今年の冬もぼっち確定の君たちへ
クリスマスイブ、ぼっちな兎月兎はぼっちの小説を書きたくなりました。ぼっちによるぼっちのための小説をどうぞ
「はぁ……」
百瀬灯はため息をついた。トークアプリを開くと、
『やっほー!灯!日本は寒いかい!?』
『今私どこにいるか分かるwww?』
『そうだよオーストラリアだよ!』
と、連続して3通の連絡が来ていた。
(オーストラリアて…私、聞いてないんだけど)
灯が親友様と連絡が取れなくなってはや1週間。学校も休んで風邪かと思っていたら、まさかオーストラリアにいたとは。
本当に彼女は突拍子も無いことをやらかしてくれる。とりあえず灯は、
『…えっ、オーストラリア…?』
『南半球の?』
とだけ返してみた。するとすぐに既読になり、返事が帰ってくる。
『(・ω・(ヾ)YES』
い、イエス…。しかもその後に意味のわからないスタンプも送ってきた。
タヌキとキツネを足して2で割ったような生物が両手を広げ踊っているスタンプで、「わっしょいわっしょい」と文字が書かれている。なぜここでこのセレクトなのか。
『てか、今年花火大会一緒に行けなかったからクリスマスは一緒に遊ぼうって言ってたじゃんかよぉ〜』
と、灯はベットに寝転がりながらそう送信した。
ちらっと部屋のカレンダーを見る。12月24日。クリスマスイブである。そして灯に明日の予定はない。
『いやー、ごめんよ。オーストラリアで義理の弟の誕生日を祝ったらすぐ帰ってくる予定だったんだけど、』
『今度は義理の姉が産気づいて、病院に行ったりいろいろしてたら、今日になってた』
ちょっと待て、彼女の親は離婚もしていないのに、義理のなんちゃらがいるはずがない…とりあえず灯はその旨を聞くことにした。
『てか、え?義理の弟とか姉って何よ』
今度は返事に多少時間がかかった。
『まあ、それは、いろいろと…』
同時に「ふっふっふっふっ…」と書かれた(タヌキ+キツネ)÷2のスタンプが送られてくる。本当に意味がわからない。
『とにかく、私年もこっちで越すことになるから、ごめんよ?』
とだけ、続けて送られてきた後は、灯が何を送っても返事はおろか、既読にさえならなかった。
「あ〜あ…」
目を覚ました灯は1つため息をついて、またトークアプリを開いた。今日はクリスマス当日。そのせいか、トークアプリの画面もクリスマスバージョンに変わっていた。
昨日つかなかった既読は今日ついており、「ごめんね」と目を潤ませ何故か逆立ちをする(タヌキ+キツネ)÷2のスタンプだけが送られていた。
送られた時間は夜の1時過ぎ。忙しくて手が離せなかったのかもしれないと考えて、 灯は「よいしょ」と上半身を起こした。
それにしても家の中が静かだ。まだ朝の7時なのだし、親も居るはずなのに、何の音もしない。
…嫌な予感がする…
灯はそっとベットを抜け出し、リビングへ向かった。
「おかーさーん、おとーさんー?」
少し甘ったるい匂いと、鉄っぽい匂い。知らず知らずのうちに灯の歩みが遅くなる。
(まさか、そんな───)
灯は歩みを止めた。足に冷たい液体が触れる。ぴちゃ、と音がした。
「あー………おはよー……」
リビングのこたつの上には大量のビール缶と日本酒、そしてワイン。それから
「なに、これ…?」
「そーせーじ…」
灯の母は呻くようにそう答えると、ぱたりと脱力して動かなくなった。死んだ訳では無い。恐らく1晩中酒盛りをして疲れて寝てしまったのだろう。
よくわからないが、恐らく両親はどこにも連れて行ってくれないことがわかった。
…絶望的である。これぞ、the・クリぼっち。
どこにもいけない何もしない。
ああ!なんて面白くないのだろう…。
「ふふふふ、ふふふふふ…」
灯は笑った。絶望の笑みだ。
前にやった脳内彼氏?無理だ。モデルの人物が突然坊主になって学校に来たから。笑顔を思い浮かべてもどうしたって坊主頭ででてくるから。
灯は坊主頭が嫌いだった。
「もういいっ!やけ酒する!お酒飲めないからシャンメリーで!」
未成年はお酒が飲めない。その上灯は酒類には滅法弱かった。チョコレートボンボンでも酔うくらいの弱さで、本人ももう2度とあんな経験だけはしたくないと思っていた。
「そうだ、酒のおつまみがいる!ケーキ…は買ってないから、作るぞ!」
数時間後、美味しく焼きあがったチーズケーキを皿に移し、フォークをぶすりと刺す。そしてどんとテーブルに置くと、どこからとも無く手が伸びてきて───、
「おかーさん!なに私のチーズケーキをっ!」
「うん、おいしいね」
あろう事か灯のチーズケーキは母によって食べられてしまった。なんてこった、ぱんなこった、そうだ、パンナコッタを作ればよかった…そうじゃない。
「はぁーぁ、なんなの…私のクリスマス…」
灯は項垂れてそう言った。
突然親友がオーストラリアに行き、親が酒盛りをし、焼いたチーズケーキは食べられ…散々である。
「どんまい灯!大丈夫、いいことがあるよ…ほら!」
灯は母の指さす方を見た。
「あっ…」
綿をちぎったような大きな雪の粒が落ちてくる。いつの間にか暗くなってきた空に綿雪が浮かび上がる。
「メリー・ホワイトクリスマス、灯」
灯の母がシャンメリーを飲んで、そう微笑んだ。