69話 豹変
「この文字さえ覚えれば後は形状とパターンを覚えて、自分なりに組み合わせていくと好きな魔法が作れるんだよ」
「頑張ります……」
教科書に書かれている文字を見て、目を凝らしながら見ている。
ダリウス君ならすぐに覚えそうな勢いではあるし、次の週に期待しよう。
「とりあえず今から何か魔法作ってみようか」
紙とペンを取り出し、丸い円を描く。
「どんな魔法が良いと思う?」
「えっと……じゃあ、遠くの物を動かす魔法……」
「よし、作ってみよう」
シンシアとダリウス君は一緒に魔法陣の中身を考えて、コップを浮遊させる魔法を考えた。
覚えるにはまず実践的な事をしながらの方が頭に入りやすい。魔法陣を作りながら原理を理解していけば、きっとすぐ1人で魔法を作れるようになるだろう。
◆◇◆◇◆
「よしっ、試しに魔力を入れてみて」
「分かりました……おぉっ」
作った魔法陣に魔力を注いでみると、コップが少しだけフワフワと浮かんだ。
「もう少し魔力を大きくしたらもっと浮かぶかもしれないけど、危ないからここまでにしよう」
魔力を止めると、コップはしっかりテーブルの上に戻る。
「こ、これって……何でも作れるんですか?」
「多分作れない物はないと思うけど、どうしても扱いが難しくなっちゃう物とかはあるね」
シンシアが大人に変身するのもそうだ。短時間に大量の魔力を消費し続ける代わりに大人になっている。定期的に魔力を回復させなければ魔力切れ。気を失い、変身が解けてしまうのだ。
「あ、もしかして興味湧いてきた?」
「……は、はい。面白いです」
やはりダリウス君には教え甲斐がある。これなら、もっと色んな事を教えれば更に魔法の技術力も上がって、かなり凄い人になれるのではないだろうか。
「よし、もう少し魔法陣について詳しく教えていくね」
シンシアは人に教える事の楽しさに気付き、自分の知っている知識を色々と説明しながら教えていき、その日は前回よりもかなり遅れて家に帰宅した。
「ふぅ〜魔力切れギリギリだったかも」
「ちゃんと食べないとダメだよ? ほら、夕食できてるよ」
「ありがとう」
家に帰ってきたシンシアは、次週に向けて教える事や話題を考えながら夕食を食べた。
「最近のシンシアちゃん楽しそうだね」
「ん、そうか?」
「私もシンシアちゃんに色んな事教えたいな〜……」
クラリスさんにほとんど教わったからもう良いかな。
◆◇◆◇◆
次の週がやってきて、今日は朝からバタバタする事なく準備をする事が出来た。
サラ達に行ってきますと告げて、ダリウス君の家まで転移する。
いつものようにお父さんが玄関で出迎えてくれて、ダリウス君の部屋に行くと緊張した顔のダリウス君がいる。
「おはようダリウス君」
「おはようございます」
「魔法陣についてどこまで覚えたかな?」
家に来て早速魔法陣について質問した。
「えっと……一応、オリジナル……は作れなかったんですけど、既にある魔法を魔法陣にしてみました」
ダリウス君は眼鏡をかけて1枚の紙をテーブルの上に置いた。
「あれっ? 眼鏡……もしかして視力落ちちゃった?」
「最近落ちてきたような気がして……買ってもらいました」
確かに前の週は教科書を見る時に目を凝らしていたからな。
テーブルの紙の魔法陣の作り見ると、それは火の玉を前方に飛ばす簡単な魔法だった。しかしその魔法を魔法陣となって見るのはシンシアも初めてである。
「おぉ〜……確かに確かに! 一般的な魔法を魔法陣に置き換えるのも良い練習かもね」
シンシアは感心しながらテーブルに置かれたお茶を1口飲む。
「けほっけほっ……ごめんっ……肺に入った」
「だ、大丈夫ですか……?」
「大丈夫大丈夫……。よしっ……けほっ、宿題しよっか」
ちゃんと落ち着いて飲まないからこうなるんだ……。興奮しすぎてしまったな。
「今日も宿題を終わらせてから、魔法陣について勉強しよう」
「分かりました」
早速テーブルの上に宿題を置くと、ダリウス君はスラスラと問題を解き始めた。
「…………す、凄いね。もしかしてもう全部解けるようになったの?」
「一応……解き方はシンシアさんに教わったので……それで頑張って……間違ってると思いますけど」
シンシアが今解いていった問題の答えを確認するが、全て合っている。
たった三回目の訪問でここまでの成長が見られるとは思っていなかったシンシアは、驚いてしばらく言葉を失っていた。
「ダリウス君やればできるじゃん!」
「あ、ありがとうございます」
「しっかり勉強していけば天才になれるかもよ!」
「ありがとう……ございます」
ダリウス君の背中をパシパシ叩きながら褒めると、照れくさそうに背中を丸めていった。
「よしっ! その調子で解いていこう! ……ちょっとおトイレ」
「……」
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シンシアがトイレに行くとダリウスは眼鏡に触れて魔力を注いだ。
すると眼鏡に二つの魔法陣が浮かび上がり、ダリウスの目にはトイレの光景が映った。
「シンシアさんがっ……トイレしてる…………ふひっ……」
ダリウスはシンシアが帰ってくる前にティッシュを取り出し下半身を落ち着かせた。
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「ごめんごめん。お待たせ」
「…………」
「集中してるね」
シンシアが部屋に帰ってくると、ダリウス君は無言で宿題を解いていた。
真剣に宿題をしているダリウス君を見て嬉しそうに笑いながら座った。
「…………」
ダリウス君よりもテンションの高いシンシアは、機嫌よく身体を揺らしながら宿題を見つめる。
まるでシンシアと接する時のサラのようだが、シンシアはその事に気づいていない。サラと似たような気持ちでダリウス君を見つめている。
……っ? なんか臭うな。
ふと、鼻にツンと来る臭いがして動きを止める。しかし集中しているダリウス君に話しかける訳にもいかないシンシアは、魔法で軽く部屋を消臭して気にしないことにした。
「……終わりました」
「えっ!? そ、それ最後だったの?」
「はい。シンシアさんがトイレに行ってる間にほとんど終わらせて……もうこれで全部です」
するとダリウス君は終わらせた宿題を見せた。
「おぉ〜」
ほとんど何の問題もない。
最初に来た時はほとんどの勉強が苦手だと言われていたが、今じゃ天才だ。
「凄いね〜!」
「ありがとうございます」
「ダリウス君の家庭教師になれて嬉しいよ〜! 私もやる気がでる!」
「シンシアさんの教え方が上手いんですよ」
「あっ、やっぱり? 褒められると伸びるからもっと褒めていいよ〜」
テンション高めに話しながら、シンシアはお茶を1口飲んだ。
「……」
「いやぁ〜……あ、あれ……? なんか……ねむ…………くっ……────」
突然、大きな眠気に襲われてシンシアはあっという間に意識を失ってしまった。
「……ふ……ふひっ……ふふっ……」
ほんの少し胸糞展開に入ります。
次回はR18ではないですけど、汚い表現が含まれますので気をつけてください。




