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3-9 うまくいかない現実

クリスが目を覚ましたとき、目の前にあったのは見知らぬ天井だった。


何があったんだっけ。


ぼんやりとして頭が回らない。手を頭にあて、記憶を遡ると徐々に魔物との戦闘の出来事思い出していった。そしてカルヴァンのことも。


「カルヴァン!」


クリスが慌てて起き上がり、周囲を見回してると、そこには驚いた表情をしたロザリーとアイリスが窓辺の椅子にいた。どうやらここは宿屋らしかった。


「クリスさん、お目覚めになったのね」


ロザリーが微笑みながら近づいてくる。

アイリスもニコニコしながらロザリーに続いてやってきた。


「馬鹿だなあ、体力が尽きるまで魔法を使うなんて」

「え?」

「あ、アイリスさんもご存知だったのですね」

「そりゃそうですよ。だってその魔法を使えるようにしたのは私なんですから」


アイリスは自慢げドヤ顔をするとロザリーは目を白黒させていた。

しかし、クリスはそんな話に関わっている余裕などなかった。


「あ、あのカルヴァンは」

「そ、それは・・・」


クリスが問いかけるとロザリーが顔を背けた。アイリスを見ると同じように背ける


「え?」


あのときの記憶がまだぼんやりとしているが、あのときカルヴァンが魔物に襲われたことは覚えていた。そして血を流していたことも。


「フローラ達にも報告しに行ってくるよ」


その場に居づらくなったのかアイリスが立ち上がり部屋をでていく。

しかし、クリスはその様子を目で確かめられなかった。

涙が溢れてきていたから。

その様子を見かねたのかもしれない。

ロザリーが優しく抱きしめて、頭を撫でてくれた。

クリスは一瞬驚いたものの素直に甘え、ロザリーの胸元で泣いた。


そのときだった。


勢いよくドアが開いたかと思うとフローラがやってきて続いてアイリスが入ってきた。


「クリス団長!・・・え?」

「フローラさんを呼んで・・・あれ?」


クリスがロザリーに泣いている姿を見て二人は驚いているようだった。


「クリス団長・・・ど、どうされたのですか」


フローラは初めて見るクリスの泣いている姿に動揺しているようだった。


「だって・・・カルヴァンが・・・」


クリスが涙を抑えながら返答をする。


「ああ、カルヴァン副団長ですね。たしかにひどい怪我をしておりましたものね」


そう、カルヴァンはクリスを守ろうとして魔物に襲われて怪我を・・・ん?怪我?


「え?・・・ごめんなさい。今なんて?」

「カルヴァン副団長はひどい怪我をしております。私たちの力が至らす申し訳ありません」


そういうと、フローラが頭を下げた。


「・・・え?」


クリスは思わずロザリーを見る。ロザリーは意図していることが伝わっていないのか首を傾げていた。

今度はアイリスを見るとこちらは察したらしい。肩を震わせて堪えているのがわかった。


振り返ってみれば確かにロザリーもアイリスも心配している様子はあっても暗い様子はなかった。

クリスは勘違いしていたことにようやく気付く。

そして顔が一気に赤くなるのを感じ、思わず再びロザリーの胸元へ顔をうずめた。

そうでもしなければ恥ずかしさのあまり死んでしまいそうだったのだ。


「うぅ・・・」


その様子にロザリーも察してしまったようだった。クリスの頭をなでながら優しく言葉をかけてくれた。


「カルヴァンさんの様子を一緒に見に行きましょうか」


そう言われ、クリスは顔を上げると顔を赤くさせて恥ずかしい気持ちを抑えながら頷いた。

そこでアイリスは我慢の限界がきたらしい。ケタケタとお腹を押さえながら笑いだし。まったく状況を飲み込みえていないフローラはただただ困惑した様子でロザリーを見て、ロザリーはどう説明したものかと苦笑いし、クリスはただただ顔を赤くして顔を隠した。




その状況が少し続いて落ち着いてきたころ、ロザリーに慰められながらもクリスは気を取り直してカルヴァンのもとへと向かった。

なお、ロザリー達は遠慮してなぜか一緒に向かおうとしなかった。クリスと一緒に部屋に入ったら間違いなく思い出して吹き出してしまうと思ったのだ。

そのためクリスは一人でカルヴァンのもとへと向かうことになった。


コンコン


「カルヴァン、入っていい」

「・・・」


返事がなかった。不安になったクリスはこっそりとドアを開けてみたが静かで他に人はいないようだった。

そしてカルヴァンの様子を確認してみると、ベッドで寝ていた。


「死んで・・・ないよね」


クリスが最後に見たのは血を流しながら徐々に目を閉じていカルヴァンの姿だった。

不安になってベッドの傍へと寄ってみる。

しかし、カルヴァンはいっこうに動く気配がなかった。


「寝ているだけだよね?」


まるで死んだみたいに寝ているカルヴァンの様子を眺めながら、念のためにと胸元へ頭を寄せて鼓動を確認しようとした。

そのときだった。不意に何者かによって腕が捕まれてカルヴァンの寝ているベッドへと押し倒される。


「きゃっ!」


起こった出来事がわからずクリスは思わず悲鳴を上げて目の前を確認するとそこにはカルヴァンがいた。


「く、クリス団長!?」

「え?カルヴァン?」


どうやらカルヴァンは寝込みを襲われたものと勘違いしたらしい。取り押さえようとしたために体勢が入れ替わり、カルヴァンがクリスの両腕をつかんでベッドに押し倒している状態になる。


「あ、あの」

「え?えっと」


お互いにどう言い訳しようかと考えあぐねていたときだった。


「「どうしたの!」」


ドアが勢いよく開いたとともにフローラろロザリーがやってきた。

二人はクリスとカルヴァンの状況を確認すると、フローラは絶望した表情になり、ロザリーは驚いて両手を口にあてていた。


「いや、これは」


カルヴァンが二人の様子に気付いて言い訳しようとするがどうみてもカルヴァンがクリスを襲おうとしているようにしか見えない。


「カルヴァン副団長!これはどういうことですか!」


フローラは怒気を込めながら説明を求める。その大声が周囲にも聞こえたらしい、続いてアイリスがやってくるとニヤニヤとし、メアリ、レオン、ルイス、ユリックまで何事かとやってきた。


「これは、その・・・違うんです!」


カルヴァンは困惑した表情をしながら顔だけフローラに向けて必死に取り繕う。

しかし、残念ながら悪化していく一方だった。そしてその状況を見かねたクリスが一言いった。


「カルヴァン、わかったから腕を放してちょうだい」


そう言われてようやく気付いたカルヴァンは慌てて放してくれた。

そして、取り押さえようとしたせいだろう。傷口から血が滲んでいるのがわかった。


「とりあえずカルヴァン。あなたは寝てなさい。傷口が悪化したみたいだし。あと、アイリスあなたも手伝って。ほら、他の方々は怪我人の治療をするから退出をして」


クリスがそういうとフローラ達は不服ながらも部屋へと戻っていった。

なお、ロザリーだけはなぜか笑顔だった気がしたが、クリスは深く考えないことにした。

そしてクリスはカルヴァンの怪我の処置をアイリスに手伝ってもらいながら行った後、アイリスの顔をみると睨みながらいった。


「あなた、楽しんでいるでしょ」

「さあ、何のことやら」

「いいからこれまでの状況をすべて説明しなさい!」

「わ、私女神様なんだよ!それに恩人なんだよ!」

「感謝してます女神様。だからさっさと説明しなさい!」


その言葉にアイリスは不服そうにしながらも話をしてくれた。


クリスが魔法を唱えたとき、ずっと窓辺から外を眺めていたアイリスは山から煙と炎が見えたらしい。

そのときにクリスが魔法を使ったことを察して急いでロザリーに報告したそうだ。

するとロザリーがフローラとレオン、ルイスに指示を出してクリスの安全確認と必要に応じた救援を行うように指示したらしい。

そこからはフローラの報告内容となるが、3名はすぐに帰路につくだろうと旅路に格好のままだったこともあり、すぐさま救援へと向かった。

しかし、いざ現場についてみればあたり一面が真っ黒となっており、大量の魔物焼死体らしきものと一部人間の死体らしきものがあったそうだ。そして、その中を恐る恐る進んでいくと意識を失ったアリスとその膝元に怪我をしているカルヴァン、そして呆然としているセンピルがいたらしい。

フローラが慌ててクリスの状態を確認し、レオンとルイスはカルヴァンの怪我の応急処置をしたそうだ。

そして急いで宿屋までもどるとカルヴァンは再度医者のもとで治療され、クリスは寝かしつけられた。

なお、その中で唯一無傷だったセンピルはフローラ達によって事情説明を求められクリスが火を放つ魔法を使ったことは既にフローラ達は知ることとなった。

何より、クリスが魔法を使えると知ったフローラは驚いたというよりもむしろ喜んでいたらしい。

なお、カルヴァンについては、出血が多かったものの命には別状がないためあと一週間ほど安静にしてれば旅を再開できるらしい。


そこまでの話を聞いてクリスはため息をついた。


「じゃあ、なぜ私がカルヴァンの安否を確認したときに反応が悪かったの」

「それは・・・」


そういうとアイリスは視線を逸らし言いにくそうにしている。

しかし、クリスがいっとアイリスのことをじっと見ているとようやく諦めたのか小声で話てくれた。


「それは、センピルから聞いた話なんだけど、結局カルヴァンは負傷したわりに全然活躍していないし、団長のクリスを守れていないし、最後にはクリスが倒れた後に助けも呼べずに一緒に気絶までしちゃっているし」


徐々に声が小さくなっているのはカルヴァンに気をつかってのことだろう。

確かに話のとうりであった。そしてちらりとカルヴァンを見ると顔を俯けて落ち込んでいることは明白だった。


どうしよう。この空気。


原因はクリスがアイリスに聞いてしまったせいなのだ。頑張って取り繕ってみる。


「ま、まあでも前回よりは頑張ってくれたものね。一歩前進よ」


クリスは無理やり微笑みながらカルヴァンに声をかけたが、カルヴァンはさっきよりも落ち込んでしまった。


「あ、あれ?」

「クリス、カルヴァンは副団長なんだよ。それも見習いとはいえ騎士なのよ」


どうやらフォローに失敗したらしい。


「まあ、私は直接見てないから」

「え?ちょっ」


そういうとアイリスは部屋を退出していった。

残されたクリスとカルヴァンはお互い黙ったまま沈黙の時間が流れた。


「あ、あのね」

「はい」


クリスは沈黙に耐え切れず、一言だけ伝えることにした。


「ありがとう。うれしかったよ」


素直な感謝の気持ちだった。

なのに何故か急に恥ずかしくなり、誤魔化すように微笑み逃げるように部屋をでた。


「そういえば、アリスさん以外に守ってもらったのはカルヴァンが二人目かも」


恥ずかしかった原因はおそらくそれが原因だろう。そうクリスは考えることにした。











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