21話 シンシアの小さな悩み事
「強化旅行ってどんなとこに泊まるんだろうね」
「日本みたいに和風な場所らしいぜ」
アイリとアデルが俺の机の近くで強化旅行について話している。
「シンシアちゃんって皆で泊まったりする旅行って好き?」
「いや嫌い……泊まるなら1人か親しい友人と2人きりが良いな。それに、風呂も大勢で入るとか嫌だ」
特に風呂は本当に嫌だ。前世では皆と風呂に入るのが嫌で修学旅行をズル休みしていたくらいにな。
「一般クラスには女の子多いからね〜……特別クラスの銭湯と分けられてたら嬉しいんだけど」
「確かに知らない奴らに裸を見られるのは恥ずかしいな」
あぁ〜……これだから旅行って言葉は嫌いなんだ。強化旅行休もうかな……なんで風呂に大勢で入らないといけないんだ。一人風呂が一番良い。
「ダメだ。やっぱり俺皆とワイワイする事より1人でいた方が楽しい。旅行行かないかも」
「ダメだよ。シンシアちゃんがそういうなら私から先生にお願いするから、ね? サラ先生ならシンシアちゃんのお願い聞いてくれるよ」
そうだと嬉しいな。
◆◇◆◇◆
それからしばらく話しているとサラが教室に戻ってきたので、アイリが早速お願いしにいった。すると話を聞いたサラが俺の元にやってきた。
「強化旅行行きたくない?」
「風呂が……ね」
本当はこんな小さな事、他の皆にとってはどうでもいい事なんだろうな。なんで皆は簡単に人前で裸になれるんだ? 羞恥心の欠片もないのか?
「分かった。じゃあ宿泊先の小さなお風呂を借りるから、そこで私と一緒に入ろうね」
「まあそれならいいか……ありがとうサラ」
ふぅ、前世でも今世でも悩む内容は一緒だな。
「ずるい! 私もシンシアちゃんと一緒にお風呂入りたい!」
「じゃあアイリちゃんも一緒に入る? いいかなシンシアちゃん」
「まあいいんじゃない」
親しい友人と普段から一緒に入ってる人となら問題ない。これで悩み事は無くなったし、旅行も楽しめるかな。
「アデルはどうするんだ?」
「なっ、ばっ、馬鹿かお前。俺が一緒に入る訳ないだろ」
「そういう意味じゃねぇよ馬鹿」
アデルは何を勘違いしたのか顔を赤くして挙動不審になっていた。
「アデルは皆と風呂に入るの大丈夫なのか?」
「ん〜まあ慣れてるしな。それに銭湯にも結構通ってたし、抵抗はないな。シンシアちゃんは自分に自信がないから嫌なんじゃないか?」
自分に自信が無い、というのには反対意見は無い。
「自信を持って自分の身体を見せる、というのもナルシストっぽくて無理だけどな」
「何言ってんだか。シンシアちゃんは色んな事を考えすぎなんだよ。もう少し何も考えない馬鹿になって動いてみたらどうだ?」
馬鹿になるなんて簡単に言うが、本当に馬鹿になれれば幸せ者だ。悩み事も不安も抱えずにその時その時で周りに合わせて行動する馬鹿は尊敬するよ。
「はぁ……ごめん、なんか今の俺ちょっと機嫌悪いかも。一人にさせて」
「あっシンシアちゃん……」
教室から出て、そのまま中庭の芝生の上で寝転がる。
「ふぅ〜〜〜〜…………」
深く深呼吸をして精神を安定させる。
確かに俺は考えすぎなのかもしれない。考えすぎるから周りに馴染めないし、友達もできない。だから前世じゃ駄目駄目だったんだ。
「あっシンシアさん」
「ん? おぉカズ」
名前を呼ばれて顔を上げると、中庭には前世の友達のカズもいた。
「どうかしたんですか?」
「旅行の事考えてたら憂鬱になってさ」
カズは恐る恐るといった感じで隣に座ってきた。まだ少し慣れないようだ。
「あぁ〜僕もそうなんですよ。根暗だから皆とワイワイ騒げるかなって心配です」
やはりカズも俺と同じだな。流石元友達。
「シンシアさんもそういう人なんですね」
「ま、まあな」
それ言い換えれば根暗なんですね。って言ってるのと同じだけど、正しいから否定出来ない。
「良かった。シンシアさんは他の女の子と違って知的で」
「そうか?」
俺は正直自分の事はどうしょうもない馬鹿だと思っている。勉強だって苦手だし、良い事は何も無い人間だ。
「女の子って基本的に感情的じゃないですか」
「ん〜まあな」
アイリは違うけどな。
「女の子が感情的になるとまともな会話が出来なくなるというか、理屈の成立しない事ばっかり話してくるんですよ」
「ハッハッハッ! カズらしいな」
「えっ?」
おっと、つい前世のような感じで絡んでしまった、今の俺はシンシアだ。
「理屈っぽい者同士、仲良くしような」
「っ……はい!」
俺が拳をカズに向けると、カズも拳を合わせた。きっと2人の友情はさらに深まった事だろう。
「なんだか僕と同じ人がいて嬉しいです」
「俺も嬉しいよ」
やはり俺と最も相性の良い人はカズだな。いつか絶対前世と同じくらい仲良くなってみせる。




