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74話 やっぱりレズじゃないか


 王都に到着すると、大勢の人々がこの馬車に向けて手を振っていた。


「ヘレン姫様が帰ってきたぞぉ〜!!」

「姫様〜!!」


 あまりの熱気にシンシアはクラクラしながら、あまり姿を見られないように馬車の中に身体を隠す。

 姫様は馬車から身体を乗り出して皆に手を振っているが、そのまま落ちてしまいそうで危ない。


「姫様、危ないのでもう少し中に入ってください」

「良いじゃないのアルバ。皆に心配をかけたのよ」

「はぁ……」


 アルバは頭を抱えてため息をついた。


「心配って……何かあったのか?」


 シンシアが尋ねると、アルバはふっと笑いながら答えた。


「ああ、といっても少し離れた国に行っただけなんだがな。ヘレン姫は身体が弱く、国民達は元気に帰ってこれるか心配していたんだ」


 国民に心配される程身体が弱いって……それは護衛も大変だろうな。


「げほっげほっ! ちょっと声を出しすぎたみたいです……」


 馬車の中に身体を戻した姫様は、恥ずかしそうに身だしなみを整えて座った。

 しかし国民達はまだ馬車に手を振って姫様の名前を呼んでいる。もう少し姫様の体調を気遣ってやる事はできないのだろうか。


「姫様、帰ったらしっかり休んでくださいね」

「分かっていますよ。でもその前にこの方達にお礼をしたいのです」

「まずは休む事を優先させてください。サラ殿とシンシア殿は旅の者だろう? 城の一室を貸そう。そこで今日は休んでくれ」


 護衛の騎士なのにそういう権限を持っているのか? しかし城の部屋に泊まれるのは嬉しい。泊まるとなると食事も与えられる。きっと豪華な食事を食べる事が出来るだろう。


──ぐぅぅ〜〜……

「……気にするな」

「はっはっはっ、城についたらすぐに食事も用意してもらうよ」

「もう〜シンシアちゃんは食いしん坊なんだからっ!」

「うるさい」


 お腹が鳴って恥ずかしそうに顔を背けるシンシアを見て、ヘレン姫は嬉しそうに笑った。


「もしよろしかったら、ご一緒にお食事しませんか?」

「姫様。食事の時くらいは1人でゆっくり食べないと、身体を休める事ができませんよ」

「良いではないですか。お二人共いかがです?」


 シンシアはあまり誰かと食事を取りたいとは思わない。しかし姫様からのお誘いであり、今日は部屋も貸してくれて食事も貰えるのだから断るのは失礼だろう。


「分かった」

「私も!」


 サラはシンシアの言いつけを守り、全ての判断をシンシアに任せていた。

 今後ともサラが勝手に判断して行動しないよう気を付けて見ていないとな。じゃないといつの間にか大勢の前で可愛い服を着させられる事になる。


◆◇◆◇◆


「荷物を持って私達に付いてきてくれ。城の者には私から話そう」

「さっきから思ってたんだが、アルバさんって本当にただの護衛なのか?」


 ついに聞きたくなってシンシアは質問した。


「アルバは私の幼馴染であり、私の恋人でもあるんです」

「恋人っ……!?」


 ヘレン姫が衝撃の事実を話して驚いたシンシアがアルバを見ると、アルバは顔を赤くしながら無言で遠くを見つめていた。


「……ま、まあな。私は姫を守ると約束したんだ」

「カッコイイな」

「っ! だろうっ!? そう! カッコイイ!」


 シンシアが無意識に褒めると、カッコイイという言葉に反応してアルバは喜んだ。


「私は小さい頃色々あって、姫様を守る強くて男らしい騎士になると決めたんだ」

「今度詳しくお話したいですね」


 空を見上げて過去を思い出すアルバと、それを見てニコニコしているヘレン姫。2人の姿はまさに男女の恋人と変わらない雰囲気だった。

 しかし、2人とも女性である。


「レズか」

「レッ、レズって言うな! 国民には私と姫様を応援している者もいるのだぞっ!?」

「レズじゃないか」

「んもうっ!!」


 アルバはこれ以上無いくらいに顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。


「可愛い所もあるんだな」

「かわっ……次言ったらその仮面を取ってやる」

「わ、悪い」


 アルバのタブーに触れてしまい、シンシアは即座に謝った。


「うふふふ、2人とも仲が良くて嫉妬してしまいました」

「シンシアちゃん私にも構ってよ〜!」

「後でな……」

「やっぱりシンシア殿もレズではないか」

「俺はレズじゃないっ!!」


 そんなやり取りをしながら、4人は城の裏口までやってきた。


◆◇◆◇◆


 ヘレン姫とアルバが兵士に俺達の紹介をして中に入れてもらい、大広間へと連れてこられた。

 大広間にはメイドや執事達がせっせとお盆や本、花瓶なんかを運んでいた。


「っっ! お帰りなさいませヘレン姫様っ!!」

「「お帰りなさいませっ!」」


 ヘレン姫に気づいたメイドが頭を下げると、大広間にいた全員の人間も頭を下げた。


「ただいま帰りました。今日はこの方達と食事を共にするとお父上にお伝えください。 それでは行きましょうか」


 シンシア達がヘレン姫に付いていくと、少し広い部屋に到着した。

 その部屋はとても綺麗に掃除されており、中心にある大きなベッドのシーツにはシワ一つない。


「私の部屋なので、ご自由に寛いでください」

「やった〜!!」

「あっこらサラっ!」


 サラがいきなり大きなベッドに飛び込んで、シンシアは顔を真っ青にしてアルバの方を向く。仮面で真っ青になっている事は分からないのだがな。


「大丈夫だ。2人とも姫様の命の恩人なのだから、好きにしていい」

「ほっ……」


 安心してサラの方を見ると、既にスヤスヤと眠っていた。


「おいっ! 少しは緊張感を持て!」

「んぇ〜……? だって気持ち良いんだもん……ほら触ってみてよ」

「はぁ……? …………あっ、すげぇ。スベスベフワフワ……」


 シンシアもシーツを撫でてみると、触った感触が気持ちよくてついついさっきまで怒っていた事を忘れて夢中になってしまった。


「とっ、とにかく。いきなり人様の部屋に来て寝るのは失礼だろ。えっと……このソファ……」

「座って良いですよ」


 椅子に座って落ち着こうと思ったのだが、その椅子でさえも金色に光る繊維が見えて余計に座って緊張しそうだ。


「私は少しお父上とお話してきますので。アルバ、お二人をよろしくお願いします」

「分かったよヘレン」

「なっ!」


 アルバがヘレン姫を抱きしめて額にキスをした。そんなシーンを直視してしまったシンシアは、とんでもない物を見てしまったと顔を熱くしてプルプルと震えた。


「では、失礼します」


 ヘレン姫が部屋から出ていき、アルバがシンシアとサラの前の椅子に座った。


「さて……このまま無言で待っているのも暇だろうし、何か聞きたい事はあるか?」


 聞きたい事は沢山ある。


「やっぱりレズなんだな」

「っ……もうそういう事にしておいてやる。シンシア殿もレズだという事を認めるならな」

「おっ、俺はサラに一方的に好かれているだけでレズではない!」

「じゃあ男が好きなのか。乙女だな」

「なっ…………くっ……レズという事にしておいてやる……」


 レズではないと言えば、シンシアの中の男心が危険を感じ取った。元男のシンシアが男好きとなれば、それはつまりホモだったという事になる。

 だとしたらレズの方がマシだ。


 アルバには口で勝てる気がしない。


「ところで、二人はこの国にはどういった目的で来たのだ?」

「あぁ〜特に理由はない。これから旅をしていく上で、ここを最初の目的地としただけだ」

「なるほど。という事は旅はまだ始まったばかりという事だな」

「そういうことになる」


 するとアルバは少し考え始めた。


 しかし、こうして見ると騎士のアルバも姫様に劣らず美人だ。短い黒髪をオールバックにして後ろで小さくまとめているが、それでも女らしい顔付きは変わらず長いまつ毛と赤い唇、そして凛とした目付きはモデルを思い浮かべる。

 そんな綺麗な女性が銀色の鎧に身を包み、目の前で顎に手を当て考え事をしている姿は絵になる。


「こうして出会ったのも何かの縁だ。それにおんじんでもあるのだから、何か我々に手伝える事があれば何でも協力しよう」

「何でもと言われると悩むな」


 何でもすると言われればグヘヘな展開を思い浮かべるが、そんな事を姫様と騎士にしてしまえば即刻死刑だ。旅に役立つ何かをしてもらいたい。


「まだしばらくここに滞在するつもりだし、考える時間をくれ」

「ああ構わない。私としてもまだしばらくここに残っていてほしいんでな」

「……? なんでだ?」


 何か用でもあるのだろうか。


「いや、特に理由はない」

「なんじゃそりゃ……」

「さて、少し姫様の様子を見てくる。部屋でゆっくりしていてくれ」

「分かった」


 アルバが部屋から出ていったのでサラの方を見ると、サラは座りながらぐっすりと眠っていた。


「はぁ……仕方ないか」


 シンシアの少し眠気を感じていた為、ソファでそのまま眠ることにした。

 あのベッドで寝るには心の準備がいる。

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