表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/32

【現】11.疑いの目と信じてくれる人

 一番濃密な一週間だったような気がする。気づけば今日はもう金曜日だ。

 朝練や夕方のクラブは、香織のことや時人のことで集中できず、ここ一週間上の空でやっていた。練習に打ち込めなかった分を土日の練習で挽回しないといけないと思っていたが、朝見たテレビの天気予報は雨だった。クラブが休みになるかもしれない、そう思うとやっぱり嬉しくなった。


 練習を終えると、いつものように急いで教室へと駆け込む。

 教室へ入った瞬間、みんなの視線が一気に私に集まる。が、何事もなかったかのようにみんなそっぽを向いた。いつもと違う教室の雰囲気に疑問を感じながらも席へと座る。

「おはよ。らむ」

「あ。おはよ」

 香織がすぐさま席へと来てくれた。すると、また視線を感じた。

「ね、ねぇ。なんか今日おかしくない?見られるというか、睨まれてるような気がするんだけど」

「……たぶん、亀田さんたちを疑ったからだと思うよ」

 香織が軽く首を後ろに振った。見てみろと言っているようだ。香織の影に隠れつつ、ちらっと見てみるとこちらを見ているあの三人組がいた。

「……なに、逆恨みでもしてんの?」

「ねぇ、らむ。亀田さんが本当にノートと手紙をやった本人なの?」

 小さな声で香織が言った。私も声を小にして答えた。

「うん。亀田さんが指示して、たぶんあの二人が実行したんだと思う」

「どうして?」

「亀田さん本当に池口のことが好きみたい。それで、隣に座る香織に嫉妬したんじゃないかな。……珍しく池口も話しかけてるみたいだしね」

 肘で香織をどつくと、香織の頬が少し赤くなった。

「お、まんざらでもないようだねぇ。……ともかく、なにか証拠があればいたずらをした本人って認めるんだろうけど……」

 ちらちらと視線を感じる。

「……でも、私も不思議なんだけど、どうして亀田さんたちだと思うの?」

 不安げな顔で香織は私をじっと見た。正直なところ、なんと言えばいいのか迷った。

――夢に出てくるやつがそう言った?いやいや、余計不安にさせるじゃん……。

 香織の肩をぽんぽんと軽く叩きながら私は小さな声で言った。

「……ま、ちゃんとした確信はあるよ、だから安心して。今その確信は何なのかは言えないけどね」

「だ、大丈夫?らむのこと信じてるけど……」

「まかせて。私も香織が味方でいてくれるなら心強いや」

 お互いに、小さな声で笑いあった。と、チャイムが鳴るより早く担任が教室へと入ってきた。

「みんな、悪いんだが席についてくれないか」

 いつもと違う雰囲気に、首をかしげながらもみんな席に座った。みんな揃ったのを確認すると、前後ろのドアを閉め、さっさと出席を取り出した。

 全員の出席を確認すると、丁度チャイムが鳴った。すると、担任は出席簿を持って教室から出ようとしている。ドアに手をかけ振り向き一言言った。

「亀田、池口。一時限目が始まるまでの時間を使って、例のやつちゃんと話し合えよ」

「はい」

――例のやつ?

 みんなも理解できないようで、ざわざわと話始めた。ただ、亀田さんだけはわかっているようで教卓の前に立った。それを確認すると、担任は教室から出て行った。ドアが閉まる音が教室に響くと、亀田さんは池口を呼んだ。

「池口くんも前に来てくれないかなー」

 ぶりっこ声が教室に響いた。池口を見てみると机に伏せていた状態から顔だけ起こしている。だるそうな顔で、黙って席を立ち亀田さんの横に立った。

「何?なんか決めんの?」

 どうやら池口も何をするのか知らないようだ。めんどくさそうにポケットに手を突っ込んで、突っ立っている。一方、亀田さんは普段は見せない悲しげな表情を浮かべ、言葉を選ぶように話始めた。

「……昨日、昼休憩に教室にいた人は知っているかもしれませんが……このクラスで嫌な思いをしている人がいます」

――昨日の昼休憩?……まさか。

 一部知っている人がざわざわとし始めた。しかし、それを無視し亀田さんは続けて話し始めた。

「その人は、ノートに落書きをされた挙句ずたずたにされて、おまけにひどい言葉を書かれた手紙まで来たの。……みんなひどいと思わない?」

「誰がそんなことされたの?」

 どこからともなく声が上がった。亀田さんは間を空けると、申し訳なさそうな顔をして言った。

「……香織ちゃん。静山さんです」

 そう言うと、みんなが一斉に驚きの声を上げた。香織本人は顔を俯かせ、困った顔をしている。

「おい亀田、なんでこんなことわざわざみんなの前で言うんだよ。静山さんが頼んだのか?」

「ううん。でもーみんなが好きな香織ちゃんが困ってるんだよ?ここはみんなで協力して犯人を捜すほうが良いに決まってるじゃない。みんなそう思わない?」

 眉間に皺を寄せ怪訝そうな顔をしている池口をよそに、香織の呼びかけにみんなが同意した。香織の近くの人たちが、香織に何かしら言っている。大方慰めているのだろう。騒がしいため聞こえないが、香織は困惑した顔でうなずいたり、首を横に振ったりしていた。すると、いつの間にか席を立っていた山田さんと江口さんが教卓の前に出てきた。

「じゃあみんな、一緒に犯人探ししようよ!ノートとか手紙とか、香織ちゃんの場所知ってなきゃできないから絶対クラスのやつだよ。今頃びびってんじゃないの?」

 山田さんの鋭い視線がクラス中を巡ったあと、最後私で止まった。薄笑いを浮かべ、鼻で笑われたような気がした。

 山田さんの言葉にクラスのみんなも乗せられたようで、近くの人に犯人なのかと冗談とも本気とも言えないような聞き出し始めた。何か異様な雰囲気だ。がやがやと騒がしい教室に、池口の声が響いた。

「おまえら……いい加減にしろ!」

 池口の怒鳴り声は、一気に教室を静かにさせた。私も驚いたが、前にいる三人組も驚いた表情で池口を見ている。

「……おまえら、冗談半分で犯人探しするつもりなのか?静山さんは本当に傷ついてたんだぞ。わかってんの?」

 落ち着いた声はクラスの熱を冷ましていく。いつもめんどくさそうにしているが、何か今日は違う。案外本当に香織に気があるのかもしれない。

「確かに席の位置とか下駄箱の位置とか、他のクラスのやつだとよほどのことがない限り知りようがない。だからこのクラスの奴の可能性が高い。だとしたら……」

 池口は後ろの席のほうを見ている。おそらく、香織を見ているのだろう。目線を元に戻し、少し間を空けると再び叫んだ。

「……こんなくだらないことするんじゃねぇよ!もし次も何かやるようだったら、俺が絶対見つけて仕返してやるからな」

 珍しく感情を露わにした池口に女子も男子も黙り込んだ。

「……俺が言いたいのはそれだけ」

 前に立つ三人組も、悔しそうな表情で唇をかみ締めている。その様子を見ていると、顔を上げた山田さんと目が合った。すると、突然山田さんが私を指差した。

「……あんたでしょ!あんた、いっつも香織ちゃんの近くにいるじゃない。私たちに疑いかけて、本当は自分が犯人だから逃げ口作ったんじゃないの!」

 みんなの視線が一気に私へと注がれる。いきなりのことで、口を半開きにしてしまった。

――私が犯人?何言ってんの?

 しかし、亀田さんがすぐさまそれに同意した。

「そうだよー、昨日いきなり私たちを犯人扱いしてきたんだよー!木元さん良い人だと思ってたのに、ひっどいよねー」

 まるで呪文を唱えたかのように、クラスの大半の人たちがそれに賛同し始めた。静まりかえっていた教室は鶴の一声で再びざわざわとし始める。聞こえてくる言葉はどれも私を犯人のように決め付けたかのようなものばかりだ。

「お前、静山さんのダチだろ?最低だな」

――なにこれ。

「私も昨日お昼に見たんだけど、冷子ちゃんたちをすっごい悪者みたいに決め付けてた」

「うっそ、信じらんないね」

――ちょっと……みんなどうしたの。

 私の周りの人たちも冷たい視線で私を見てくる。犯人を見るかのように、軽蔑した目だ。こんな状況は初めてで言い返すことができない。教卓にいる三人を見てみると、にやにやと私を見て笑っている。腹が立つというよりも悔しさがこみ上げてきた。

「らむが……らむがするわけないよ!」

 泣きそうな気分の中、透き通るような声が教室の中に響き渡った。声のするほうを振り返ると、泣きそうな顔をした香織が立っていた。

「……らむのこと悪く言わないで。らむはそんな子じゃない。それにもう私は平気だから……犯人捜しなんてやらなくてもいいから」

 ざわついていた教室は香織の小さな言葉で再び静まり返った。俯く香織の顔は少し赤くなっている。が、沈黙が流れる教室に再びぶりっこ声が響いた。

「みんな香織ちゃんのことを心配してこんなことしてるのにーその言い方はひどくない?せっかくみんなが協力して犯人探ししてくれるって言ってくれたんだよー」

 亀田さんが、ちらりと横にいる二人を見た。山田さんと江口さんは何か合図を受け取ったように笑った。すると、腕組みをする山田さんは笑いを堪えるように言った。

「え、もしかして、実は犯人知ってるんじゃないの?その犯人をかばいたいから、犯人探しをしなくていいってこと?」

 間髪入れずに江口さんも続いた。

「うわぁそれって自作自演ってやつじゃね?マジ最低じゃん!」

 教室が再びざわざわとし始める。どっちの言い分が正しいのか、みんな判断しかねているようだ。教卓の前に立つ三人は勝ち誇るかのように、頬を赤く染め俯いている香織を嘲笑っていた。香織はざわざわと騒がしい教室の中、冷たい視線の対象となっているのにも関わらず、黙ったまま立っている。

――なんなのよ。あいつら、何がしたいのよ。

 私は思いっきり机を叩いた。バン、と大きな音が響くとみんな驚いたようにびくっとした。私は勢いそのままに立ち上がる。

「うるさい!大体、この話し合いは何がしたくてこんなことしてんのよ!香織を馬鹿にするためにわざわざ朝の時間使ってんの?」

 前に立つ三人を思いっきり睨んだ。

「あんたら一体なにがしたいわけ?……犯人が私ですって?笑わせないでよ!逆恨みもいいとこじゃない!何が犯人捜しよ、本当は香織のことなんて全然考えてないんでしょ?ただ良い人ぶりたいのが見え見えなのよ!みんなもみんなよ、香織が本当に自作自演すると思ってんの?なんで香織を信じてあげないのよ!」

 すると、丁度チャイム鳴った。チャイムの鐘の音が異常によく聞こえた気がした。みんな私の顔を見ながら唖然とした表情をしている。

「……木元さんの考えはよーくわかったわ。私本当に香織ちゃんの助けになりたかったのにー……」

 わざとらしくため息を漏らす亀田さんはそのまま席に戻った。後ろをついて歩く山田さんと江口さんも何も言わなかった。私を見ていたみんなも何も言わず、授業の準備を始めた。興奮していた頭が徐々に冷めていき、私は崩れるように席に座った。

「……がさつなおまえが、あんな手の込んだノートやら手紙できるわけないだろ。俺は……静山さんも、お前も、信じてるから」

 私の横を通り過ぎながら、ぼそっと池口がつぶやいた。

 はっとして振り返ると、池口は立ったままだった香織の肩をぽんと触ると座るように促している。すると、前のドアが開く音がした。静かになっている教室に不信に思ってか、首をかしげながら先生は入ってきた。


 久しぶりに外のベンチでお昼を食べている気分だ。春のぽかぽか陽気で、気持ちが良い。丁度木の陰に入っているベンチは、風が吹くと葉がこすれる音が響き、熱くも冷たくもない風は心地よい空間を作ってくれる。

 そんな中で昼食を食べている私と香織だが、朝の一件から疎外感を味わっている。

「……あいつら何がしたくてあんなことしたのかな。思い出すだけでも腹が立ってきた……」

「うん……」

 朝以降、話しかけてくる人が全くいない。こちらから話しかけても聞こえない振りをし、その場からすぐ逃げていく。私だけならまだしも、香織まで無視されてしまっている。ただ香織の場合、上級生や下級生と幅広く話しかけられてくるのでその人たちからは声をかけられている。しかし、クラスの人たちは無視だ。

「みんな……私たちのこと無視してるよね。本当に私が自作自演だったって思ってるのかな……」

 食欲がないのか、持っているカレーパンはまだ半分以上残っている。

「思ってないよ。きっと、亀田さんたちが裏で糸引いてるんだよ。……あくまで予想だけど」

 思わずため息が漏れる。昨日まで普通に過ごしていた教室が別のクラスの教室へと変化したようだった。まるで私たちが見えないかのような態度。私一人がそんな態度を取られたらと思うとぞっとした。

「……でも、らむがいてくれてよかった。私だけ無視されてたらかなりショックだったかも」

「あ、今私も同じこと思った」

 ふふ、と香織と笑った。すると、急にどもった声が聞こえた。

「し、静山さん!お、お食事中すいません」

 聞き覚えのある声に顔を向けてみると、新拓がいつの間にか立っていた。分厚い眼鏡に相変わらずぼさぼさの頭。緊張なのか暑いのか、頬に汗が伝っている。

「……あ、えーっと」

「し、新拓です。お久しぶりです」

 そういうと香織は思い出したように何度かうなずいた。どうやら忘れていたらしい。

 告白したはずだったが、私が問い詰めたせいで記憶の薄いものになったのかもしれない。そう思うと新拓に申し訳ない気持ちになる。すると、新拓はポケットに手を突っ込み何かを取り出した。

「せ、先日は急に押しかけてしまってすいませんでした。あの、これ……そのお詫びと言ってはなんですが……」

 そう言って差し出してきたものは、チケットだった。香織はそれを受け取り視線を落とした。私も気になり顔寄せて見てみた。

「……ドリームフィールドパーク入場チケット。……え、三枚もですか?」

 綴りになったチケットは広げてみると三枚分あった。嬉しそうな顔をする香織に、顔を赤くしながら新拓はまたポケットから何かを取り出した。

「じ、実はぼ、僕、あの遊園地の会員になってて、フリーパスのチケット簡単に手に入るんです……。それで、あの、僕もチケットがあって……」

 取り出したのは同じくドリームフィールドパークの入場チケットだ。赤くなっていた顔が更に耳まで赤く染まる。

「……あの、もしお暇であ、あれば……よかったら、その……一緒に行きませんか?」

 しどろもどろながら、内容はデートの誘いだった。

――こ、こいつ……諦めてない。

 そっと隣に座る香織を見てみると、表情変えずに持っているチケットを眺めている。少し間を空けるとにこっと笑った。

「そうですね、せっかくお誘いいただいたんですから行きましょうか。……それに人数多いほうが楽しいですよね」

「あ、あ、ありがとうございます!」

 飛び跳ね喜んだ新拓だったが、すぐに正気に戻り動きを止めた。

「……人数が多いほうが?」

「えぇ。新拓さんと私とらむと……あと一人誰か誘って行きましょうね」

 ふふ、と無邪気に笑う香織の顔は新拓にとって残酷だったのかもしれない。喜びから一転、肩を落としがっくりしている新拓に思わず吹きだしそうになった。しかし、朝の一件で下向きだった私たちを笑わせてくれた新拓に、ほんの少しだけ感謝した。


 クラブからの帰るとさっそく香織からメールが入っていた。どうやら放課後に新拓と話し合って明日と決まったらしい。あと一人分のチケットはあるが、香織は私が誘いたい人を誘えばいいと言ってくれた。お言葉に甘えてあいつにメールを送った。もちろん、香織が誘ったと付け加えた。……どんな展開になるのかものすごく楽しみだ。

 ベッドの上に横になると、嫌でも朝のことを思い出す。

――でも……今は忘れよう。きっと休みが明けたらみんなわかってくれるよ。

 初めて行くドリームフィールドパークを楽しみにしながら、私は眠りについた。


お読みいただきましてありがとうございます。


本当は二つに分けようかと思ったのですがキリが悪くなったため一つにまとめました。長くなってしまって申し訳ありません。

あとずっと思っていたのですが、夢の中と現実の世界を行き来する話が続いていますが、分かりにくいでしょうか……?

一応題のところで書いていたりしているんですが……なにかありましたらご意見ください。お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ