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94話 生存方法


 外が暗くなってきて、アドニスは外の様子を見てくると言ってしばらく帰ってこない。


「……心配だ……」


 もしかしたら魔物に襲われているかもしれない。


──ギギギッ

「っ」


 ギギギと古い扉の軋む音がした。扉が開けられたのだろう。すぐにシンシアは警戒する。


「周りは大丈夫みたいだ。何か食べれる物を1つくらい食べて寝よう」

「アドニスか……分かった」


 それから2人は棚にあった果物を1つ食べて、冷たい床に横になった。


「眠れそうか?」

「怖くて眠れそうにないよ。それにこのキツネの子が安全なのかも分からない」

「まあ……そうだな。だが今はここで寝泊まりするしかない。しっかり休め」


 アドニスはそういうと寝返りを打って壁の方を向いてしまった。

 シンシアは天井を見上げて、ぼんやりと自分が死んだ先の世界を想像していた。


 サラは女神の仕事に戻って、学校のアイリ達は立派に仕事について。イヴはクラリスと一緒に再び魔王城に戻る。……皆離れ離れになってしまう。

 シンシアは、自分が皆に置き去りにされているような気がして胸が苦しくなった。

 これからどのくらいここで生活しなければならないのか。そんな事を考える程に胸は苦しくなってきて、呼吸が荒くなってきた。


「シンシア。大丈夫か」


 アドニスに声をかけられてハッと我に返る。


「怖いならこっちに来てもいいんだぞ」


 そういって自分の片腕を腕枕のように広げて、横の床を叩いた。


「……大丈夫だ……そこまで子供じゃない」

「そうか、あんまり考え込むんじゃないぞ。馬鹿になるくらいが1番幸せに生きられるんだ」

「馬鹿……か。それが1番難しいんだ」

「ご最もだ」


 世の中の馬鹿を羨ましく思う。日頃からこんなに悩むこともなく、自由に楽しく生きてられる。幸せで俺達とは違う生き物だ。


「はぁ……今度こそおやすみ」

「おう」


 何も考えないようにして、シンシアは目を瞑った。



◆◆◆◆◆



 騒がしい。人混みの中にいるような、そんな感じだ。ここはどこだ? 街? 人が沢山いる。

 俺の周りを大勢の人が歩いている。皆、小さな俺に気付かずにぶつかりながら急ぎ足だ。俺だけ人混みに流されてどこか分からない場所に連れていかれている。


 空を見上げると真っ赤に染まっていた。夕焼けではない。まるで血のように赤黒く染まっている。

 再び視線を下に戻すと、人々がいなくなっていた。


「……なんだ……?」


 遠くに人影が見える。目を凝らしても輪郭がはっきりせず、陽炎のようにボヤけている。その人影はゆっくりとこちらに近づいてきている。

 段々と胸が苦しく、痛くなってきた。


 人影との距離が縮まってくる程に、シンシアは膝から崩れ落ち始めた。そしてコンクリートに倒れる。

 苦しい。上手く息ができない。上の方から足音が聞こえる。しかし、視界がチカチカと白く点滅していて分からない。耳鳴りも凄い。

 それなのに足音だけが、妙に鮮明に聞こえる。


──

────

──────


「起きろ!」

「っ!?」


 アドニスの大声にビックリして身体を起こす。


「な、なんだ泣いてるのか? しかしそんな場合じゃない!」

「アッアドニスどこに行くんだ!?」


 アドニスは急に階段を上っていった。

 シンシアも付いていくと、窓の外を見ていた。その窓から外を覗き込む。


「っ!? 魔物の……群れ……」


 ゴブリン達は火のついた松明を掲げ、オーガ達は大きな武器を持ってこの塔へ向かってきていた。


──ヒュンッ


 シンシアの真横を矢が通り過ぎていった。


「…………」

「お、おい! 中に入れないようにするぞ! 顔を出すな!!」


 また矢を放たれないようにと、アドニスに頭を抑えられてすぐに扉を2人で押さえつける。


「……俺は死ぬのか……?」

「諦めるのはまだ早い!!」

──ガンッ

「っ──!」


 扉を強い力で叩かれた。鍵がかかっているとはいえ、壊されてしまったらそれこそ終わりだ。


「抑えろっ!!」

「……もう無理だろ」


 シンシアは完全に諦めていた。

 何か痛い。と思い頬に触れると、先程頬をかすめた矢によって血が流れていた。


──バキッ

「くそっっ……地下室に逃げるぞっ!!」

「…………」


 しかしシンシアはその場から動こうとしなかった。

 指先についた血を眺めては、なんでまだ助かると思ってるんだ? と疑問の目をアドニスに向けてきた。


「しっかりっ……しろっ!!」


 アドニスはシンシアは肩に担いで地下室に連れていった。


 地下室にやってくると、キツネの娘の横にシンシアを置いてアドニスは武器を手に取った。


「女のお前なら生き延びる事ができるだろう。いつかこの森から逃げ出すチャンスを手にする事ができるはずだ」


 アドニスはゆっくりと剣を振り上げた。


「アドニス、何をするつもっ──」


 剣の柄頭の方でシンシアの首を後ろから叩き、シンシアは意識を失った。


「そのキツネの娘と2人で生き延びるんだ」


 アドニスはそう言い残し、階段を上がっていった。

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