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【現】22.目撃

 朝から昼休憩が始まるまで、ずっと機会をうかがっていた。私の斜め後ろの、一番後ろの席に陣取っているあの三人組。会話までは聞こえないが、笑い声を上げながらしゃべっている。亀田さんも笑い顔を見せていて、本当に心が傷ついたのかと疑問に思うほどだ。朝からずっと三人組の様子を見ていたので、向こうも何度かこちらに気づき怪訝そうな顔をしていた。今も休憩開始のチャイムが鳴り、授業が終わってからずっと見ている。

「……らむ?何を見てるの?」

 いつの間にか机の隣に香織が立っていた。財布を持ち、不思議そうな顔をしている。

「わ!びっくりした……」

「昼休憩だよ?ほらっお昼行こう」

「あ、うん」

 香織がせかすように私の腕を掴んだ。私はかばんの中から弁当を取り出し、再びちらりと亀田さんたちの方を見てみた。すると、先ほどまでいた三人は亀田さんだけになっていた。

「あれ……どこいったんだろ」

「うん?どうしたの?」

 香織も私が見ている方向に顔を向けた。香織も理解したようで、小さな声で「あー」と言いつつうなづきながら答えた。

「山田さんと江口さんのことだね。ほら、朝先生が言ってたじゃない、風紀委員は昼休憩に会議あるって」

「あ、そうなんだ……。ねぇ香織」

 私の声に反応して、香織はこちらを向いた。

「亀田さんも……お昼誘ってみない?」

「え?……い、いいけど」

「ありがと、じゃあ誘ってみよ」

 席を立ち、香織と一緒に亀田さんの席へと行った。香織は少し困惑している様子だった。

 亀田さんの机のすぐ横に立ち並ぶ。亀田さんは売店で買ったおにぎりやジュースの入ったビニール袋をかばんから取り出していた。

「あの……亀田さん」

 身体を起こした亀田さんは、一目私たちを見ると目を少し見開き驚いた様子だった。が、それは一瞬だった。すぐさまにっこりと笑う。

「わーびっくりしたー。どうしたのー?二人揃ってー」

 久しぶりに間近で見たが、ぷっくりとした唇に大きなバスト、椅子に座っていても分かるスタイルの良さ。香織も相当かわいいと思うが、色気は亀田さんのほうが勝っていると思った。ちらりと横目で香織を見ると、顔を背け気まずそうだ。

「今からお昼なんだけど……一緒にどうかなぁって」

「私と?」

 眉がぴくっと動いた。笑っていた顔が一気に真顔になり、眉を寄せ見るからに不快そうだ。

「なんで?私が寂しそうに見えた?それとも同情?」

 いつものぶりっこ声ではなくなっていた。強い口調だった。

「違うよ。……いろいろ話したいことがあってさ。ずっと亀田さんが一人になるのを待ってたんだ……」

「ふーん、だから今日ずっとこっちを見てたんだ。……別にいいよ。あんたたち外でいっつも食べてるんでしょ?」

 そういうとビニール袋を手に、席を立った。むすっとしているが、了解を得たようだ。思わずほっと安心した。

「ありがと。じゃあ行こう。ほら、香織も」

「う、うん」

 亀田さんは睨むように香織を見ていたが、香織は一度も亀田さんを見ていなかった。


 いつも横並びのベンチに座るのだが、今日はテーブルがあるものに座った。私と香織、テーブルをはさんで向かい側に亀田さんがむすっとした顔でおにぎりを食べている。いつもは香織がいるだけで視線を集めていたが、今日は亀田さんもいる。そのせいか普段は見てこないような男子まで、亀田さんの色香に誘われ、ちらちらとこちらを見ていた。

「こんなに人目晒されて、よくご飯食べられるわね」

 ぼそっと亀田さんが言った。さっきからみんなに見せている態度と違っている。ぶりっこのという化けの皮が剥がれ、今はわがままなお嬢様という感じだ。

「外で食べると気持ちいいじゃない。ね、香織」

「そ、そうだね」

 そんな態度でも別に驚かなかった。むしろ弱みを見せるとそこにつけこまれそうな気がした。しかし、香織は先ほどからずっと伏目で、にこりともしていない。そんな様子に亀田さんも気がついているようで、にやりと口の端を釣り上げながらこう言った。

「香織ちゃん、本当はー木元さんなんかと食べるより、池口くんと食べたいんじゃないのー?」

「え……そ、そんなことは」

「えー二人って付き合ってるんでしょー?昨日みんなの前で言ったじゃない。それとも、もう池口くんに飽きられたとかー?」

 くすっと亀田さんは笑っている。いつものにっこりとした顔になっていた。一方、香織は文句を言うこともなく、ただただ黙り込んでいた。

「ちょっと、すぐに飽きるわけないじゃない。第一、池口が香織のことを好きだったのよ。私と一緒に食べるのはいつもの……」

 その時だった。笑った顔は一瞬になくなり、亀田さんは私を睨みつけながら、バンとテーブルを叩いた。

「うっさいわね!そんなことわかってるわよ!」

 いきなりのことで思わずびくっとした。香織も驚いたようで、顔を上げ亀田さんを見ていた。

「何の関係もないあんたにわかったような口利かれたくない!それとも、なに、それを言うために私を昼に誘ったの?」

 鋭い目つきで私を睨みつける。目が怒っている。すると、椅子から立ち上がった。

「あんたの顔見ながらご飯食べたくない。……もう口も利かないで」

 ビニールを持つと、私たちに背を向けた。すると、香織がいきなり椅子から立ち上がった。

「待って!」

 その場を去ろうとした亀田さんの背中が止まった。振り向かない亀田さんに構わず、香織は言った。

「わ、私も池口くんのことが好きだから!だから、付き合ってるの!」

 香織の頬は赤く染まっていた。しかし、言葉には強い意志が伝わってくるような力強いものだった。私は思わぬ香織の主張に呆然としてしまった。亀田さんは振り向くこともないまま黙っていたが、そのまま何も言わずその場を去ってしまった。その後ろ姿を見送りながら、香織はぺたんと椅子に座った。

「……やっぱり怒ってたんだね」

 香織は椅子に座るなりため息を漏らした。まだ頬の赤みは引いていない。

「……でも、なんであそこまで怒るのかな」

 私は思わず首をかしげながら言った。しかし、香織はテーブルをぼーっと見つめたまま、考え込むように黙っていた。


 あっという間に掃除時間となった。香織とは班は別々だったが、今日の掃除場所はたまたま一緒だった。が、掃除場所が校門で靴に履き替えなければいけない。夏になると日差しが避けられない場所で、みんなが嫌がる掃除場所となる。私と香織もしぶしぶ下駄箱へと向かった。

「……香織。早めに終わらせて、早く日陰に入ろうね」

「そうだね」

 二人並んで下駄箱に着くと、見覚えのある二人が私の靴を持っているところを見つけた。ストレートの長髪と、お団子の髪型の後ろ姿だ。

「ちょっと、何やってんのよ!」

 そう私が叫ぶと、その二人はびくっとしてゆっくりと振り返った。

「山田さんと江口さん!」

 口に手を当て驚いた表情で、香織が叫んだ。私は後ろ姿でなんとなく予想をつけていたのでさほど驚かなかった。二人は互いの顔を見合わせると、苦笑いを浮かべた。それぞれの手には片方ずつ私の靴がぶら下がっている。汚いものを持つかのように、指に当たる最小限の状態で、ぶらぶらと靴が揺れている。

「なんで私の靴を持ってるのよ」

 指を差しながら言うと、二人は私の目の前に靴を放り投げた。転がってきたアスファルト上には靴の後のようなシミがついている。転がってきた靴にも砂がつき、汚い状態だった。香織も不思議に思ったのか、片方の靴を拾い上げようとした。靴に触れるや否や、私の顔を見上げた。

「らむ、濡れてる!」

 私も片方の靴を取り上げた。靴はびしゃびしゃに濡れ、重くなっていた。すると、長髪の髪を風でなびかせながら両手をはたく山田さんが口を開いた。

「見られたら言い逃れできないわね」

「マジ、タイミング悪すぎ」

 同じく何度か手をはたいた江口さんも、平然とした様子で私を見ていた。香織から濡れ砂がついている靴を受け取ると、二人を見た。

「……一昨日と昨日と、靴にイタズラしたのもあんたたちなの?」

 聞こえているのか、それぞれ手の爪を見ていた。

「私の机を倒したのも、クラブにデマを流したのも……香織に嫌がらせをしたのも、全部あんたたちなの?」

 山田さんと江口さんはだるそうに立ち、髪の毛の毛先をいじったり爪を見ていたりしている。その態度に腹が立った。全く反省の色が見えない。

「どうなのよ!」

 思わず叫んだ。すると、二人はまただるそうに息を吐くと、山田さんが顎で江口さんに言うように促した。

「そうよ、全部うちらがやったの。……気が済んだ?」

「なっ……他に言うことがあるでしょうが!ばっかじゃないの?」

 すると、いきなり山田さんが舌打ちをした。一重の鋭い目つきで私を睨みつけた。

「うちらは冷子に言われてやってたの。だからぁうちらには文句言われる筋合いはないわけ。むしろ被害者なの、わかる?」

「被害者?笑わせないでよ。誰に言われてやろうが、実行したのはあんたたちでしょうが。謝んなさいよ!」

 すると、二人がケラケラと笑い出した。手を叩き、腹を抱え笑っている。その様子に香織も私も唖然とした。

「マジちょーウケるんだけど!」

「超必死、超うぜぇ!」

 二人は笑いながらそう言うと、私たちの横を通り過ぎようとした。

「なっ!待ちなさいよ、まだ話は終わってないわよ!」

 通り過ぎようとした山田さんの腕をとっさに掴んだ。すると、山田さんは掴まれた腕を見るや否や私の手を振り払った。

「触るんじゃねぇよ。なんでうちらが謝んなきゃいけねーんだよ。冷子が指示したっつってんだろ。マジうぜぇな」

 合ったその目は冷たく感じた。本当に何も思っていないんだと直感した。呆然とする私を鼻で笑うと背中を向けた。その二人を見ながら、隣にいた香織が二人に向かって叫んだ。

「わ、私二人が謝りに来るの待ってるから!」

 背中を向けた二人の、お団子頭の江口さんが背中を向けたまま手を挙げた。

「冷子が謝ったらうちらも謝ってあげるよ、香織ちゃん!まーないと思うけどね!」

 キャハハと笑う声は、廊下の奥に消えても響いていた。

 

 その後二人は終わりのSHRが終わっても、私たちに何も言ってこなかった。私はこのままでは引き下がれないと思い、帰ろうとする亀田さんを引き止めた。帰りはいつも三人で教室を出ていたと思うが、今日はたまたま一人だった。香織も亀田さんと話したいらしく、私の後ろで様子を見ていた。

「亀田さんちょっといい?」

 私の声に反応し、ゆっくりと振り返った。

「……昼に口効くなって言わなかったっけ?」

「掃除時間に、山田さんと江口さんが私の靴にいたずらしてるとこ見たのよ。で、二人が言うには亀田さんから指示されたから私たちは悪くないって言ってたんだけど」

 そう言うと亀田さんは目線を落とし舌打ちをした。何も言わず黙っている。私は続けた。

「そのことで話がしたいのよ。私、今日クラブ休むから香織と三人でママレード行こうよ。ここだったら亀田さんも話しにくいでしょ?」

 教室には半分ほどの人数が教室に残っていた。今もちらちらと視線を感じる。亀田さんは一つため息を漏らすと、ぼそっと言った。

「……わかった」

「ありがとう」

 私は後ろでじっと様子を見ていた香織を手招きし、三人で一緒に教室を出た。 


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