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37話 魔王を操る者


「よし! 準備は良いなシンシア!」

「た、多分大丈夫です!」


 今俺は広い草原のど真ん中でイヴ様と向かい合っていた。少し離れた所ではクラリスさんがこちらの様子を見ており、俺とイヴ様はお互いに本物の剣を持っている。

 ここはどこなのかというと、イヴ様の部屋である。どういう事なのか簡単に説明すると、誰もいない惑星全ての範囲が部屋だという事。広すぎてイヴ様でも見たことない物が沢山あるらしい。


「僕説明するのとか苦手だけど、強くなる為にはとにかく戦い続けるしかないと思うんだ」

「なるほど」

「とりあえず〜……戦おう!!」


 そういってイヴ様は剣を構えて、シンシアに飛びかかってきた。

 2人の間にかなりの距離があったものの、ほんの少し地面を蹴っただけであっという間にシンシアの目の前。


「うわぁっ!」


 咄嗟に剣を前に突き出すと、それをイヴはしっかり弾いてシンシアの首元に剣を当てた。


「はい僕の勝ち〜」

「ひっ……死ん……」


 剣が首元に来ており、死んだと確信した俺は意識が遠くへ飛んでいく。


「シンシアちゃん、しっかりしてください」

「はっ!」


 遠くから見ていたクラリスさんが身体を揺さぶってくれて、なんとか意識を取り戻す。


「魔王様はシンシアちゃんを傷付けない、という約束をしたでしょう?」

「そ、そうでした。ふぅ〜……」


 改めて深呼吸をし、ゾーンに入る。


「シンシアはビビりだな〜」

「そ、そりゃ死にそうになったら怖いですよ!」


 しかしイヴは怖がるシンシアを見て愉快そうに笑っていた。

 やはり魔王なだけあって、他人が恐怖するのは楽しいのだろう。シンシアにはその心情が理解できなかった。


「さぁ! どんどん攻めるからシンシアもかかってくるんだよ!」

「は、はいっ!!」


──────

────

──


 死の恐怖と強くなりたいという願いによって、シンシア達はこの世界が暗くなるまで戦いを続けていた。


「よし休憩っと。やっぱり僕の見込んだ通り、シンシアはセンスあるよ」

「ありがとうございます」


 なんと、シンシアはイヴの攻撃を防いで反撃できるまでに成長していた。イヴは本気こそ出していないものの、魔王という存在の力は計り知れない。それをただの人間が防ぐというのは有り得ないことである。


「僕の部屋は空腹とか眠気とか感じないから便利でしょ」

「そうですね。これなら好きなだけ暴れ回れることができますし、イヴ様に適した部屋かと」

「失礼じゃな〜い?」


 シンシアとイヴは、お互いに冗談を言えるほど距離が近づいていた。

 これはお互いにどこか似ている所があるからなのかもしれない。


 2人で寝転がって空を見上げていると、そこにクラリスがやってきた。


「2人とも後でお風呂に入らないといけませんね」

「お、俺はもう良いかな。性別違うし」

「えっ……?」


 シンシアの言葉に、クラリスは疑問の声を上げた。


「どうしたんですか?」

「2人とも同じ女の子ですよね」

「ク、クラリスまで!? 僕は男だよっ!!」


 イヴはムキになってズボンをバッと下ろして見せつけてきた。


「こらっ、そう簡単に見せちゃダメです!!」


 シンシアはすぐに身体を張って隠したものの、クラリスはそれをバッチリと見てしまったようだ。


「ま……ま、魔王様が……おと……男……?」


 どうやらクラリスも知らなかったようで、そんなクラリスを見たイヴはひねくれて体育座りをしてしまった。


「イ、イヴ様。そう気を落とさないで……成長して男らしくなった姿を見せつけましょうよ」

「うぅ〜……もう僕全裸で城の中走り回って皆に見せようかな……」

「正気に戻ってください……」


 確かにクラリスが驚くのも無理はない。イヴはどこからどうみても女の子、それも美少女だ。赤くて長い髪に長い睫毛、細くスラッとした身体と綺麗な肌。どこからどうみても女の子である。

 逆に何故下半身にブツが付いているのか聞きたいところだ。神は何を思ってこんな可愛い生物を生み出したのだろうか。


「すみません魔王様……落ち着きました。魔王様は男の娘でらっしゃったのですね」

「うん、男だよ」


 イヴは男の娘というものを知らないようだ。


「では、思い切って女装してみてはいかがですか?」

「なんでさ。僕は魔王だよ。もっと男らしく、威厳のある姿じゃないとダメなんだ」


 前々から思っていたのだが、イヴがそこまでこだわる理想の魔王像とは何なのだろうか。

 一体どこからそんな理想が湧き出てくるのか。シンシアは気になった。


「イヴ様は何を目指してるんですか?」

「この世界の全ての存在を平等に見る魔王。皆に尊敬されて、憧れられて──」

「そういう人が居たんですか?」


 するとイヴは首を横に振った。


「そうなれって、悪魔に」

「あ……悪魔……?」

「あっ、これ言っちゃダメやつだった……」


 それを聞いた瞬間、クラリスはイヴの肩を掴んで大きな声を出した。


「ま、魔王様! まさか悪魔と関わっているのですか!?」

「う……うん……言っていいのかな……。いつも夢に出てくるんだ。 「命令に従っていればいい」「どんな目的でもいい。世界を支配しろ」 って」


 すると、クラリスはとんでもない事が起きてしまった。というような顔でしばらく動かなくなった。


 これはこれは……何やら凄い情報がどんどん出てきて、ついに冷静なクラリスさんも思考停止する時が来てしまったか。


「……その悪魔は1匹ですか?」

「うん。1人しか見たことない」

「分かりました。魔王様に忠誠を誓う我々魔女達が、魔王様についている悪魔を払わなければならないようです」


 その言葉にイヴは頭にハテナマークを浮かべた。


「どうして?」

「悪魔というのは誰かの目的を達成する為に力を貸します。しかし、その目的を達成した時。その人物の身体を乗っ取り、地位を悪用して世界を破滅へと導くのです」


 何っ……!? ということは、もしイヴが魔王として世界を支配する。という事を達成した時、イヴは悪魔に乗っ取られてしまうという事か。


 クラリスは丁寧に、イヴにも分かりやすいように説明した。


「えっ、僕もしかして悪魔っていうのに利用されてたの?」

「えぇ……そういう事に……なります。ですが、その悪魔さえ消しされば魔王様は目的を達成しても大丈夫です。幸いその悪魔は1匹。私達魔女がなんとかします」


 おぉ、なんて頼れるんだ。


「魔女ってどのくらいいるんですか?」

「7人。暴食の魔女、色欲の魔女、傲慢の魔女、憤怒の魔女、怠惰の魔女、嫉妬の魔女、そして強欲の魔女の私です」


 何か聞いたことあるけど思い出せないな。けど、クラリスさんみたいなのが7人もいるのなら心強い。


「今すぐ儀式を行います。全ての魔女を集めて大広間に集合するので、魔王様は付いてきてください。シンシアちゃんは自分の部屋で待機していてください」

「分かりました」


 シンシアは何か凄い事になったなぁ程度にしか捉えていないが、クラリスはかなり緊迫している様子だ。


 部屋に帰ったシンシアは、心配に思いながらも本を読んで時間を潰すことにした。

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