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3-10 帰れる場所

帰路についてメンバーは話し合うことになった。

カルヴァンが負傷しているため、回復を待つか誰か一緒に残る必要があった。

しかし、今は帰路でもう少しでローラン王国へと辿り着く。カルヴァンを理由にロザリーの帰路を延期させるには立場としても動機としても弱かった。

そこでロザリーがこう提案した。


「カルヴァンさんはクリスさんに任せましょう。護衛はレオン様、ルイス様、フローラ様に護衛してもらえばなんとかなるでしょうし」

「え?ちょっと!?」


クリスは反論しようとしたが、代替案がでてなかった。

ランドック辺境伯もロザリーの後援を申し出ていたので誰も異論がでるはずもない。ましてやこれよりも妥当な代替案などなかった。

「しかし、バラ騎士団の護衛が」


かろうじて出したクリスの指摘。それはバラ騎士団が護衛を離脱してしまい、任務放棄となることだった。

しかし、そこにフローラがとどめの提案をする。


「私たちをバラ騎士団に入れてください」


この一言が決定打となった。

こうしてレオン、ルイス、フローラをバラ騎士団の団員とすることになった。

そしてロザリー案が採用されることになりロザリー達は出発していった。ロザリーの意味ありげな笑顔と供に。

残ったメンバーはクリス、カルヴァン、アイリス。


「どうしてこうなった」


こうしてロザリーを見送ることになったクリスは思わず呟く。

そしてロザリー達の姿が見えなくなるとクリスはカルヴァンのもとへと向かった。


「あ、あのクリスさん。申し訳ありません」

「いいのよカルヴァン。それより安静にしてはやく治さないとね」


クリスはカルヴァンのいる部屋へと戻るとさっそくカルヴァンが謝ってきた。

カルヴァンは律儀な性格なのだが、少し真面目で気にしすぎた。

この様子からもロザリーの意図がカルヴァンにまったく伝わっていないことがクリスにはわかる。

もっとも、クリスにとってはその方がありがたかった。

それもこれもすべてロザリーがあの場に居合わせてしまったための勘違いが原因だったのだから。


「すいません。ご迷惑をおかけして。それに力になれなくて」

「まだ気にしていたの」

「はい、だってもっと強くならなくちゃ。それに」

「それに?」

「あのとき殺そうとしたときに躊躇ってしまった自分が悔しくて」


カルヴァンのその一言にクリスは反応した。

死に急いでいる気がしたのだ。


「ねえ、カルヴァン。私は殺すのを躊躇ってないように見える」

「え?」

「私はこう思うの。殺すことに慣れちゃいけないって」

「え?でもそれじゃあ戦えなくなってしまうんじゃ」

「ええ、そうかもしれないわね。確かに大切な人を守るために戦わないといけないことがあると思うし、そのために殺さないといけないときがあると思うの。でも、何も感じない人にはなって欲しくないの」

「クリスさん、でも」

「考えておいて。なんのために戦うのか、その理由をね。そしてあなたが死んでしまえば悲しむ人たちがいることを。さあ、この話はもうこれで終わりにしましょう。今は悩むことよりも治すことのほうが先」


そう言うとクリスは部屋を出た。

すると、目の前にはアイリスがいた。もしかしたらずっと聞いていたのかもしれない。

一緒に部屋へと戻りながら話をすることにした。


「アイリス、私が言ったこと間違っているのかな」

「さあ、わからないよ」


そういうとアイリスは両手を左右にあげ、首を傾げた。

その様子からばっちり話を聞いていたとクリスが理解するには十分だった。


「でもその話には続きがあるんでしょ」

「アイリスには敵わないな」

「そうでしょ」


そういうとアイリスは自慢げにドヤ顔をした。

そして急に真面目な顔つきになるとクリスを見た。


「話してごらんよ」

「できればカルヴァンには人を死なせる経験をしてほしくないの」

「騎士になろうとしいるのに?」

「わかってる。それでも人を殺さずに済むならその道を選んで欲しいの。私のようにならないために」

「・・・」

「あなたのように畏怖を与えることができればよかったのに」

「そうかもね。私に喧嘩を売る人はそうそういないものね」


そう、アイリスのように相手が神様だったら誰も喧嘩を売ろうとしない。

結果として誰も殺さずに済むのだ。

でもカルヴァンにその姿を望むのはあまりに酷だった。

それもただの理想論のこの話をするのは。だからクリスは言えなかった。


その話も終わり、部屋に入るとクリスは改めてアイリスにたずねることにした。

アシスト役として残されたアイリスはまったくその仕事を努めなかった。その確認をしたかったのだ。


「ねえ、アイリス。くっつけようとしないの」

「クリスがカルヴァンのことを好きなのなら手伝ってあげてもいいよ」


なるほど、だからあのとき部屋の前にいたのか。

一応仕事はするつもりはあったらしい。


「アイリスは好きな人とかいたりするの」

「うーん、クリスのことは好きだよ」

「・・・たぶん好きの意味が違う気がする」

「え?ちがうの!?どうりで異性の結婚が禁止なわけだ」

「え?素なの?神様なの?」

「失敬な!じゃあ、何がどう違うのよ」

「それは・・・」


この後クリスは必死にアイリスに鼓動が高鳴るとか一緒にいてワクワクするとか寂しいとか散々説明してみたものの。


「わかった!私はクリスのこと好きということなんだね」

「だから、ちがーう!」


という流れに戻ってしまい恋愛トークに発展することはなく女神様の恋愛事情を知ることはできなかった。

ロザリーさん配役間違っていますよ。クリスはそう思った。


ロザリーの意図を理解していないカルヴァン。アシストしないアイリス。

そのせいもあってかクリスのカルヴァンへの看病では特に何も起こらなかった。

もっとも、カルヴァン自身がまったく動けないということではなかったためクリスがやったことは食事の持ち運びや怪我をしているカルヴァンの身体を拭く手伝いをしたくらいだったが、クリスは以前は男だったしカルヴァンとも見知りあった間柄だったため恥ずかしがることもなくこなすだけだった。


こうして一週間もするころにはカルヴァンは立ち上がって馬に乗れる程度にまで回復していた。

そしてクリス達もようやく帰路へとつきはじめる。


遅れること一週間。おそらくちょうどロザリー達は王都オルランドへ到着したあたりだろうか。そんなことをクリスは考えながら馬へ乗り、道を進み始めた。

馬車の警護も必要ない帰路は楽なものであった。

傍からみれば少女2人と護衛らしき男が1名のメンバーだが魔法が使える騎士と女神様、そして見習い騎士だ。これで魔王でも倒しに行こうかとも言い出せそうな編成であった。

それに炊事も魔法が使えるクリスがいたこともあり旅路で困ることなど何もなかった。

その炊事中、帰路のロザリー達は水や火は大丈夫だったのだろうか。そうクリスは不安に思ったが、そこはメアリがいたのだからと深く考えないことにした。


そしてようやく辿り着いた王都オルランド。

片道2週間、途中アストゥリアス国とカルヴァンの怪我の回復を待った時間を含めると1月半に渡る旅がようやく終わろうとしていた。

そして今まで気付かなかったことをクリスは感じていた。


「王都に帰ってきた」


帰ってきた。そう思ったとき不意に安心感を感じた。

そう、まるで自分の住んでいた町に帰ってきたような感覚。

その実感を一歩一歩確かめるように道を進み、ようやく辿り着くローズ商会の屋敷。


「帰ってきた」


クリスは再び同じ言葉を呟く。まるで何かをかみ締めるかのように。

この町に住むようになってからまだ2年程だったが、あまりにいろんなことがあった。

専らローズ商会のことばかりではあったが記憶を失ってからの間、ずっと頑張ってきた場所だった。

不安に負けそうな日々。それでも負けずに頑張ってきた日々。そして、そんな中で手を差し伸べてくれたアリス。

そして、クリスに対して良くしてくれた人たち。時間で言えば決して長いとは言えないものの過ごした日々はかけがえのない日々だった。

改めて過去を振り返るとクリスは馬を降り、アイリスもおろして手綱を引きながら屋敷へと入っていくと入り口が開かれ見慣れた金髪の女性が出てきた。

その後ろにはこれまで出会った人たちが続く。

言わずもがな、アリス、ロザリー、その後ろに続いていたのはメアリ、ベル、フローラ、レオン、ルイス、ユリック達だった。

屋敷で待っていた人と旅のメンバーが出迎えてくれたことにクリスは思わず目が熱くなった。

そして、歩きながら一歩一歩アリスへと近づき、跪いて伝える。


「バラ騎士団団長クリスティーヌ・ローランただ今帰りました」

「お帰りなさい。クリス」


そしてお互いに抱きしめあった。


「ロザリー達だけが帰ってきたときは心配したのよ」

「すいません。でもアリスが必要としてくれる限り、私はそう簡単に死んだりしませんよ」


そういうとクリスはニコニコと笑顔を作った。

その様子を確認したアリスは驚いた様子をしながらクリスをまじまじと見る。


「どうかしましたか?」

「いえ、なんだかクリスの雰囲気がかわったような」


アリスがそういうとクリスはニコニコしながらこういった。


「はい、記憶が戻ったんです。だからまた以前のようにアリスさんをお守りさせてください」

「そう、よかった。本当によかった」


そう言うとアリスの目からふと粒ながれていくのが見えた。

そして改めてお互いに抱きしめあった。

振り返ってみればほんの数年前はローラン王国とカルロスの間にただ一人でスタートしたのだ。

それがどうだろうか、見回してみれば仲間がいて、こうして喜んでくれる人がいる。

不安の中で始まった生活は思いもよらぬ形で生きてゆける生活を得た。


そう、私は帰れる場所をようやく手に入れた。いや、もしかしたらアリスに創ってもらえたのかしれない。

ここから先、私はどのように生きてゆくんだろうか。


そうクリスは思ったが不思議と不安や心配な気持ちはなかった。


(エンディング3:私はこうして中世で生きていく)

当小説を読んでくださりありがとうございました。

GWのあったのに予定外に仕事が忙しくなってしまったため、小説を思うように書く時間が作れず遅くなったり未修正なものもあった点に関しては読んでくださった方々に申し訳なく思っています。



※ 投稿予定日の記述をしておらず申し訳ありませんでした。第4章の投稿予定日は6月上旬となっています。

なお、物語の本筋に関してはこの第3章を持って終わりとなり、第4章は恋愛編となります。

その第4章投稿に関しては本筋の修正が終わり、仕事がひと段落してから投稿を再開使用と考えておりますので気長に待っていただければと思います。


感謝の言葉をもってあとがきを終わらせていただきます。

ここまで読んでくださりありがとうございました。

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