世界は、夢幻郷(むげんきょう)。ようこそ、夢幻郷へ」

 聞きたいことが頭の中でまとまらず、口を開けたまま声がうまく出せない。すると、突然目の前がぼやけ始めた。どこからともなく聞こえるベルの音が頭の中にがんがんと響き、目の前にいる時人の姿がどんどんと小さくなっていく。が、時人はにこやかに手を振った。

「おや、時間のようですね。いってらっしゃい」


             ★             ★


 うるさい目覚まし時計の音のほうへ、無意識に手が伸びていた。

――ゆ、夢?!

 時計を止め、思わず飛び起きた。

 朝日が差し込む部屋は独特の淡い光に満ちている。部屋は私が寝る前と同じ状況で変わった様子もない。一つだけ違っていたことは、時人と名乗った青年が触れた私の頭に、その感触を残っていることだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ