44話 順調な生活
一般クラスの生徒達が授業の為に教室に帰ってしまい、俺達特別クラスは誰もいないグラウンドで遊ぶ事になった。
正確にはイヴに強制的に遊ばされている。の方が正しいだろう。
シンシア、イヴ、アイリ、アデルの四人で一般クラスのサッカーボールを借り、簡単なパス回しをしているだけである。
「シンシアちゃん正確に蹴ってくるから取りやすいよ」
昔サッカーしていたしな。
しかしこの身体だと足が短いし、足が届かずにスルーしてしまう事もたまにある。
「あぁ〜飽きた。もっと身体を動かす遊びをしないと」
「イヴ様がこれしようって言ったんじゃないですか……」
イヴはあっという間に飽きてしまい、回ってきたボールを手で掴んでどこかへと歩き始めた。
「よっしゃ! じゃあ校舎の裏側に誰も人が来ない場所があるからそこに行かないか? 秘密基地、みたいな」
「アデルは子供だな」
「子供ね」
「う、うるせぇ! イヴちゃんに言ってんの!」
イヴを見るとどうするか考えているようだ。
「そんな校舎の裏に行くくらいなら教室に戻って話してた方が良いよ」
「だってよ。アデル」
「ちぇ〜、面白そうだったのに」
秘密基地なんて流石に恥ずかしすぎるだろ。そこからミサイル発射する訳でもないのに、基地なんていうのは必要ない。
◆◇◆◇◆
教室に戻ってくると、クラリスさんが教卓でぐで〜んと倒れていた。
「クッ、クラリスさん!?」
「……んっ? あ、おかえりなさい……」
流石に生きてるよな。
「どうしたんですか?」
「気にしないで……私のせいだから……」
「まさか先生に誘われて断れなかった。とかですか?」
するとクラリスさんは縦に頷いた。
クラリスさんのような真面目な人は断る事が苦手だからな。慣れてきたら簡単に断れるようになるのだろうけど、最初の頃は難しいよな。
「まあ先生達と仲良くする事も仕事ですよ」
「お酒って飲んだ事無いのよね」
「えっ!? そんなに大人っぽいのに!?」
そこにアイリが入ってきた。
「まあ……私300歳くらいですし、飲んでも良いのかもしれませんが……」
「さっ……」
「「300歳!?」」
300歳という事に教室の全員が驚くと、クラリスは えっ? というような顔をした。そしてしばらくして、納得がいったように喋り始めた。
「人間は80歳くらいが平均寿命でしたね。私達魔女は身体の年齢を自由に変えれる魔法を使えるの」
んっ……身体の年齢を……ちょっと待て。
「それ俺にも使えるか!?」
「危ないわ。黒魔術といって普通の人間が使えば、例えば視力を失ったり、酷い時は五感を失うような代償を払って使わないといけないの」
「うっ……」
その魔法を使えば俺も大人になれると思ったのに……流石にそれは無理だったか。
「その代わりに、人間は白魔術を使えるのよ」
「白魔術? アイリ知ってる?」
「私も知らないわ。図書室にも白魔術についての本はなかった」
すると、クラリスさんはチョークを取って黒板に何かを書き始めた。
「おぉ……ついにこの教室で授業が行われるのか」
黒板に文字を書くクラリスさんに、少しだけ感動を覚える俺だった。
◆◇◆◇◆
「このように、普通の魔術は体内の魔力を体外へイメージと共に放出して発動するのが魔術です。白魔術は少し魔術と似ていますが、発動するには精霊の力。言霊という物ですね。呪文を唱えて、人間の想像力では不可能な魔術を使うことができるんです」
黒板に分かりやすく呪文を発する人の絵が描かれて、クラリスさんの更に分かりやすい説明が行われた。
「白魔術を使うには、まず精霊と契約をしなければなりません」
「クラリス先生質問です」
「はいアイリさん」
クラリス"先生"と呼ばれて、クラリスは分かりやすく嬉しそうな顔をした。
「最近では精霊がいる場所が少なくなってきている、と言われています。私達が精霊と契約するにはどこに行けば良いのでしょうか」
「どこにも行く必要はないのですよ。精霊を召喚し、その精霊からの条件を満たせば契約完了です」
ほぉ……では早速、精霊を召喚して契約するか。
「ですが、今日はここまで」
「「えぇ〜」」
「まずは精霊召喚の前に使い魔が先です。また次の時間にしましょう」
クラリスさん授業が上手いな……次の授業が楽しみになってきたじゃないか。前世の学校でもこういう楽しい授業にしてくれれば良かったのに。
「ちょっとぉぉ〜! どうして私抜きで先生らしい事してるんですかぁっ!!」
「すみませんサラ先生」
「先せっ……ふふん♪ 仕方ないですね。次の授業は私も一緒にしますからね!」
「はい」
クラリスは見事にサラを操っている。
◆◇◆◇◆
下校の時間がやってきた。
イヴとクラリスは初めての学園だったが、意外と簡単に順応できている。これで心配な事はなくなったな。
「クラリスさ〜ん! 一緒に帰りましょう!」
「すみません。この後他の先生方との予定があるので、お先にどうぞ」
「そ、そうですか。ではお先に失礼します! シンシアちゃん行こっ!」
サラが犬のように俺に擦り寄ってきた。クラリスさんと少しの間お別れか〜……寂しいな。
「シンシア、帰ったら訓練だよ」
「あっイヴ様、分かりました。どこで訓練するんですか?」
城にいた時はイヴの部屋で訓練できたが、今はイヴの部屋に行けないしな。
「えっ? 何何? 楽しいことするの? なら私が広い場所に連れてってあげるよ」
「おぉそうか! なら帰って沢山食べてから早速行こう!」
「そうですね。ありがとうサラ」
「ふっふ〜ん♪ やっぱりシンシアちゃん大好きっ!」
「うぐっ……くるっ……しっ……」
サラの胸で鼻と口が防がれて苦しい。
サラの俺に対する愛情表現が前よりキツくなっている気がする。
◆◇◆◇◆
帰宅して夕食を食べ終えた俺達は、サラによって何も無い真っ白な空間に連れてきてもらった。
成長した俺をサラに見てもらうチャンスだ!
◆◇◆◇◆
一方その頃──
「良い飲みっぷりだね〜!」
「っくぅ〜っ! もう一杯お願いしますっっ!」
「ほらどんどん飲んで!」
「…………っんまいっ!! 先生方もどうぞどうぞ!」
「おぉっ! 関節キスになっちゃうけどいいかい〜?」
「んな事はど〜っでもいいんすっ! ほら飲んで!!」
クラリスは初めてのお酒に、順調に乱れ始めていた。




