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クリスが朝、目を覚ますとアリスがじっとこちらを見ていた。


「おはよう」


そう声をかけるとアリスは笑顔になる。


「おはよう」


そう言ったあと違和感を感じてクリスの胸元を見ていた。

そして自分の胸元を見て理解する。アイリスがクリスに抱きついており、自分も片手をアイリスにのせるようにしていた。


「あれ?もしかして笑ってなかった?」


再びアリスのほうを見てみると笑顔が恐かった。クリスはアリスを手招きをしてアイリスを挟むようにして抱きしめあう。するとアイリスは少し呻いたかと思うと身体をひるがえし、今度はアリスに抱きついた。もう一眠りするつもりらしい。

クリスは少し複雑だったものの、アリスの嬉しそうな顔を眺めそれはそれていいかなと思い。一足先に起き上がった。

その後、起床時間までアリスとアイリスはお楽しみだったらしい。少しだけアイリスに嫉妬したもののアリスの楽しそうな声と相手が女神様と思えば許すことができた。

そして、クリスはいつものように仕事をこなしてると、アリスから呼び出しを受け、会長室へと向かった。


コンコン


「失礼します」


そう言ってクリスは会長室に入ってみると、アリス以外にロザリーとベル、アイリスがいた。

仕事関係であればロザリーが来るのは変だったし、貴族や国政関係ではベルはこない。ましてやアイリスもいる状況にクリスは首をかしげながら入っていく。


「遅くなり申し訳ございません。なにか御用でしょうか」


どうやら一番最後だったことを察して、クリスは一言謝罪の言葉をいれる。


「いいのよ別に、それよりクリス大事な話があるわ」


そういうとアリスは真剣な眼差しでクリスを見てきた。


「何でしょうか」

「ラヌルフ伯から和解の手紙が届いたわ」


そういうとアリスは片手を挙げて手紙をちらつかせた。それも嫌そうに。


「は?和解ですか。どうして今頃」

「ええ、私もそう思うわ」


そして、アリスもクリスも首を傾げる。


「それでも、和解ならはいい話だと思いますが」


クリスは少し困惑した表情を見せながら言う。実際その話が本当ならローズ商会にとって悪い話ではなかった。


「ええ、まあ話だけならね。でも問題は場所なのよ」

「場所?と申しますと」

「和解の締結する場所はアキテーヌ町なの」


そう言うとアリスは悩んだ表情をした。その表情からクリスは察しがついたが念のため首を傾げる。


「ラヌルフ伯の屋敷があるところよ」


そう言うと、アリスはため息をついた。


「……なるほど、それで」

「ええ、それで誰が行くのかと話し合いをしていたところなの」

「そういうことだったのですね。それでは私が参りましょうか」


騎士団長であり、入浴事業や経理の責任者だったクリスえあれば本件でいえば十分であった。


「それはダメ!」


アイリスが突然否定した。その言葉に周囲の目がアイリスに集まる。


「だめってそれはどういう」

「理由は言えない。でもそれはやめた方がいい」


アリスがアイリスに問いかけられるとアイリスは顔を俯けた


「じゃあ、私やロザリーなら」

「同じよ。やめておいた方が良い」


どうやら向かうことがまずいらしい。周囲はどうかわからないもののアイリスの反応で大体言いたいことは想像がついた。


「私達以外が行けばいいのかしら」

「それは……」


アリスもアイリスの意見を無碍にするつもりはないらしい。代替案を提示してみたがアイリスの反応はあまり芳しくなかった。


「いっそ行かないという案もあるかと思います」


ロザリーが今度は提案する。アイリスの反応を見てのもっともな意見だったが今度はアリスが首を振った。


「それは難しいわ。そもそもこの講和の話は陛下が噂の解決のために出して、ラヌルフ伯が提示したたものなの。その話を台無しにするなんてローズ商会には不可能よ」

「だったらどうすれば……」


クリスは途方にくれた。周囲も同じ意見らしい。しばらく沈黙の時間が流れる。

そして、その空気を破ったのはアリスだった。


「私が行くわ」

「アリス様」

「アリスさん」


「結局誰かが行くしかないもの。だったら私が行くわ。それでいいでしょ」

「それなら騎士団を総動員してでも私は向かいます」


アリスが行ってクリスが行かない理由などなかった。

それにアイリスの反応をみても行かなければ後悔する気がした。


「私は反対です」


アイリスは反対する。その様子にアリスが言葉を選びながらやさしい口調で言葉をかけた。


「ありがとう。アイリス。でも罠かもしれないとわかっていても向かわないといけないときがあるの」

「そうですねアリスさん」


アリスとクリスは微笑みあう。アリスとクリスが決意を固めてしまった以上、ローズ商会でもう意見が覆ることはない。


「それで……いえ、何でもないです」


アイリスは諦めたらしい。

こうして講和に向かうメンバーが決定した。


メンバーはアリスを筆頭として身の回りの世話役としてベル、護衛はクリスを隊長にカルヴァン、レオン、ルイス、フローラ、ユリック。

同じ国内での移動にも関わらず、騎士団はほぼ総動員体制なことからその警戒の大きさが伺えた。

……人数的にはそうでもなかったが。そのためかアイリスは不満げだった。


そして、出発当日。


クリス達は隊列を組んで移動し始めた。

馬車の御社にはユリックを指名し、中にはフローラも待機させた。また、馬車の2頭の馬にも鞍をつけていざというときに馬車から切り離して馬だけ使用できるようにもしている。

その他メンバーは前後左右にそれぞれ1名配置し、その方向から襲撃がきてもすぐに対応ができるような体制とした。また、これまでアリスとは道中で一緒に話したりする機会が多かったのだが、今回は馬車内にベルとフローラいるためか大人しくしており、警護の人数も少なく見えるため一見すれば通常の護衛をつけた商人と変わらないので目立つこともなかった。


その警戒態勢のおかげもあってか王都オルランドからアキテーヌ町までの移動はいたって平和に移動することができた。旅路にして約7日程度の距離はあったものの、道中は整備されており予定よりも早いペースで進めたため、夜は警備しやすいように宿で泊まり、日中も休めるときは町で必ず休むようにしていた。そのため、日数は要してしまったものの何事も起こらず平和だった。

また、ルートに関しても、ラヌルフ伯領から少しでも入る時間を減らすために一旦南下してから西へ向かうルートが選ばれた。そのためか実際には5日のうちの5日はその他の領主領や王都領であったため、なんの問題も起こらなかった。その状況は、ラヌルフ領へ入ってみてもその状況は変わらなかった。

ラヌルフ領は葡萄の産地らしく、旅の道はちょうど一面の葡萄が広がっている中を歩くようになっていた。一面に広がる光景はきれいに整備された畑で、収穫時期ではないため緑一色では会ったものの、適度に土が見えるのどかな風景はそれはそれでいいものであった。その風景を越えて更に進んでいくとやがてその先に町が見えてくる。

アキテーヌ町への到着だった。


アキテーヌ町は川沿いの町だった。ただ、そのすぐ西側には川がだんだんと大きくなっていっており、船で海までいくことができた。また、さらに西側へ行けば別の町があるらしく、その町は港となっていてアキテーヌ町へ物資を運ぶ港代わりらしい。港に程近く、王都オルランドとガイア帝国を沿岸から繋いでいるこの町は巡礼にも使われる交通の要所としても栄えており、道中にあった葡萄が特産品だった。

クリス達はその町にたどり着くと、早速近くの宿へ泊まることにした。

理由はラヌルフ伯の屋敷へ向かえばラヌルフ伯の客人として屋敷へと泊めてもらえただろうが、アイリスの言葉を考慮してやめることにしたのだ。

こうして、アリス達は到着すると、早速使者を送る。その使者はルイスが引き受けてくれた。

ルイスはランドック出身だった。比較的利害が低いうえに男性なのでトラブルも少ないと判断してのことだった。その予想はおおむねあたっていたらしい。

ルイスが戻ってくると、近くに大勢がいても講和が結べるような教会があるということでそこで講和を結ぶことになった。

そしてクリス達は宿に入ってクリスも休もうとしていると、ノック音が聞こえる。

誰だろうと思ってドアを開けてみると、そこにはアイリスが居た。


「あ、アイリス!?どうしてここに」

「てへ、来ちゃった」


驚くクリスを見たアイリスは片目を閉じて舌を出している。


「いやいや、距離的にそのセリフはおかしいから」

「冗談よ、アリスに許可を貰って一緒についてきたの。こんな遠方まで一人で来れるわけないじゃない」

「え?ああ、なるほど……それにしても、どうして気付かなかったんだろう」

「ああ、そりゃついてきたらクリスが怒るだろうってアリスが言っていたからベルとフローラの助けを借りたの」

「ああ、だからか」


クリスは思い当たる点があった。道中ずっとアリスが大人しかったのだ。

てっきりベルやフローラがいるのと緊張感からだと思っていたがそれが理由であれば納得がいった。


「それで、ここまで来た理由は」

「ちょっと護身用のナイフを貸しなさい。あと、地図も」

「え?あ、ああ」


そう言われてクリスはアイリスを部屋に入れ、アイリスから貰った地図と護身用のナイフを渡した。


「はい。で、これをどうするの」

「ちょっと黙ってて」


そういうとアリスは地図を丸め、ナイフを包む。そして何やら呪文のような言葉を唱えたかと思うと。

地図で来るんだナイフを再び抜いた。

そして抜かれた地図は消滅し鞘となっていた。抜かれたナイフは細身のショートソードとなっていた。


「なにそれ何て魔法」

「くだらないこと言ってないで持ちなさい」


アイリスに怒られ少ししょんぼりしながらも言われたとうりにショートソードを握る。

そのショートソードはこれまで所持していたものよりも遥かに軽く、鋭利に見えた。


「これは?」

「剣よ」

「いや、それはみればわかるから」

「それは、あなたの剣術のなさを補ってくれる剣よ。だからあなたが握っていれば意思をもって戦ってくれるわ。ただ、それだと相手が見方か敵かの判断がつかなくなるからあなたのこれまでの道のりを記憶したのよ」

「え?じゃああの地図は」

「ええ、私が管理していた、あなたの行動記録よ」


予想外の回答に驚くが地図がずっと自身の位置を示していたことを考えれば確かに辻褄があっていた。

何これ便利と思っていたが思っていた以上にすごい地図だったことをクリスはようや知った。


「でもさ、これが渡されるってことは……」

「ええ、そうよ。私ができることはこれだけよ。後は頑張ってね」


そういうとアイリスは退出していった。

剣が渡されたその意味はクリス理解した。


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