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113話 依存


「あ! シンシアちゃ〜ん! 記憶戻ったって聞いたよ〜!」

「っ?」


 1人で部屋に帰っていると、あの少年達がこちらに駆け寄ってきた。正直今は部屋で心の整理をしたいのだが、ここで無視する訳にもいかない。


「ああ、記憶戻ったよ」

「良かったな! 俺の名前覚えてるか?」


 少年達のリーダー……確かアマデオだったか?


「アマデオ、だっけ」

「バッチリだな! 良かった良かった。記憶が戻ったんだし、今度遊ぼうな!」


 アマデオはシンシアの心境を知らず、いつも通りに接してきた。

 子供は遊んでばっかりだけど、俺には色んな悩み事や不安があるっていうのに。呑気だな。


「……どうした? 調子悪いのか?」

「あっ……いや。大丈夫だ。ただちょっと1人にさせてくれ」

「そうか……分かった。しっかり休めよ」


 しかし暗い雰囲気のシンシアに気付いたのか、アマデオは気を使ってその場で別れた。

 シンシアは何も言わずに自分の部屋へと歩いていき、そんなシンシアの後ろ姿を見て少年達が心配する事が聞こえる。


◆◇◆◇◆


「はぁっ…………」


 短く大きな溜め息を吐きながらベッドに倒れ込むシンシア。窓の外は雪と風の勢いがとても強く、窓がガタガタと揺れている。

 サラという大きな存在がいなくなってしまったシンシアは、自分の存在意義、自分の居場所を見失ってしまって頭の中が不安で埋め尽くされていく。


 考えていても仕方ない、と分かってはいる。父さんや姉ちゃんに頼って生きていてもいい。

 でも、俺の夢は大魔導士になる事じゃないか。1人で生きるって決めたじゃないか。


「なのになんで……」


 なんで心に大きな穴が空いてしまったのだろう。


──コンコン

「シンシアちゃん、いるか?」


 とその時、部屋の外からアマデオの声が聞こえた。

 すぐにベッドから起き上がって扉を開けると、アマデオは1人で心配そうな表情を浮かべながらこちらを見ていた。


「溜め息ばっかり吐いて……相談ならなんでも乗るから、話してくれ」


 アマデオは少年グループの中では最年長で、身長もシンシアよりかなり大きい。少しは頼っても良いのだろうか。


「……部屋入って」


 ここで話すよりは部屋で話した方が良いと思い、アマデオを部屋の中に入れてベッドに座らせた。

 隣同士に座って、シンシアは枕を膝の上に置いてから話し始めた。


「サラと……もう会えなくなったんだ」

「サ、サラっ……ていうと、シンシアちゃんの保護者の?」

「そう。もう会えないんだ」


 アマデオに言いながら、自分もその現実を受け入れようと2度言った。


「……そっか。シンシアちゃん、今までずっとサラと居たから、急に居なくなってどうしたらいいのか分からなくなってるんだな……」

「うん……」


 すぐに理解してくれたアマデオに、シンシアは少しだけ肩の力を抜いて緊張を解いた。少年達を率いるリーダーなだけあって頭はそれなりに良いようだ。


「お父さんやお姉さんに頼ってもいいんだぞ?」

「……1人で生きるって決めたんだ。でも、サラがいなくなって不安を感じる自分がいる。……自分でも何をしたいのか分からないんだ」


 1人で強く生きたい。でもサラがいないと自分は駄目だ。

 そんな矛盾した気持ちが心の中にあって、結局自分はどうしたいのか分からない。


「無理して1人で生きなくていいんだよ」

「誰にも頼らず生きるのが……俺の夢なんだ」


 太陽が降りてきて、雪の勢いも更に強くなってきた。シンシアの部屋は段々と暗くなってくるが、2人は気にせず話を続けた。


「夢っていうのは……ゆっくりと叶えていくもんだ。まずは目標から決めたらどうだ?」

「目標……?」

「そう。例えば……1人で買い物できるようになる、とか。家事を1人でできるようになるとか。1人で生きる為に必要な事を覚えていくっていう目標」


 確かに……夢の為に小さな目標を作ってそれを達成させるのは大事だ。

 俺は不安のせいでずっと先の事しか考えていなかった。もっと身近な事から考えていかないと、先の事ばっかり考えてても意味がない。


「アマデオは頭が良いんだな……ありがとう」


 シンシアは少しだけ気分がスッキリして、完全に夜になった窓の外を見て電気を付けようと立ち上がる。


「なぁシンシアちゃん」

「っ……?」


 その時、アマデオ腕を掴まれた。そのゴツッとした手と久しぶりに感じる温もりに、不覚にもドキッとしてしまったシンシアは変に緊張した。


「なっ……何?」

「これからも俺を頼ってくれないか」

「……あぁ、アマデオなら色んな相談に乗ってくれそうだし……色々と頼らせてほし──いっ!?」


 その時、シンシアの腕が引っ張られてそのままベッドに押し倒されてしまった。

 上に乗っかった形になったアマデオが顔をじっと見つめてきて、シンシアはドキドキと心臓が高鳴る。


「なっ……何……?」


 暗くなった部屋でアマデオに両手を抑えられて、シンシアは何故かドキドキしていた。この感情が何なのか分からない。でも、何故か警戒など全くなく、心を許していた。


「…………ごめん……俺……」


 しかし、すぐにアマデオは離れて頭を抑えた。冷静になろうとしているのだろう。


「なんで……」

「……え?」

「なんで押し倒したんだ?」


 シンシアはその理由が聞きたくて、今までに感じた事がない程に心臓がバクバクと高鳴り、顔が燃えるように熱くなってきた。


「……なんで……だろうな。……シンシアが可愛くて……」


 その瞬間、シンシアの心の中に喜びの感情が溢れて今度はシンシアからアマデオの手を引っ張った。


「っ…………」


 横になってお互いに見つめ合う2人。2人とも顔が赤くなっていて、見ただけで緊張している事が伝わってきた。


「アマデオ……一緒に寝てくれないか?」

「…………し、仕方……ないな」


 シンシアは、サラの代わりとなる新しい依存の対象を見つけてしまった。

つ……ついにシンシアがデレた……!?

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