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85話 巨大な鬼


 順調にダンジョンの中を進んでいき、ゴブリン達も簡単に倒せるようになってきてこのままクリア出来そうだ。というような雰囲気になり始めた。

 そしてそんな油断している時に、それはやってきた。


「デケェッ!? オーガだ! 一度下がれ!!」


 別れ道の曲がり角、そこから3mはある赤い身体のオーガが現れた。ゴブリンと同じように手足が異様に長く、手には3m以上はある巨大なハンマーを持っている。


「ボスかっ!?」

「いや、まだ道中だからボスではない!」

「マジかよっ!! これが道中に出てくる雑魚か!?」


 確かに雑魚にしてはボスのように大きな体格だ。この広いダンジョンの地形を最大限利用できる程のオーガ。──それもなんと……


「後ろにももう一体いるぞっ!」


 巨大なオーガが二体。この一本道の道中で挟み撃ちにされてしまった。

 更にオーガの足元からはあの小さなゴブリン達がワラワラと湧いてきている。このままでは力と数の暴力で防御の結界が持たないかもしれない。


 ギルドの調査隊が 「魔物の数がかなり多い」 と報告したのはこの事か。


「くそっ! とにかく近くに集まれ! 基本攻撃は魔法だ! 俺達はとにかく耐えるぞ!!」

「「おぉっ!!」」


 剣を持つハンター達が魔法使いの周りを囲んだ。そうして防御を固めつつ守られた魔法使いが魔物を倒していく、という作戦なのだろう。


「嬢ちゃん! さっきのでけぇ火の玉は撃てそうか!?」

「アレを何度も使っていたら魔力切れを起こしてしまう」

「1回でいい! ゴブリン達を一度倒してくれ!」

「分かった」


 かなりの速さで近づいてくるゴブリン達に向けて先程の魔法を撃ち込む。これで片方のゴブリン達は殲滅できるだろう。

 他の魔法使い達はもう片方のゴブリン達に向けて様々な魔法を撃ち始めた。炎で燃やし、水で流し、凍らせ、風で切りぎさみ。

 その間にも、巨大なオーガはゆっくりとこちらに近づいてきている。


 ゴブリンと同じような身体の形をしている為、きっとあのオーガも素早い動きが可能だろう。


「サラ、俺の代わりに結界貼ってくれるか? 神だとバレないようにな」

「任せて」


 サラが手の平を上に向けると、そこに紫色のオーラのような物が集まってきた。


「な、なんだそれ」

「空気中の魔力。魔法使い達がどんどん魔法を使ってくれてるから、それで零れた魔力を集めて結界にするの」

「そんな技術が……頼んだ!」


 シンシアの魔法によってゴブリン達が殲滅され、目の前には巨大なオーガしか残っていない。

 オーガが足元を見てゴブリン達がいない事を確認すると、首をカクカクと気持ち悪く動かしはじめた。

 何をするつもりだ。


 刹那、オーガの身体が消えた。

 違う。オーガが一瞬で上にジャンプしたのだ。


「マズイっ!?」


 かなりの高さに飛躍したオーガは、巨大なハンマーを振り下ろし落下の威力でシンシア達を叩き潰そうとしている。これは流石に今サラが作っている結界でも防げないだろう。


「サラッ!!」

「シンシアちゃん! 私達に当たるギリギリで一瞬だけ結界を貼って! それも全力で!!」

「も、もし当たったら!?」

「シンシアちゃんならできる! もし無理そうだったら私の魔力で防ぐから!」


 くっ……やるしかない。当たるギリギリで結界……ギリギリで結界。

 遥か上の方からオーガの輪郭がハッキリ近づいてくるのが分かる。ハンター達はそれに気づいていない様子だ。


 シンシアはオーガの落下速度と距離を必死に見ながらタイミングを測る。


「っっ────っっ……」


 もしタイミングを間違えればここにいる全員がミンチになる。その恐怖で手足が震える。


「──む、無理だ! サラ頼む!!」

「分かった! じゃあシンシアちゃんは結界をお願い!」


 恐怖に耐えられなくなったシンシアがサラに助けを求める。するとサラは剣を抜いて高く飛び上がった。


「なっ、何をっ……」


 シンシアは咄嗟に結界の維持を代わったが、サラの様子をしっかり目で追った。

 まるで重量が無いのかと思う程に壁を走り、一気に飛び上がると落下してくるオーガを蹴り飛ばした。


「っ……すっ……げ……」


 あの巨大なオーガは、遠くの壁に吹き飛びハンマーを手から離した。

 そこにサラは再び壁を走りながら向かうと、ぼんやりとした輪郭でしか捉えられなくなり次の瞬間には消えた。


 背後のハンター達はゴブリン達の攻撃から身を守る事に集中しているが、もうすぐゴブリン達も殲滅される。

 さっきの様子だと、ゴブリンがいなくなったらオーガが動き出すようだ。その前にサラが帰ってこなければならない。


 再びサラの方に視線を戻すと、死んだオーガが灰のようになりダンジョンの床に吸い込まれていくのが見えた。


「ただいまっ! 誰も見てなかった?」

「あ、あぁ。凄いな」

「でも次は他の人も見てるからできないよ」


 このままゴブリンを倒してしまっていいのだろうか。またオーガが飛び上がって先程のように攻撃をしてきたら、今度こそ俺が結界を貼らなければならなくなってしまう。そんな大役、俺にはできそうにない。


「皆! ゴブリンの最後の1匹だけは残してオーガを先に倒してくれ!!」

「っ! どういう作戦かは分からねぇが了解した!」

「皆には俺が結界を常に貼る! 直接オーガを切り刻んできてくれ!!!」


 ハンター達が一斉に前に飛び出し、1匹だけ残ったゴブリンは走り抜けていくハンター達を見て困惑していた。

 そうしてハンターに攻撃しにいこうとしたところをサラが捕まえた。


「こらっ、君はここで待ってなさいっ!」

「ギャーーー!!」


 サラに羽交い締めされるゴブリンを見て、少し可愛く思えてきた。


 予想通り、オーガは最後のゴブリンが死ぬまではゆっくりとしか動けないようだ。流石に精霊も難易度調整くらいはできるって事だな。


 ゆっくりとしか動けないオーガは足元に群がるハンター達を殺そうと、ハンマーを地面に叩きつける。

 しかしそれは難なく避けられる。


「ッガァァァァァアアアアア!!!」

「っっ……うるせっ」


 オーガが怒りの雄叫びをあげて、ビリビリと空気が振動する。


「嬢ちゃん! 顔に1発デカイのを撃ち込んでくれ!」

「っ! 分かった!」


 シンシアはこれで止めをさすつもりで、自分が書いている教科書を取り出す。


「氷よ 全ての時を止め 混沌の世に終わりをもたらす氷よ 今ここに収束し 悪を貫く槍と化せ 身に宿りし精霊よ この世の全ての魔力と調和し 世に平和をもたらさん」


 とてつもなく長い詠唱。それを覚える事ができないシンシアは、教科書に書いてある文字を読みながら唱えた。


「氷結の聖槍──アイスホーリースピア!!」


 中二病? それは全ての魔法を生み出した者に言ってくれ。


 シンシアの目の前にオーガよりも巨大な魔法陣が現れ、そこから鋭い氷の槍が現れた。

 それは一直線にオーガの顔へと飛んでいき、オーガの顔に触れた瞬間、眩しい光を放ち爆発を起こした。


◆◇◆◇◆


──ゃん──ンシアちゃ──シンシアちゃん」


 んっ……魔力切れで倒れたのか。流石にあの魔法は魔力消費がでかいな。


「あぁ〜……ごめん」

「大丈夫。さっきの魔法凄かったよ!」

「ありがとう」


 周りのハンター達はシンシアに拍手を送っていた。


「……でもまだボスがいるだろ?」

「そうだ! 少し休憩したら先に進むぞ!」


 道中でこんなに苦労してんのに、ボスになったらどれだけ酷いんだろうな。

 心配しつつもサラから渡されたパンやら果物なんかを食べて魔力を回復させる。

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