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7話 ゾーンという現象


「シンシアちゃ〜ん!」

「うわぁっ!?」

「きゃっ!」


 一般生徒達を眺めていたら、突然後ろから抱きつかれて俺とアイリは声を上げてしまった。


「なんだサラか……ビックリした」

「先生驚かさないでくださいっ!」

「ごめんね〜、屋上使用の許可が降りたから行こ? アデル君とシェフィ君は先に行ってるよ」


 もう準備が出来たのか。じゃあ早速行くとするかね。


◆◇◆◇◆


 この学園は屋上が二つある。特別クラスの校舎と一般クラスの校舎。今回特別クラスの屋上を借りる事ができたようだ。


「まずはどれだけ暴れても大丈夫なように結界を貼るね。シンシアちゃん以外は離れて」

「「は〜い」」


 かなり広い屋上だが、訓練にこれ程の広さが必要なのだろうか。

 サラが何かボソッと呟くと、空気中にシャボン玉のように透明な膜が現れた。その中にいる俺には、何か不思議な圧力のような物を感じる。


「これが結界?」

「そう。怪我しても即時回復してくれるし、体力もずっと回復し続けるの。身体の披露は溜まるけどかなり効率的に訓練ができるよ」


 おぉ〜結界って便利なんだな。今度図書室にでも言って結界魔法について調べるのも良さそうだ。


「早速だけど、まずはシンシアの基礎的な運動能力を調べるから結界の中を何周か走ってみて」


 結界内の範囲はとても広い。荷台のついたトラックが3台は駐車できる広さがある為、1周するにはかなりの距離があるだろう。

 結界の外で皆が俺を見てるし、頑張らないといけないな。


「もう走っていいのか?」

「うん。頑張って♡」


 この小さな身体の歩幅で走るとしたら……考えない方が良いだろう。ただ無心に走り続ければいい。


「じゃあスタートの合図して。その方が気合い入るから」

「分かった! よ〜い……スタートッ!」


 スタートの合図と共に走り始める。思った以上に足が遅いが、この身体なら十分な速さではないだろうか。

 体力も自動的に回復し続けるっぽいし、最初から本気で走るぞ。


「シンシアちゃん速いよ〜っ!!」

「頑張れ〜!」


 アイリとアデルが手を振っている。この調子でコケないように走れば……。


 と、まさにコケないように考えていた時だった。つま先が地面に当たって、上半身のみが前へと倒れる。


「危ないっ!!」


 まだ1周も走っていないというのに、今目の前には地面が迫ってきている。やはり慣れない身体は下手に使うもんじゃないな。


「……?」


 しかし完全にバランスを崩しているのにも関わらず、何故か立て直せる気がした。

 突然思考に様々な情報が入ってくる。アイリやアデル、シェフィの声。サラがニコニコと立っている姿。そして自分の考えている事が脳内でザワザワと騒がしく音を立てる。

 まるで時がゆっくりと進んでいるかのような……いや、俺の思考が加速している感覚だ。その感覚に驚くよりも先に身体が動き始めていた。


 両手を地面に付けて、足の代わりに身体を支える事に成功する。そして今までの速度を落とさないよう、まるで四足歩行の動物のように後ろ足を腕の前へ伸ばし、再び両足を地面に付ける。


「マジ……か」


 自分でも驚くことに、一度バランスを崩したはずの身体は速度を落とすことなくほんの一瞬で再び走り出す事に成功したのであった。


「……シンシアちゃん凄いっ!!」

「何だ今の動きすげぇっ!!」

「カッコイイよ!!」


 皆が驚きの声を上げているが、一番驚いているのは俺だ。しかしサラだけはこうなる事が分かっていたかのように真っ直ぐと立っていた。



 その後はなんとか安全に走り続ける事ができて、2周しただけでサラに止められた。


「はい、お疲れ様」

「シンシアちゃん頑張ったね!」

「最初凄かったな!」

「狼みたいだったよ!」


 未だに最初のあの現象に理解できないが、なんとかサラが満足するような結果を出せたようだ。その証拠にサラの顔は満面の笑みである。


「完璧だよっ!! す〜〜〜っっ」

「だっ、抱きつくな! 汗かいてるから匂い嗅ぐなっ!!」


 抱きつくサラを引き剥がそうとしたが、力の差がありすぎてそのまま汗の匂いを堪能された。


◆◇◆◇◆


「あの現象はゾーンって言うんだよ」

「ゾーン?」


 サラがひとしきり匂いを堪能した後、先程の現象の説明をしてくれた。


「ゾーンっていうのは誰にでも起こり得る現象なの。皆が前の世界にいた時なんかに、スポーツ選手がヒーローインタビューの時に 『玉が止まって見えましたね』 とか言うのは、そのゾーンに入ったからなの」


 あぁ〜確かに何回か聞いたことはある。しかし、あんな現象は初めて経験したから前世で聞いた時は 『こいつ調子乗ってんな』くらいにしか思ってなかった。


「もしあの時ゾーンに入らなかったらどうなってたんだ?」

「私が助けてたよ。でもいきなりゾーンに入ってるから驚いちゃった」


 だから笑ってたのか。


「もうあの感覚を経験したから、次はゾーンに意図的に入る練習だね」

「あの〜……剣術とか魔術はいつ教えてくれるんだ?」

「ゾーンを完璧に習得してからじゃないと相手の動きが読めないから危険だよ。急がなくても大丈夫、シンシアちゃんならすぐできるから」


 それなら良いのだが。

 それに、あの感覚を意図的に使えるようになったら最強になれる気がする。ゾーンか……中二心を擽る名前だな。


「先生! そのゾーンっての俺達にも教えてください!」

「えぇ〜私はシンシアちゃんだけに教えたいのに〜……」


 それでも先生かよ……。

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