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79話 セドリックの遺品


 元国王セドリックの死によって、いつもは活気溢れる街に静かな夜がやってきた。ヘレン姫はしばらく部屋に篭るといって出てこない。


「シンシア殿、サラ殿。少し良いだろうか」


 部屋で静かに食事をしているとアルバがやってきた。


「どうした?」

「セドリック様の遺品を探そうと思っていてな。セドリック様の部屋の前にある倉庫の鍵を部屋で見つけた。一緒に見てみないか?」


 あのやけに豪華だった倉庫か。


「サラはどうする?」

「シンシアちゃんが行くなら行くよ」

「じゃあ行く」


 2人とも立ち上がると、アルバは腰についている鍵をサラに渡した。


「えっ?」

「サラ殿が開けてくれ。セドリック様に 「倉庫は絶対に開けるな」と城の者全員に言われているんだ」


 あくまでも自分達にセドリックが言った事は守る、という事だろう。


「分かりましたっ! お宝探しです!」


 サラは鍵を上に掲げながらウキウキと倉庫へ向かった。


◆◇◆◇◆


「ここが倉庫ですね」

「ま、待ってくれ。私の心の準備がまだ出来ていない」


 アルバは胸に手を当てて深く深呼吸を繰り返し始めた。


「俺と戦う時より緊張していないか?」

「そ、そうか?」

「別にいいけど……」


 大魔道士を目指すシンシアとしては、倉庫を開ける方が緊張するという事に敗北感を感じた。


「すまない。開けてくれ」

「分かりましたっ!」


 サラがゆっくりと鍵穴に鍵を差し込み、回す。


──カチャッ

「開きましたね」


 そのままドアノブを回し、扉を引く。


「っ!」

「おぉ」


 倉庫の中、そこには子供用の玩具や子供が描いた絵。写真のように精密に描かれた子供や大人の姿。なかにはヘレン姫にそっくりのイラストまで飾ってあった。


「これはっ……ヘレン姫と私が庭を散歩している様子だ……」


 アルバが触れた絵。そこには笑顔で手を繋ぎながら庭を歩く2人の様子が描かれていた。


「セドリックさんが描いていたんでしょうね」

「……っ! ヘレン姫に見せなければっ!!」


 アルバはすぐに倉庫から出ていって、ヘレン姫を呼びに行った。

 その間、シンシアとサラは倉庫の中にある物を色々と見て回った。


「ヘレン姫達が小さい頃に遊んでいた玩具を大事に取ってたんだな」

「そんな事を知られたら恥ずかしいから、大事に隠してたんだね」


 ふと、シンシアは自分の父親の顔が思い浮かんだ。


「……っっ!」

「どうしたの?」

「い、いやっ……」


 急に何かに殴られたような頭痛がして、シンシアはふらつく。


「……サラ……俺って……なんでお父さんと別れたんだっけ……っていうか、なんで俺この世界に来たんだっけ……」


 こっちの世界に来る事になった原因が思い出せない。昔の事だから忘れているのかもしれないが、知りたい。


「き、気にしなくていい事だよ。シンシアちゃんの家族は今も元気にしてる」

「そうか……ならいいんだ。皆が元気にしてるならいい……」


 しかし、何故か酷く悲しい気分になってきた。どうしてだ? 皆元気にしているのなら安心できるじゃないか。


「シンシアちゃん、その事についてはあまり考えないで。苦しいでしょ?」

「っ……」


 フラフラしてきた。これ以上考えても何も分からないし、ただ頭痛が激しくなるばかりだ。


「ごめん。俺はもうこっちの世界にいるんだし、気にしなくていいよな」

「今のシンシアちゃんの家族は私だから。苦しい時は私を思ってね!」

「それはどうかな」


 いつもサラに苦しめられてる気がする。


 しばらくしてアルバがパジャマ姿でボサボサの寝癖を付けたヘレン姫を連れてきた。


「この部屋は……っ! ど、どうしてサラさん達までっ!? す、すみません! すぐに着替えて──」

「大丈夫ですから! これを見てください!」

「えっ!? えっ!」


 背中を押されるヘレン姫は必死に寝癖やシワのついたパジャマを整えて、アルバが見せようとした絵を見た。


「こっ……これは……」

「ヘレン姫様のお父様が描いた物ですよ」


 ヘレン姫は、しばらくの沈黙の後にゆっくりと口元を抑えて涙を流した。


「お父上はっ……ずっと私達の事を応援していたのですねっ……」


 泣き始めたヘレン姫を後ろから優しく抱きしめるアルバ。それを見てシンシアは自分の中の何かが捻じ曲がりそうな気がして、目をそらした。


◆◇◆◇◆


「懐かしい……ずっとここにあったんですね……」


 倉庫の中にある子供用の玩具を触りながら、ヘレン姫は小さい頃を思い出して笑っていた。


「っ、そうだ。私の剣はシンシア殿に渡そう」

「? な、なんでだ? 騎士にとって剣って命なんじゃ」

「私は騎士を辞めて、ヘレン姫の傍にずっと居ることに決めた。騎士じゃなくても守れるものはある」


 そういって綺麗に磨かれている剣をシンシアに差し出した。


「アルバ? 良いのですか?」

「私にとっては、剣よりもヘレン姫様の方が大事だ」

「アルバ……」


 これ以上この2人の様子を見守っていても何のメリットもない為、仕方なくシンシアは剣を受け取った。


「2人は私達2人の命の恩人だ。そのお礼もまだしていない。何かしてやれる事はないだろうか」


 そういえばそういう話があった事を思い出す。


「この剣で十分だ」


 しかしそれなりに大きさと重みのあるこの剣は、子供のシンシアが使うには大きすぎる。大人に変身した時、それかサラに使わせるかのどちらかだろう。


「そうか。では、これから何かする予定は決まっているか?」


 そう聞かれてシンシアはする事を考える。


「……あっ、そうそう。ダンジョンに行きたいって考えてたんだ」

「ダンジョンか……この近くにはないな。少し離れた場所にはあるが、そのダンジョンに行くなら北にある国で寝泊まりを確保してからの方が良い」

「となると、次の行き先は北になるな」


 そういってサラの方を見ると、まだ何かやり残した事があるような顔をしていた。


「サラ?」

「シンシアちゃん……私達、大事な事忘れてる気がするの」

「?」


 大事な事。はて、何か他に目的があっただろうか。


「この国の美味しいデザートをまだ食べてないよっ!」

「あぁっ!! デザートッ!!」


 この国に来てステーキやらの美味しい食事は沢山食べさせてもらった。しかし食後のデザートがまだではないか。


「すまない。この城ではデザートは作っていないんだ」

「まだしばらくこの国に残って街でデザート食べるよ!」

「アルバさん、オススメのお店ある?」


 果たしてこんなシンシアは大魔道士になれるのだろうか。

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