【夢】17.一人っきり
今日は二度目の夢幻郷だ。目を覚ますと、先ほどのように天井から明かりは降り注ぐことなく、真っ暗な世界が広がっていた。いちゃいちゃとしていたカップルの姿も、ベンチの前で天井を見上げていた新拓の姿もない。音のないドリームフィールドパークが広がっている。
私は塀の近くに行き、下を眺めた。やはり誰もいない。
――時人さんだったら、下じゃなくて上から来るか。
そう思い、天井を見上げた。さっきまであんなに綺麗だった天井は、ただの真っ暗な空間へとなっている。
――どうして、いきなりあんなこと言ったのかな。
物音さえしない空間に慣れてきたものの、やはり気味が悪い。
――早く来ないかな。
しかし、一向に来る気配がない。いつもなら、すぐに来ていた。時人がいつも来ることに疑問も抱かなかった。
時人が来ることは当たり前だと思っていた。
しかし今、待っても待っても、ぼんやりとした灯りも何かがこすれるような音も、全くしてこない。
――……どうして。
夢幻郷には慣れたと思っていた。しかしいざ一人きりになると、自分がこのまま暗い世界に溶け込んでしまうのではないかとさえ思えてきた。
暗闇の恐怖を取り払うため、いるはずの時人に向かって叫んだ。
「どこかにいるんでしょ!出てきなさいよ!」
真っ暗な空間に叫んだ私の声は、空しくもすぐさま無音の空間にかき消された。
「……一方的に嘘ついたって言っちゃってくれてさ、私には文句の一つも言わせないわけ?聞こえてるんでしょ!」
それでも時人は返事をしない。本当に時人がいるのか不安になってきた。
その時はっと思い出した。左手にはめている腕輪だ。見ると、やはりはめていた。なんとなくだが、時人が作り出したものだから、いるはずなら消えないと思った。何の証拠もないが、そう思えた。そっと腕輪に触れてみた。やはり、温かくも冷たくもない。
「……どうして返事しないのよ!これから私がこっちに来ても、時人さんはずっと無視するわけ!」
響かない私の声。見渡す限りの暗闇。誰もいない場内。
急に心細くなった。
「……寂しいじゃない……どうして。……時人!返事しなさいよ、馬鹿!これ以上私を苦しめるなら、文句だけじゃ済まないわよ!」
が、そんな叫びも空しく、とうとう時人は姿を現さなかった。
ぼやけてくる視界。今思えばいつも、時人が見送っていた。見送りがいないのは初めてだなと思うと、また寂しく思えた。