第一話
初日だけの連続投稿一話です。
二話目は三時に時間指定してあります。
「うおおおおぉぉぉぉぉ!!」
「ギュアァァ」
一体何なんだ!? 目が覚めると森の中、しかも明らかに人ではない人型の生き物が棍棒持って追いかけてくる。
肌の色は緑色で角が生えてガリガリの腕と足をした子鬼? のようなやつだ。
脱兎のごとく俺は走る。そして後ろを振り返った。
「うぉぉぉ、ぉぉお、おおう?」
「ギュアァァァァ」
俺と子鬼の距離は五十メートルくらい離れていた。
……遅。めちゃくちゃ遅い。
よく見ると身長は百二十センチ程度で小さい。走るフォームもめちゃくちゃだし、あれじゃあ滅多なことでは追いつかれないだろう。
「ギュアィッ?!」
「あ、こけた」
見事なヘッドスライディングで地面を数メートル滑ってくる子鬼。こんな道とも呼べないようなところだ、大方、木の根っこにでも足を引っ掛けたんだろう。
そして、子鬼の持っていた混紡が俺の足元まで転がってきた。
「ええぇ、飛びすぎでしょ。二十メートルはあったよ? あいつ生きてんのか」
棍棒を拾って武器を確保し、生死の確認のために近づく。このまま逃げてもいい気がするけど、念のため止めを刺しておこう。
「よっこいせっ!」
グチゅ、と肉の潰れる嫌な音がして、頭をたたきつぶした。
「……うぇ。クソ、先にそっちが襲ってきたんだからな」
気分が悪くなってきた。
とりあえずこの場を離れよう、血の匂いに惹かれて肉食動物が来ると厄介だ。
せっかくの武器でもったいないけど同じ理由で棍棒も捨てていく。
「はぁ、はぁ、一体ここはどこなんだ」
学ランのボタンを全開にして風邪を仰ぐ。
足場の悪さも祟って体力の消耗が早い。喉も乾いてきた、川か湖か、水の確保できるところを見つけないとい本格的にやばい。
「つっても、はぁ、はぁ、サバイバルの知識なんて持ってないしな」
止まっていた足をゆっくりと進めていく。さっきは死体から距離を取るために走ったが、もう十分だろう、体力温存のために徒歩で森の探索を進める。
幸い今の季節は春だ、これから暑くなるのはいただけないが、冬になる前の準備期間は十二分にある。……なんでサバイバルが前提なんだ、街を先にみつけようぜ。
時々足を止めて水の音を探してみるが見つけられなかった。
「畜生が! 何なんだよ一体! ここはどこなんだよ!」
積み重なった疲労と空腹、乾きが正常な判断を俺から奪っていた。意味もなく叫び暴れる。余計に疲労が蓄積されていることに気がついたのは、立てなくなった時だった。
「ぜぇ、ぜぇ。ああ、くそったれ。このまま死ぬのか?」
色あせた空を見上げて弱音を吐いた。木の根元に腰を下ろし、もう一歩も動けそうにない。人間飲まず食わずだと、三日持たないと聞いていたが、俺は一日も持たずに死んでしまうのか……。
どうせなら、苦しまずに死にたかったが、空腹と喉の渇きで苦痛を味わいながら死んでいくのだろうか。
「……水が欲しい」
《20ポイントと交換で水を召喚します。よろしいですか?》
「は?」
突然、目の前にそんな文字が出現した。正確には空中に現れた半透明の画面に文字が表記されている。
《20ポイントと交換で水を召喚します。よろしいですか?》
依然として画面は消えず、文字は若干の点滅とともにその存在を主張し続けている。
しかし、この時俺は混乱しなかった。水を求め、食に飢えていたからだ。そもそも混乱する余裕がなかったんだ。
「ああ、水をよこせ」
《承認されました。20ポイントと交換で水を召喚します》
―――ビチャ。
空から水が降ってきた、雨ではない。
顔にかかった水がわずかばかりに口内に侵入し、ゴクン、と喉を鳴らした。
「は、ははは、は。……ああ、そうだ、お前は何も間違っちゃいない。俺は水を欲した、そしてお前は水を出して見せた。ああ、ああ、何も悪くないぞお前は、悪いのは俺さぁ。そうだな、確かにその通りだとも……水筒いっぱいに水を入れて俺によこせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
《承認されました。30ポイントと交換で水筒と水を召喚します》
俺の魂からの叫び声が届いたのか、ボト、と今度は硬そうな音が足元からした。バッと勢いよく視線を落とすと、そこには革でできた海外の時代劇に出てきそうな水筒が落ちていた。それを拾い上げゆっくりと蓋を開ける。飲み口から中を覗き込むとそこには波打つ光の乱射が見えた。それを引っくり反して口に当てる。ぬる~い水が俺の口内を満たし、ゴクゴクと喉を鳴らして俺の体を生き返らせた。
「ぷはぁ、生き返る~。つうか、本当に水筒だし。魔法瓶と区別してんのか?」
《50ポイントと交換で魔法瓶を召喚します。よろしいですか?》
「区別してんのね」
というか、区別してるなら水筒で出てくるのは竹筒の方だと思うんだが。そこは適当なのね。
ひとまず死の淵から生還した俺は少しばかりの冷静な思考を取り戻していた。そして、取り戻したからこそ、やるべきことがある。
「えっと、残りポイント表示?」
《現在の残りポイントは1980ポイントです》
「おお、出てきた」
1980ポイントか、水だけで20ポイントだから……えっと、百九十回くらい召喚できるか。しかし、50消費して1980ポイントとは切りが悪いな? 最初が2030ポイントと言う事になる。……さっきの子鬼か? もしかしてあれ倒したらポイントが稼げるのか……今はおいておこう。
とは言え、水が出せたなら食料も出せるか。しかし、さっきの失態から考えても、してほしいことを具体的に言わないといけないらしい。
濡れた髪をかきあげながら考える。
仮にご飯が欲しいといえば、きっと出てくるのは茶碗一杯分のお米だ。きちんと茶碗にお米を入れて、という必要があると思われる。そして、このシステムはどこまで召喚できるのか。
「……召喚メニュー?」
《召喚可能な対象を表示します》
「おお、あってた。ふむふむ、魔物や武器、食品に植物、建物や家具か、消費ポイントはまちまちだが、たいていもの物は召喚できるな。……この魔物って召喚したあとで手懐けられるのか?」
魔物……じゃあさっきの子鬼も魔物? いよいよ胡散臭くなってきたな。
疑問は残る、だが今はこのポイントを活用して生き延びる方法を模索しなければならない。
……念のため、帰る、帰りたいとつぶやいてみた。
《帰還は不可能です。既に肉体と魂はこの世界の輪廻に組み込まれました》
どうやらどれだけポイントを消費しても俺は家に帰れないらしい。まあ、心配してくれる親はいないのでそこまで急く必要も無い。
「……魔法石?」
召喚メニューを流し読みしていると気になる項目を見つけた。魔道具と書かれたそれは、魔法を内蔵、封印、付与するといった道具の一覧表だった。その全てが、魔法が存在することが前提、いや、当たり前のように書かれている。
「あるのか、魔法が」
倒した子鬼を思い出す。まさしくファンタジーの世界にいるような生き物だった。剣と魔法の世界、ファンタジーモノの専売特許だか、魔法がないファンタジーも十分ある。某モンスターを狩るゲームも十分ファンタジーだが、魔法の類は一切出てこない。
魔法。その二文字にどうしようもなく引き寄せられる。俺も男だ、一度は憧れる。
「使ってみたほうが手っ取り早いな。えっと、水魔法を行使する?」
……何も起こらなかった。そもそも画面が出てこなかった。
というか、メニューに魔法の項目がないことは把握していたはずだが、誘惑に勝てなかったか。
がっくりと肩を落とす。すごい間抜けだ。
いやまて、言葉が間違っていたのではないか? 水も水筒も欲しいという欲求に反応した、なら魔法も使うではなく、欲しいと思えば手に入るのでは? 早速試してみよう。
「んん、魔法が欲しい!」
無駄に叫んだ。そう、俺は気合を入れて叫んだ。だって魔法が欲しいから。
俺の叫びが届いた、わけではなく、言葉が正しかったのか空中に再び画面が現れた。
《ポイントと交換で魔法を習得することができます》
画面をタップするとさっきと同じようにメニューが表示され、そこにはたくさんの魔法が記載されていた。
「おおおぉぉぉぉ! いっぱいある! ……へぇ、水魔法と氷魔法は別扱いなのか。こっちの加熱魔法と冷却魔法てどこで使うんだよ。というか、多くね? 無駄に分類されすぎだろ」
定番の火、水、氷、風、土、雷、光、闇を見つけた。風と雷、水と氷魔法は同じ属性として扱われることもあるが、この世界ではきっちり分類されている。
他にも天空魔法、空間魔法、時間魔法、大地魔法、影魔法、植物魔法、治癒魔法、回復魔法と細かく分かれている。そして、これ必要か? と思ったのが料理魔法だ。そこは自分で料理しろよとおもった。あとは探査魔法、固定魔法、送還魔法、転移魔法Etc……。
これ百個近くあるんじゃないだろうか? 画面をスクロールしながらそう思う。ところどころ取ってつけたような名前の魔法もあった。なんだよ照明魔法て、そこは光魔法か火魔法でも使っとけよ。ちなみに物騒なのもあった、消滅魔法に崩壊魔法、煉獄魔法と地獄魔法だ。もう意味わからん。
げっそりとしてまだまだ続くスクロールを流し見していると、一つの項目に目が止まった。
「防御魔法?」
続けて障壁魔法や硬化魔法と身を守れそうな魔法が並んでいる。その先頭の防御魔法、この物騒な世界においてかなり魅力的に見える。下の爆破魔法よりよっぽど安全で使い勝手が良さそうに見える。
「いいな、防御魔法欲しいな」
《ポイントをと交換で魔法を習得します。よろしいですか?》
「……」
悩む。ちょっとしたに行ったところの生活魔法なんてすごい気になる。しかし、今必要なのは生き残ることだ。仮に生活魔法を手に入れて子鬼にどうやって勝つ? 洗剤でも目にブチ込むか? それよりも俺の体を守ってくれそうな名前をしてるじゃないか。
「よし、承認だ! 防御魔法をよこせ!」
《承認されました。1000ポイントと交換で防御魔法を習得します》
「……はい?」
いま、とんでもない言葉が聞こえてきた気がするぞ? 俺の体が光っているにも関わらず急いでウィンドウの残りポイントを見る。980ポイント。……目をこすってもう一度見直す。980ポイント。ゴシゴシ、……、ゴシゴシ、……、な、な、な。
「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁ!!?? なんで一気に1000ポイントも使ってんだ俺はぁぁぁぁ??!」
防御魔法の項目を見る。どこにも消費ポイントが記載されていなかった。ならばと一番上までスクロールするもそこにも書いていなかった。しかし、俺の目はゆっくりと一覧表のさらに上にいく。ウィンドウの一番上のタイトルバー、そこにはこう書かれていた。
《魔法の交換ポイントは一律1000ポイントです》
絶句。
十分以上俺は言葉を失った。当然だ、まさか生命線であるポイントをまさかの半分以上失ったのだ。確かに俺の確認不足だが、まさかこんなところで1000ポイント使ってしまうとは、失態だ。しかし、落ち込んでばかりもいられない。太陽はいつの間にか沈み、もう一メートル先も見渡せないほどの闇があたりを覆っている。
「これが森の闇か、正直なめてた。全く見えん」
とにかく防御魔法を展開する。どうやら結界魔法の劣化版である個人結界、自分一人を覆う球体の障壁が張れるらしい。これなら一晩眠っても襲われる心配はないだろう。
街灯が照らす明るい夜を過ごしてきた現代っ子に、この暗闇はとてつもない不安を俺に抱かせる。
一寸先も見えないって言葉は、きっとこいうことをいうのだろう。
森は夜の方が怖い。そんな話を聞いたのはいつだったか、テレビの特番を見ながら笑っていたか……。あの頃の俺を殴ってやりたい、しっかり番組の内容を覚えていて欲しかった。