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78話 死とは悲しい


「この子の血が止まりませんっ!!」

「なんとかして止めろ! 治癒魔法で止められるはずだろ!!」

「それがっ! 魔力が少しも残ってないんです!! 魔力がないと自然回復能力が働かないのは知ってますよねっ!?」

「アルバさんの方は何の傷もありません! 何が起きているんでしょうかっっ!!」

「シンシアちゃんっ!!」


 二人の治療を行っている医務室に、サラが駆け込んできた。


「こ、こらっ! 今は部外者は立ち入り禁止だっ!」

「アルバッ!!」

「なっ! ヘレン姫様っ!!」


 サラとヘレンがシンシアとアルバの元に駆け寄って、状況を確認する。


「シンシアちゃんっ……そっか、魔力がないからっ……でも私が魔力を入れちゃったらっ……いや、少しくらいなら多分……大丈夫だよねっ!」


 サラは自分の魔力をシンシアに分け与えて、なんとか治癒魔法が効くようになる。

 この世界の人間は魔力が無ければ傷を自然回復する事ができない。治癒魔法は自然回復は早める魔法であり、魔力が無い者は怪我を治す事ができないのだ。


「……よしっ治っていってる」


 サラの中の女神の魔力をシンシアに分け与えた事で、サラの治癒魔法が効くようになった。

 見る見る内に傷が塞がっていく様子を見て、医務室の人々は驚いていた。


「あっ……貴女は……?」

「この子の保護者! 食べ物を沢山用意してっ!!」

「……はっ……?」

「早くっ!!!」

「は、はい!!」


──────

────

──


──

────

──────


「ぅ……ん……あれっ……ここは?」

「馬鹿っ!!」

「うわぁっ!?」


 目を覚ますと、突然横にいたサラが馬鹿と叫んでシンシアはビクンと身体を震わせる。

 ここはお城の中だろう。


「魔力切れで回復魔法効かなくなるの知らなかったの!? シンシアちゃんあのままじゃ死んでたよ!?」

「えっ? あぁ〜そういえばそんな事本に書いてあったな…………ごめんごめん。で、誰が魔力を別けてくれたんだ?」

「私……」

「え?」


 今……なんて言った? 私? サラが?

 確か……神の魔力が人間の身体に入ってしまえば、制御出来ずに魔力が暴走して身体が崩壊する……みたいな事……聞いたような聞いてないような……。


「でっ、でもっ……ほんの少し、だから……シンシアちゃんの命を助ける為だったんだから仕方ないよ!!」

「うっ……ごめん。そんなに怒らないでくれ」

「怒るよっ!! もうっ! ……でも無事で良かった……ごめんね。私の魔力入れちゃったから……もう目を覚まさないのかと思って……」


 サラは本当に安心したように、泣きながらシンシアの手を握ってきた。

 この心配は神の魔力を入れてしまった事による心配だろう。この後暴走してしまうのではないか。崩壊しないのだろうか。そんな心配する思いが伝わってくる。


「っ! アルバは?」

「アルバさんならそこで」


 サラが指を差した方向を見ると、アルバがヘレン姫に果物を食べさせられていた。


「シンシアちゃんのお陰で元気にしてるよ」

「良かった……アルバさん全然降参しないし気絶もしないから……本当に焦った」


 降参して本当に良かったと思う。あのままだと絶対にアルバさんは死んでいた。

 多分、俺はアルバさんに勝つことはできないと思う。


「ほらシンシアちゃん、魔力回復しよっ」

「っ!!! 飯だっ!!!」


 目の前に運ばれてきた果物やらスープなんかを見て、シンシアは興奮して一気に食べ始めた。


◆◇◆◇◆


「ふぃ〜食った食った」

「良かった……魔力満タンになっても暴走しないね」

「大丈夫だろ」


 元気も力も取り戻したシンシアは、ベッドから降りた。


「どこ行くの?」

「アルバと話に行くよ」


 シンシアがアルバの元に行くと、ヘレン姫とアルバがこちらを見てニコッと笑った。


「やはり仮面をしていないと可愛いな」

「ん? かめ…………あぁっ! サラ! 仮面っっ!!」

「はいはい」


 すぐにサラから仮面を貰って装着する。


「ど、どうだ体調は」

「アルバはずっと元気ですよ。シンシアさんの方が心配でした」

「……」


 アルバの方が重症だったのに俺の方が心配されてて、なんとなく悲しい気持ちになる。


「アルバ……痛かったろ」

「ふっ……勝負に勝ったのだから私の勝ちだ」

「なっ! お前瀕死だったんだぞ!? 俺が助けてやったんだからなっ!」

「はっはっはっ! 諦めなければ勝てる、という事だ!!」


 こいつっっっ……!!! 俺が助けなければ死んでたというのに、結果論を語りやがって!


「まあ、正直私もあの時はどうにかしていたと思う。シンシア殿が傷を治してくれなければ、私は2度とヘレン姫にこうして果物を食べさせては貰えなかっただろう」

「はっ……良かったな……」


 確かに降参したのは俺だけどよ……なんか……なんか悔しい。

 しかしこれはアルバの強い信念に負けたという事だ。素直に負けを認めよう。


「これで……お父上もアルバを認めてくれるのでしょうか……」

「? そういや、まだセドリックがアルバに話しかけない理由気づいてないのか?」

「ん? なんだ? 自分は分かっている、と言いたそうな顔をしているな」

「仕方ねぇ教えてやるよ」

「ヘレン姫様っ!! 大変です!! セドリック様の体調が急に悪化してっ!!!」

「「っ!?」」


 突然部屋に入ってきた兵士に、突然な事を告げられた。


◆◇◆◇◆


「お父上っ!!」


 全員でセドリックの部屋に来ると、セドリックは大量の汗を流しながら苦しそうに布団を握りしめていた。

 しかしヘレン姫の姿を目にすると、身体を起こそうしはじめた。


「お父上! 無理しないでください!」

「ヘレッ……ン……すまない…………」

「お父上っっ! どうして謝るのですかっ!? まだ長生きすると仰っていたではありませんかっ!!」


 ヘレン姫は大粒の涙を流しながら、セドリックの胸に顔をうずくめた。


「すまっ……ん……ガハッ──!」

「お父さんっっ!!」


 セドリックが口から血を吐き、ヘレン姫は「お父さん」と叫んだ。


「死なないでっ! お願いっっ!! ねぇっ!」

「……アルバ……いる……か?」

「っ! な、なんでしょう!!」


 セドリックは、天井をぼんやり見つめながらアルバの名を読んだ。


「……すまなかった…………今までっ……ヘレンの恋人っ……だからと、緊張して話すことがっ……ガハッ……出来なかった」

「っ! セドリック様! それ以上喋らないでください! 血がっっ!!!」

「お前は……騎士に向いていないっ…………」

「セドリック様……」


 セドリックはゆっくりアルバの目を見た。


「騎士をやめて……安全な場所で…………私のヘレンを……支えてやってくれ……」

「セドリック……様っ……」


 アルバは、今までのセドリックの言葉の意味を全て理解して涙を流した。

 自分は嫌われていたのではない。ちゃんと、ヘレン姫の恋人として扱われていた。身体の心配をして、騎士をやめるように言ってくれた。


「緊張なんてっ……そんな事知っていたら……もっと沢山話したい事があったのにっ……」

「ヘレンを…………頼んだぞ……」

「セドリック様ぁっ……!!」

「お父さんっ! ダメっ!」

「ヘレン…………」

「っ! 何っ? お父さん」

「……」


 セドリックは、最後にヘレンの名を呼んでゆっくり天井を見上げた。


「……お父さん……? 何? ねぇ……何か喋ってよっ……ねぇ! お父さんの声聞こえないよっ!!」

「ヘレン姫様っ…………」


 泣き叫ぶヘレン姫を抱きしめるアルバ。

 周りのメイドや執事達も、皆が涙を流し悲しんだ。


 その日、ヘレン姫の父親。セドリックは息を引き取った。


◆◇◆◇◆


 次の日の朝から、葬式は国民全員が集まって行われた。


「シンシアちゃん……セドリックさん、最後何を言いたかったんだろうね」

「……分からない……っ……」

「はい、ハンカチ」

「泣いてない……」


 シンシアは仮面の中に手を入れて涙を拭いた。

 良い父親の最後は、本当に悲しい。何故死という物はこんなにも悲しいのだろう。


 それからシンシアは、少し早めに城に帰って気分転換の為に腹を満たした。

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