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110話 家族


いつもとは違う空気。シンシアとカゲイのいる医務室は、妙に緊張した雰囲気が流れていた。


「実はな、シンシアは」


 その答えを聞く。その事に心臓がバクバクと鳴って落ち着かない。

 カゲイの口がゆっくりと開く。次の瞬間にどんな言葉が聞こえるのか、聞き逃さないよう聴覚に意識を向けて。


「……と、その前にコリンも呼ぼうか」

「コリンさんですか……?」


 何故、俺の正体を明かす為にコリンさんを呼ばないといけないのだろう。不思議に思ったシンシアだが、カゲイが帰ってくるまでゆっくりと待つことにした。


 カゲイがコリンさんを連れてくると、コリンさんもよく分からないような顔をしている。しかしシンシアを見てすぐにニコッと頭を下げた。


「シンシアさん体調はいかがですか?」

「あ、だ、大丈夫です。ありがとうございます」


 この人はとても礼儀正しい方なのだろう。


「コリンもここに座ってくれ、2人に話したい事がある」


 コリンさんはベッドの横の小さな椅子に座って、カゲイはベッドに軽く腰をかけて話し始めた。


「実は…………緊張するなぁ」


 シンシアとコリンの頭にはハテナしか浮かばない。招待を明かす人が緊張する必要あるのだろうか。


「……うし、実は俺は元々シンシアとコリンの父親だったんだ。シンシアは弟、コリンは姉。家族の苗字がカゲイなんだ」


 それを聞いた瞬間に、脳が何かを処理してるかのようにギュッと引き締まり、クラクラとする程に脳に負荷がかかった。

 それはコリンさんも同じらしく、軽く頭を抑えて険しい表情になっている。


 カゲイはそんな2人の様子を、ただじっと見守っていた。

 脳の中の記憶の処理が終わるまでじっくりと時間を作ってくれているのだろう。


「っ…………俺……弟……」

「あっ……なんでっ……」


 かなり脳が混乱している。また頭が痛くなってきたが、ここで気を失ってしまえば記憶を取り戻すチャンスを逃してしまうかもしれない。

 そう思ったシンシアは必死に意識を保った。そして──


「「……」」


 シンシアとコリンはゆっくりと目を合わせた。


「お、お前……姉ちゃんだったのかよ!?」

「ぷくくっ……アンタ、弟の癖に可愛くなっちゃって……」


 驚くシンシアと、笑いを堪えるコリン。


「どうだ。記憶、戻ったか?」

「……戻ったけど……戻ったのは良いけど、なんて俺と姉ちゃんこんな姿なんだ?」

「そ、そう! 肝心な記憶がないよ。それにお母さんは?」


 それを聞いたカゲイは、一先ず前世の記憶が戻った事を素直に喜んだ。


「はぁ〜〜……良かった…………記憶戻るか戻らないかがいっちばん心配だったんだ……はははっ……」

「っ……くそ恥ずかしい……父さんに抱きつきながら泣いて……ってか、父さん小さい女の子抱きしめる趣味だったのかよ」

「なっ!? 我が子を抱きしめるのは親の役目だ!」

「……」


 どうやら記憶を失っていた間の記憶はあるものの、その前。この身体になってからの記憶が戻っていない。


 その間、姉ちゃんは一言も話さず顔を赤くしていた。


「どうしたんだ?」

「き、聞かないで」

「……そういえば姉ちゃんはいつから記憶失ってたんだ?」


 すると姉ちゃんはふっと上を見上げて過去を振り返る。


「…………気付いたら奴隷になってた」

「奴隷……そんなのあるのか」


 ってことはほとんど記憶を失っていた訳か。


「さて、肝心のお母さんだが」


 それを聞いてすぐにシンシアとコリンはカゲイの話に集中する。


「まだ見つかっていないんだ」

「……そうなのか」

「っていうかなんでお父さんは元の身体のままなの?」


 そうだ。それは物凄く気になる。


「……なんでシンシアとコリンがその身体になる理由があったのか、それも含めて……話したい所だが今までずっとその記憶を消してもらっていた。シンシアが記憶を無くしてしまったのは、その記憶を思い出してしまったからなんだ」


 なんか難しくてさっぱり分からない。そういう話は苦手なんだ。


「そうだな……手っ取り早く言うから混乱しないでくれ。シンシアとコリン、そしてお母さんは地震で死んだ。俺だけ生き残った」

「地震で死んだ?」

「死んだのならなんで私達はこうしているの? 生まれ変わりでも存在するって事?」


 するとお父さんは少し息を吐いてこう続けた。


「地震で死んだ、っていうのは頭の片隅に入れておくだけでいい」


 そう言われて、納得はしないものの仕方なくそれを認めることにした。


「俺は皆が死んだ後、サラさんに会ったんだ」

「サラさんに?」

「シンシアはまだ思い出していないか? サラさんは女神なんだぞ」

「女……神?」


 サラさんが女神?

 その時、再び頭を強く殴られるような感覚がシンシアを襲った。

 ガンガンと痛みが増していく。それと同時に過去の記憶が映像のように、鮮明に、全てはっきりと思い出していった。

 それはかなり長く続き、痛みに耐えながら全ての記憶を映画のように見ていく。


 サラと初めて出会った空間。皆と過ごした学校。出会った神様達。冒険者達。魔導師になる夢。

 全て。全ての記憶を今シンシアは取り戻した。


「…………ごめん、今全部思い出した。続き、聞かせてくれ」

「お、おぉ大丈夫か……じゃあ続ける」


 シンシアの目に知性が宿り、急に変わった雰囲気にお父さんや姉ちゃんは驚いていた。


「避難所で寝ている時にサラさんに会って話したんだ」


◆◇◆◇◆


「もう1度、家族に会いたいですか?」


 その美しい女性に目を引かれた僕は、すぐに顔を縦に振った。


「ではロシアに特殊な施設があるので、そこに行って話をしましょう」


 それから僕はその美しい女性に導かれて、まるで夢のように空を飛び、ロシアにあるこの施設にやってきた。

 サラさんは、人間の生まれ変わり先である異世界から転生者や転移者をこの施設に連れてくると行った。


「貴方の家族も、絶対に探してここに集めます。それがどれだけ未来の事になろうと、約束は守りますよ」

「家族の中で1番若い子がいるんだ。せめてその子は守ってあげてくれないか。1人じゃ生きれないと思うんだ」


 僕はサラさんに色んな事をお願いして。今まで死んだように寝ていた僕に居場所が出来たんだ。


◆◇◆◇◆


「じゃあ、ここでずっと俺達を待っていた。って事なのか」

「そういう事だ。ただ……まだお母さんが見つかっていない」


 シンシアとコリンは、父親の苦労を知って自分達も何か協力出来ないかと考え始めた。

よく分からなくなってしまった。

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