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4-0 女神様の日常

クリス:主人公、現在ローズ商会、経理責任者兼ローラン王国のバラ騎士団団長

アリス:ローズ商会の会長

アイリス:下界に降りた女神様。ローズ商会の客人となっている

ロザリー:ローラ、元ローズ商会使用人。現在ローラン王国の子爵

メアリ:ロザリーの使用人。元ローズ商会メイド長。

ベル :ローズ商会のアリスとクリス側近の秘書。カルロス孤児院出身。

ウィリー:ローズ商会のオルランド販売責任者。カルロス孤児院出身。

カルヴァン:ローズ商会の護衛。バラ騎士団副団長。カルロス孤児院出身。

ユリック:ローズ商会の小間使い。カルロス孤児院出身。

エリック:ローラン王国第2王子。国王ヘンリーの子供。

レオン:巡礼時にバラ騎士団に入る。ランドック出身。

ルイス:巡礼時にバラ騎士団に入る。ランドック出身。

フローラ:巡礼時にバラ騎士団に入る。ランドック出身。


プロヴァン辺境伯:ローラン王国南東プロヴァンを統治。マーセル商会を支援。

ラヌルフ辺境伯:ローラン王国南西ラヌルフを統治。ローズ商会とは対立。

ランドック辺境伯:ローラン王国南ランドックを統治。上記2名とガイア帝国を監視。


ローズ商会:王都オルランドで石鹸事業、入浴事業を営む。会長はアリス。

マーセル商会:プロヴァンで石鹸事業を営む。ローズ商会の関連商会。


ローラン王国:王都オルランド。国宝は賢王ヘンリー。特産、紋章はバラ

ガイア帝国 :ローラン王国南方にある広大な海洋帝国。特産、紋章はオリーブ

 巡礼から帰宅後、特に何が起こることもなくクリスは16歳となった。


 12歳でこの世界にきて働き始め、13歳で経理責任者になり、15歳で騎士となった。

 振り返ってみれば仕事ばかりの怒涛の日々で満身創痍、良い言い方に言い換えれば満たされた人生だったのかもしれない。


 ただ、未だにクリスができていないことが一つだけある。


「なぜ、これまで恋愛に無頓着だったのか」

「何寝ぼけたこと言っているのよ」


 クリスがぼやいているとアイリスがツッコミを入れてきた。

 いつの間にいたんだろうか。アイリスの姿に気付くとクリスは聞かれていたことが急に恥ずかしくなった。


 最近、神出鬼没……女神様にこの言葉を使って意味があるのかわからないもののアイリスはいろいろな場所に現れては人と話をしているらしかった。

 陽気に話す無邪気な姿は不思議と人に安心感を与えるらしく、ずけずけと物事を言うわりに人から嫌われることもなかった。そのおかげかすぐにアイリスが周囲と仲良くなっていることにクリスも安心していた。ただ、アイリスは個別に何やらプライベートな話もしているらしく、その内容を知りたくて少しクリスは気になってはいたが。


「い、いつのまに」

「いつのまにて、さっきからずっといたじゃない」

「なっ……」


 クリスは驚きと焦りのあまり返す言葉がなかった。

 一瞬硬直してしまったがクリスは一旦深呼吸をして心を落ち着ける。言い合いをしてアイリスに勝つことが無理だとクリスは自覚していた。


「ところで社会見学はどうだったの」

「まあまあかな。みんなそれぞれ仕事で忙しいみたいだし」


 そういうとアイリスは少しつまらなそうな表情をしていた。

 その様子を見てクリスもローズ商会の現状とバラ騎士団の現状を再確認してみる。


 ローズ商会はアリスが会長のとなり経営は順調であった。

 石鹸事業についてはローラン王国では王都の入浴事業を含め既に一部地域では国民にまで広まってきており順調に需要は伸びている。そして、アストゥリアス国へも既に供給が開始されて採算はとれつつあった。

 また、ガイア帝国へはマーセル商会を通じて事業拡大が行われており、一部ローズ商会の商品も供給され、普及しつつあった。唯一進出していなかったライン連邦に関してもクリスが巡礼の護衛中にアリスが手はずを整え、カルロスからロジャース商会を通じて供給を行うことになったことを聞いた。こうしてローズ商会はローラン王国を含め近隣諸国にまで既に名が広まりつつあった。

 加えて今の主要メンバーが変わらないものの、工房を中心に従業員も徐々に増えていっていた。

 また、バラ騎士団も順調で、巡礼の功績によりカルヴァンは騎士見習いから晴れて騎士となった。巡礼に動向してもらったフローラ、レオン、ルイス、ユリック、アイリスも正式にバラ騎士団の団員となった。加えてユリック、フローラについては騎士見習いに、アイリスについてはアリスと同じサポートのポジションとなった。

 なお、アイリスについては報告としてエリックを通じて機密事項として女神様であることを知らせたため、バラ騎士団が責任を持ってお守りすることになったのだがアイリスは興味がないらしく、「どうでもいい。クリスに任せる」の一言だった。

 アイリスを除き、それぞれがそれぞれの新しい役割をもって忙しくなってきているのが現状だった。


「ねえ、アイリス」

「なに?」


 アイリスはつまらなさそうに返事をする。どうやらクリスが物思いにふけている間も黙ってみていたらしい。


「退屈なの?」

「まあね、人とうり人間関係も聞いたし、町も回ったし、教会に行ったら監禁されそうになったし」

「監禁て……」

「そしゃそうでしょ。てかクリスが国王に報告したせいなのよ!教会に行ったらずっと付きまとってくるし跪いてくるし、もっと教会に来て欲しいと要求してくるし、あげくに教会に住んでとまで言い出すのよ」

「そ、そうなんだ」


 どうやらアイリスにとっては教会はあまり居心地の良い場所とはならなそうであった。

 まあ、アイリスにそこまで言ってくる時点で怪しいというか権力として悪用しようとしている雰囲気があるのでアイリスの判断が正しいのかもしれない。甘い話には疑ってかかるのが鉄則だし。


「私はもっといろんなところに見て回りたいの!なのにクリスは事業に忙しいようだし、話を聞いてみれば恋愛もへたれだし」

「へたれ言うなし」


 批判が思わぬところからクリスに返ってきてクリスは言い返そうとしたがふと思い出した。


「そういえば、アイリスは入浴場へは行ったの?」

「入浴場?ああ、クリスが仕事しているところでしょ」

「そうそう」


 クリスは頷くと、アイリスは首を横にふった。


「いいえ、まだよ。だってあそこは貴族が行くところなんでしょ。私は行ける身分じゃないわ」

「いや、アイリスは女神だからどう考えても貴族よりうえだと思うけど……」


 そう言ったが、アイリスの様子を見るとどうもそれ以外に理由があるようだった。

 興味がないわけでもないが行きづらいのだろうか。


「だったら、ロザリーさんに頼んでみたら。入浴場は会員制になってから付き添いは了承されているし」

「そうなの!?じゃあロザリーに頼んでくる!」


 そういうとアイリスは駆け出していった。


「お、おーい、走るのははした……て聞いちゃいないか」


 アイリスが出て行った後を眺めながらクリスは呟いた。




 そして、その日の夜


「クリス!」

「いや、ノックしようよ」


 明日の仕事の予定を確認していると突然アイリスが入ってきた。


「まあ、気にしないで」

「いや、気にするから。仮にも貴族も住んでいる屋敷だよ。で何か?」

「入浴場すごく楽しいね」

「え?楽しい?」


 楽しいのだろうか?クリスは首を傾げた。

 確かに心地よいし、リラックスできるけど。


「入浴場がすごく広かったし、いろいろな人と話したよ」

「そうだったんだ」


 クリスはアイリスがロザリーに迷惑をかけていないか心配になったがとりあえず話を聞くことにする。


「それで」

「みんな不倫やら政略結婚やらけっこう黒い話が多かった」

「そ、それって楽しいのか?」


 アイリスの突然の黒い話に驚きが隠せなかったが、12歳程度に見えるアイリスに何話してんだよとクリスは憤った……いや、それを通り越してただただ呆然とした。


「けっこう生々しい話だったけど聞く?」

「いや、けっこうです」


 アイリスが笑顔で話しかけていることが余計に恐かったのでクリスはお断りした。

 貴族というだけでも裏にいろいろとありそうなのに興味で聞いて後で後悔する危険をおかして話を聞くほどクリスには勇気がなかった。


「ま、まあ楽しかったのならよかったよ」

「ええ、それにまた来てお話を聞いてちょうだいだって」


 どうやらこれからはロザリーの付き添いでアイリスもついていくことになりそうだった。

 話の内容はともあれアイリスを通じてロザリーと他のご令嬢達との関係が少しでもよくなるのであればそれはそれでいい……かもしれないと思うことなした。いや別に迷ってないし。

 アイリスはそれだけクリスに報告すると満足したらしい。ロザリーと話してくると言い、部屋をでていった。


「あれで女神様なんだよな」


 そう思うと、ため息がでた。ただ、王都に連れてきてからアイリスが誰かと対立したといった話は聞いたことがない。

 そういう意味では無邪気さも含めて確かに女神様なのかもしれない。

 むしろ、勝手に高貴なイメージを持ってやれ助けてやれ救ってと言って自らは努力しない人も多くいる世界を考えれば権力に媚びず自ら足で確かめ人の話をちゃんと聞いているアイリスは確かに神様なのかもしれなかった。

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