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1-5 お出かけ

 クリスは嬉しくて浮かれていた。

 今日は待ちに待った休日。アリスと外出の約束をした日である。

 仕事服が制服だったこともあり、三ヶ月間特に何も買わなかったクリスは下宿代や食費を引かれてもけっこうな金額が貯まっていた。

 これらを銀貨として崩し、今日は何を買おうかなと五十枚も持ってアリスと約束をした屋敷の前へと出かけた。ずっしりとした重さが努力の成果を物語り、それもまた楽しさを引き立てていた。


「うーん、何買おうかな。楽しみ。あ、でも初めての買い物だし迷子になったら帰れないかもしれない。それにスリとかいたらどうしよう」


 少し不安になり何か持って行けるものがないかと旅に使っていたポシェットの中身を見る。そのまま置いていたナイフがあった。万が一のことがあってはいけないと思い、護身用の持っていくことにする。

 そして、他にも何かないかと探していると旅で使っていた地図を見つけた。縮尺が大きすぎるでのこれはいいかなと地図をまるめようとしたとき、裏面になにやら模様が描かれている。


「あれ、こんな模様だったっけ?」


 確認してみるとどうやら町の地図らしい。半径五十メートルほどの拡大図となって、道路、小道が描かれていた。森にいたたときになぜ気づかなかったのだろうと思ったが、よくよく考えてみれば始まりは一本道で線が一直線とマークがあっただけなのだ。どうやら拡大図とデザインを勘違いしていたらしい。


 これで迷子になっても大丈夫だ。


 思った以上に便利な地図も持っていくことにした。

 こうして少し早かったけど待ち合わせの屋敷の前でアリスを待つことにした。従者としては当然の行為なのだがクリスは単純に楽しみで部屋にじっとしていられなかっただけではある。

 少し待つとアリスと私服の護衛らしき2人がやってきた。


「アリスさん、おはようございます」

「おはよう、クリス。今日もいい天気ね」

「はい。とっても嬉しいです。ちなみにこれからどちらに向かわれる予定なんですか」

「ふふふ。それはお楽しみよ。それじゃ、行きましょうか」

「はい!よろしくお願いします!」


 少し距離があるらしく最初は馬車で移動していたが、途中の広場で下車をする。

 ここからは歩いていくらしい。アリス達と一緒に少し歩いて行くと徐々に繁華街らしき町並みが見えてきた。

 クリスはアリスにフードをかぶるように言われ、アリスはつばの長い帽子を被っていた。簡単な変装ではあったものの、二人の容姿をわかりにくくするには十分であったがこれはアリス様の身分を隠すためのものだと納得した。


「さあ着いたわ。見て回りましょう」

「はい!」


大通りに面したこの繁華街は人がたくさんおり、大通りでは商店や宿屋、飲食店が立ち並び、小道側では露店が並んでいる。露店はアクセサリーや衣服などがたくさんあり、見るたびは「かわいい」と思わず声をだし、アリスから苦笑された。

 また、露店では食べ物も売っているらしく、どこからかただよう食欲を誘う匂いも楽しさをより引き立てた。そんな珍しい露店の食べ物を眺めたりしながらにぎわう人を眺めていた。


「ねえ」

「はい、アリスさん。何でしょうか?」

「最初は興味であっちこっち見ているのかと思ったんだけど。さっきから買い物しているお客さんばかり見ているわよね」

「あ、わかっちゃいましたか。客層も見ていたんです」

「客層?」

「はい。例えばあそこの露店で銅貨四枚で焼いたお肉を売っている店があるじゃないですか。そのお客さんの客層はどんな人が買うと思います」

「そうねえ、若い男の人かしら」

「私もそう思いました。でも見て下さい。実際に若い男性がたくさん買っていますよね。でも中には買ったのは男性ですが、女性や家族の姿にあげている姿もあります」

「言われてみれば……」

「ということは、お肉は女性にも人気があるかもしれない。でも現状では買いにくい食べ物となってしまっていることがわかります。そこで、例えば女性でも買いやすい店舗を作れば」

「女性のお客さんが買いに来るわね」

「はい。ただ、逆に男性がこなくなるかもしれないので女性の需要がどのくらいあるのかを見ていた。といったところでしょうか」

「そうね……ねえ、クリス。それを見に来たの」


 少し不満げなアリスを見てクリスはしまったと我に返る。


「まさか!アクセサリーや衣服を見てすごい楽しいです!」

「そう、それならよかったわ」

「あ!あの店にある靴、歩きやすそうなんで一緒に買いませんか」

「そうね。このままだとだんだん歩くの大変になりそうね」


 クリスは旅用の靴のままだったし、アリスはヒールだった。二人とも最初は特に問題はなかったものの、歩き回るにつれて少し足が疲れていたのだ。

 こうして、二人は歩き安そうな靴に履き替えてクリスはアリスとキャッキャと楽しみながら途中食べ物を食べたりゆったりと衣類やアクセサリーを見ていたり、近くの広場で一緒にやすんで雑談したりと楽しんでいた。そしてお店も一通りみたことで、少し探索をしていると、アリスが露天のない静かな道を見つけ首を傾げた。


「あら、ここには何もないのね」

「本当ですね。なぜでしょうか」

「繁華街からそれほど離れていないようだし不思議ね。ちょっと行ってみましょうか」

「え?アリスさんやめましょうよ」

「何言っているのクリス。護衛もいるんだから大丈夫よ」

「フラグじゃないよね……あれ?フラグって何の意味だったっけ」

「フラグ?フラグ……旗のこと?」


 古代文字か異国語で似た言葉があった気がすると思うアリス。一方のクリスは聞き覚えがある単語の意味を思い出せずに悩んでいると、アリスは首をかしげ、その意味を探るべく護衛を連れて静かな道をすすみ始めた。

 クリスも腑に落ちない微妙な気持ちになりつつアリスを追いかける。

 少し奥へ歩いてみると、そこは若干薄暗があり職人用の店がたくさん並んでいた。

 しかし、今日は休日なためかどこも閉まっており、人がまったくいなかった。


「そうやらこの辺は工房が中心みたいね」

「そのようですね。これはこれで面白いですが営業しているところもなさそうですし、そろそろ引き返しませんか?」

「それもそうね」


 特に楽しめそうなものもなかったため、アリス達が引き返すことにした。

 すると目の前に5人ほどのがたいが良くいかにも悪そうな男たちがニヤニヤし、道を塞いでいた。

 どうやら後をつけてこちらにちょっかいを出すタイミングを見計らっていたのかもしれない。


「や、やっぱりフラグたってたじゃないですか!」

「あら、フラグってそういう意味なのね」

「はっ!なるほど……じゃなくてそんな悠長な会話している余裕ないですよ!」

「それもそうね。でも護衛もいるし」


 慌てるクリスをよそに、アリスは護衛をちらりと見てから目の前の男達を見た。


「お嬢ちゃん達見かけない顔だね。どこへ行くのかな」

「繁華街に戻るところよ」

「よかったら俺達と遊ばない」


 いかにもこれから悪いことしたそうな声がかかる。


「けっこうよ!」


 アリスが睨みながらそう答えた。

 男達は笑いだし近づいていくと、護衛二人がアリスの前に立つ。




 そして、殴り合いが始まった!


バキッ!「ぐあっ!」


ドゴッ!「ぐへっ!」


 ……かと思えばすぐに決着がついた。目の前で護衛二人が気絶している。


 よ、よわっ、弱すぎるだろ!それでも護衛かよ!一発ぐらい相手に当てろよ!


 護衛が弱すぎるのか。はたまた目の前の男達が強すぎるのか。これまで一度も殴り合いの喧嘩をしたことがなかったクリスにはまったくもって強さがわからな かったが目の前の状況が芳しくないことだけはすぐに把握できた。

 アリスを見ると顔を青くして震えていた。


……アリスはどうやら護衛が負けるとは思ってもみなかったらしい。


 クリスはさっとナイフの鞘を抜いて構え反対の手でアリスを庇う。

 そのとき、焦って動いたために被っていたフードが外れてしまったが構う余裕などない。


「ははは。なんだ小娘かよ。今度はお嬢ちゃんが相手かな」

「……」


 男達がさらに近づいてくる。

 クリスはアリスをかばいながらじわりじわりと下がる。いきなり逃げても大人の男の足に敵うとは思えない。それに逃げるにしてもアリスを連れて逃げなければならない。下手に動かず、状況が好転できる状況を待つ必要があった。

 じりじりと押されるようにさがりつつ、顔は前の男達に向けたまま、目で周囲を確認してみるが人の気配はない。アリスは怖いのだろう。クリスの服に必死にしがみついていた。そしてへらへら笑いながら間合いをつめる目の前の男達。明らかにこちらが何もできないと油断している。


……ちゃ、チャンスかな


 程よい距離になったのを確認し、クリスは呪文を唱えながらアリスを庇っていた手を前に出して星を描き、火の魔法を唱えた。

 クリスが怒っていたこともあったのか。クリス自身も驚くほど勢いよく火が飛び出し彼らとの間に火の壁を築いた。


「「「うわっ!熱っ!」」」

「「何じゃこりゃ!」」


 男達は突然現れた火柱に慌て、怯んで後ずさったり、体制を崩して転んだ。


「……え?」


 一方でアリスは驚いて呆然としてるが、そんな余裕などない。


「逃げるよ!早く!」

「え?……あ、うん!」


 急激に疲労感に襲われるが立ち止まる暇はない。奇襲は相手が油断している時だけ効果があるのだ。ましてや出かけたいというクリスのわがままでアリスまで捕まったとなったら今の生活まで終わりである。呆然としていたアリスに叱咤しクリスはアリスと走って逃げ出した。


「あ、こら!まてやこのやろう!」

「舐めやがって、痛めつけてやる!」

「絶対後悔させてやる!」


 逃げていくアリスとクリスの姿に気づいたものの、火柱は依然として勢いよく燃え盛っており、男達は立ち往生していた。

 徐々に距離を離してゆき、火柱が消えることには少女2人が大人から逃げられるほどの距離を開けることができたが、男達はあきらめていないのかはたまた火柱を出して驚かせた好意に激怒したのか諦めることなく追ってきた。



「アリスさん、こっち!」

「え?ええ!道がわかるの?」

「わかんないけどわかるからついて着て!」

「わからないけどわかったわ!」


 このまま通りを走って逃げてもいずれ追いつかれてしまうことは目に見えていたうえに人に出会っても助けてくれるとは限らない。

 途中で見つけた小道に入り、クリスはナイフをしまい、かばんから持ってきていた地図を取り出して地図を見ながらアリスと走った。


「アリスさん!次は右!」

「次は左!」

「そのまままっすぐ!」


 息をきらしながらも右折や左折を繰り返すことで、視界から外れて距離を稼いだり、男達を分散させ距離を稼いだりできたが、これも地図のおかげである。小道にはあちらこちらに袋小路があり、そこに入ってしまえばもはや逃げようがないのだから必死に逃げた。

 そしてようやく小道を抜け、露店がちらほら見えてきて再び元の繁華街へとたどり着いた。


「はぁっはぁっ、こ、これで大丈夫そうだね」

「はぁっはぁっ、そ、そうね」


 お互い息が切れて苦しかったが、ようやく安全な場所までたどり着いたことで安心する。

 そしてお互いが無事なことを確かめ合うとアリスは泣き始めた。


 よっぽど怖かったのだろう。抱きしめてあげると身体も震えていることがわかった。

 そしてかく言うクリスも足が震えていた。


「こ、怖かった……」


 シクシクとアリスはクリスの胸元でしばらく泣いた。

 本来男であれば頼れる姿を見せれたのかもしれないが、クリスになってある程度月日が経っていることもあり、言葉が見つからなかった。

 ただただアリスの弱々しい姿に申し訳なく思い、近くにあったベンチに座ってアリスの気持ちが落ち着くまで優しく宥め続けた。


この出来事が起きる数時間前。その日の朝。


アリスが男2人を見つけ、声をかける。


「あなた達ね。買い物にでかけたいから護衛してちょうだい」

「任せてくださいアリス様。俺たち力には自身ありますよ」

「ええ、なんたって屋敷では一番、二番で強いですから」

「そう、聞いていたとおりね。頼りにしているわよ」

「「はい!任せてください」」


アリスは外出の支度に向かっていった。


「なあ、これってチャンスじゃないか」

「おうそうだな。おそらく外出には経理部の娘もくるだろうし」

「てことはダブルデートみたいなもんか」

「おうよ。な、噂を流しておいてよかっただろ」

「ああ。どうせ護衛と言ったって町中だしたいして危険なこともなさそうだしな」

「へっへっへっ。思いっきり楽しもうぜ!」

「おう。そしてあわよくば……」


こうしてニヤニヤしていたのが他ならぬあの護衛の2人であった。



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