124話 どっちが大事
「もうすぐサラティーナさんの所に到着するけれど、おちんちんの方は大丈夫?」
大丈夫じゃない。この天使の身体がエロすぎてずっと勃ちっぱなしだ。男の身体がこんなにも不便だったなんて、と今にも泣きたい気持ちである。
泣きそうな顔で下半身を抑えるシンシアを見た天使は、シンシアの手を繋いで女子トイレの中へ入っていった。
「えっ、えっ?」
「主に会う時にその状態じゃ恥ずかしいでしょう? 私が落ち着かせてあげる」
この天使は一体何を言ってるんだ? 落ち着かせる?
混乱しつつも、個室に連れていかれて鍵まで閉められた。
「大丈夫、怖くないから」
「いや……その怖くないからとかそういうのじゃなくて──ひゃっ!?」
天使はシンシアの意見など聞かずに天使の服を脱がせてきた。これでシンシアは素っ裸である。
この天使は善意でやっているのだろうけど、その善意が行き過ぎていて色々とまずい事になっている気がする。
「座って?」
「え、あ……や……」
「大丈夫大丈夫。すぐだから」
洋式トイレに座らされると、天使はシンシアの下半身にあるまだ可愛いサイズのブツを両手で包むように握った。
泣きそうになりながらその手を見つめていると、手が白く光り始めた。
「あっ……あっあっあぁっ……おぅっ……」
これは別にエッチな事をされている訳ではない。神聖な力によって興奮を抑えているだけであり、断じて教育に悪いような事はしていない。
「あっふ……」
「落ち着いたでしょう?」
確かに下半身には何の以上も無く収まった。
「あ、ありがとう……ございます」
「それじゃあ主さんがいる部屋の前まで案内するわね」
シンシアは服をもう1度履かされて、何とも言えない恥ずかしさに耐えながら天使に付いていった。
トイレから出て少し歩くと、窓を覗いた先にサラの姿が見える部屋の前までやってきた。
もう2度と会えないと思っていたサラと、やっと再開出来た嬉しさにサラの名前を叫びそうになったが、なんとか落ち着かせる。
「1人で大丈夫?」
「だ、大丈夫です……ありがとうございました」
「それじゃあね。可愛い見習いさん」
ここまで連れてきてくれた天使さんと別れて、いよいよサラがいる部屋の中に入る。
この部屋の中では他にも沢山の天使が仕事をしており、何か色んな名前が書かれた紙によく分からない魔法をかけていた。
邪魔しては悪いと思いつつも、集中しているサラに近づいて小声で話しかける。
「サ……サラ」
「…………なんか今シンシアちゃんの声……が……っ!?」
目が合った瞬間、サラは目を見開いて夢でも見ているのかとシンシアの事をじっと見つめてきた。
「どっ、どうしてここにっ……? バレなかったのっ?」
サラは何か焦っているような、挙動不審でシンシアに話しかけてくる。
「ゼウスに一時的に身体を男にしてもらったんだ。俺サラがいないと生きていけないから……だからサラ、お願いだから帰ってきてくれ」
「っ…………と、とりあえず2人きりで話そうっ!」
サラに人形のように抱き抱えられて、使われていない会議室にやってきた。
会議室にやってきてサラの顔を見ると、悲しそうな表情をしていた。邪魔してしまったからだろうか。
「サラ……ごめん。でも本当に、俺サラがいないとダメダメで……このままじゃ自分を保てなくてっ……」
泣きそうな声でそういうと、今度はあたふたと焦ったような表情に変わった。
「う、うぅ〜……で、でも、1度自分で決めちゃった事だから……」
ゼウスの言う通り、自分で決めた事は絶対に守る性格のようだ。
「なんでそんな事言うんだよっ……俺っ……まだサラと一緒にいたいよっ……」
「シンシアちゃん……」
「…………俺、サラが大好きなんだっ!!」
泣きながら自分の精一杯の思いを伝えると、サラまて泣きそうな顔になり始める。
「で、でも私──」
「お願いだよっ! 俺サラが大好きだ! 一緒にいたい! 色んな事話してっ……もっとたくさん旅して! …………うぅっ……好きなんだよ…………」
「……私もシンシアちゃんの事大好きっ……でもシンシアちゃんをここまで……私に依存させるつもりはなかったの」
今更何を……サラが俺に優しくしてくれたから、今こうしてここに来てるのにそんなの無責任じゃないか。
「サラはっ……俺と一緒にいたくないのかっ……?」
「違うのっ! ……一緒にいたいけど……」
今度は焦ったような顔をするサラ。本当に、今のサラは表情がどんどん変わる。サラなりに色々と考えていたのだろう。感情的になってきている。
「もし次お仕事休んじゃったら……退職って…………」
「……退職……?」
その言葉を聞いたシンシアは一気に熱が覚めてきた。
「うん。ここの社長さんに怒られて……次はないぞって……」
「…………サラは仕事と俺、どっちが好きなの?」
「っ! それはシンシアちゃんだよっ! …………そっか……私決めたよ…………」
突然何かを決心したような顔に変わると、シンシアの手を強く握った。
「私の方からこんな仕事やめて、シンシアちゃんに付いてく!」
「……本当に……もういなくなったりしない?」
「しない! でもお金とか……大丈夫かな」
「大丈夫。クラリスさんとか姉ちゃんとかいるし、助けてくれる人は沢山いる」
でも、サラがそばに居てくれるだけで俺は安心して生きることができる。もうサラだけでもいい。それだけサラが好きなんだ。
「分かった……今から退職届を社長に出してくるから……シンシアちゃんは下で待ってて」
「うん……わざわざ……ごめん……」
「謝らないで。お仕事よりシンシアちゃんの方が私にとって大事なんだから」
サラは笑顔でシンシアを抱きしめて、優しく背中をポンポンと叩いてくれた。
やっぱり、サラの温もりが1番安心する。
好きな人の為に仕事を辞めるバカップルの誕生……?