3-5 聖騎士
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大聖堂は大騒ぎとなった。
それはそうだとう。突然黒髪の少女が石像に触れたかと思えば、その石像が女神様の姿で動き出したのだ。
これで騒ぎにならない方がおかしかった。
当然、牧師、警護の兵も女神様が降臨したと思って跪く。
ロザリーも慌てて続き、参拝者達も同様だった。
「さて、クリス。私との約束は覚えていますよね」
「ええ、神託を受けてしまった以上お役目を務めさせてもらいます」
「じゃあお願いね」
そういうと、女神アイリスが手を差し出す。そしてクリスが手をとった。
ここまではよかった。
「・・・あれ?私が何かするの」
「え?」
「え?」
クリスが驚いてアイリスを見る。アイリスも驚いたようにクリスを見た。
「いや、そこはあなたがエスコートするところよ。そのために記憶を戻してあげたのよ」
「いやいや、そんなこと言われても知らないよ。てか記憶と言ったって地球の記憶であるのはファンタジーネタだし。てかそんな世界言った記憶もなければ女神様を助ける設定なんて見たことも読んだこともないし。てか普通ここで助けるのは私じゃなくてむしろ女神様の方じゃないの?・・・あと、記憶は関係ないですよね。あれは単に説明が面倒だっただけですよね」
「クリス・・・なんか性格変わっているわよ」」
「え?あっ!嘘・・・」
クリスは我に返り周囲を見回す。そして呆然と見ているロザリーの姿があった。
「く、クリス?」
「ろ、ロザリー様、これには事情ありまして」
クリスは慌てて取り繕ってロザリーへ歩み寄る。
一方、アイリスはほっとかれたがの不満なのか顔を膨らませ、抗議してきた。
「クリス、私を無視しないでよ!」
「え?ああ、もう面倒くさい!」
何か違う気がするが男だったら修羅場というやつなんだろうか。そう思ったがあいにくクリスは女だった
それに記憶を取り戻したのだ。もう何かに怯える必要もなかった。
クリスはロザリーの手をとると、続いてアイリスの手を引っ張り礼拝堂を出て行くことにした。
そこへアストゥリアスの警護兵と司祭が立ちふさがる。
「邪魔です。どいていただけませんか?」
「とりあえずご説明を願えませんか」
クリスの言葉に対して司祭が言ったことは正論だった。
そして今はあいにくクリスの両手は塞がれている。
「彼女の名前はアイリス、先ほど見たとうり女神様です。これでいいですか」
「え?いや・・・そういう意味じゃなくて」
司祭の歯切れが悪い。確かにクリスは質問に答えているが司祭が求めているのはその説明ではなかった。
「ああ、はいはいわかっています。教皇様にも後でちゃんと参りますからその報告だけお願いします。身元はローラン王国のバラ騎士団団長のクリスティーヌ・ローラン。これでいいですか!」
「え?あ、ああ」
そういうと司祭は道をあけた。
実際道を開けること事態問題があるのだが、クリスのあまりの必死さに押されてしまったらしい。
若干15歳の少女に押し負かされる司祭も問題な気がしたが、クリスにとってはその方が都合がいいので突っ込まなかった。
「え?あ、ちょっ」
「やればできるじゃないのよ」
ロザリーも困惑しながらもついていくことになった。
一方見ていたものはただただ呆然としているようだったが。
こうしてクリス達は一旦客室へと戻った。そしてアイリスをクリスの部屋に入れて、ロザリーにも居てもらった。
「なんとか切り抜けられましたね」
「いや、切り抜けられてないと思うわ」
ロザリーは呆れた表情をしていた。
それに対してクリスは楽しそうにニコニコとしている。
「大丈夫です。ちゃんと対策は考えていますから」
「え?どういうこと」
「この後、教皇様に謁見がありましたよね」
「ええ、まあ。あなたが報告の約束を取り付けちゃったんだけどね」
「そこにアイリスと一緒に向かいましょう。後は任せてください」
この話が済んだあたりで教皇側の使者がすぐにやってきた。
そしてすぐさま来るようにと言われてしまった。
教皇がいるところは大聖堂から少し離れた教会だった。
そして、ロザリー一行がやってきたことが伝わるとすぐさま通された。
作法はロザリーが知っているのでロザリーを先頭に、クリス、アイリスが続く。
「ロザリー子爵、こたびの件ご説明願えるかな」
「その説明についてですが当事者である私に説明させていただけませんでしょうか」
ロザリーの要望に教皇がちらりとクリスを見て頷く。
「よかろう」
教皇の了承を得てクリスは話を始めた。
「ありがとうございます。まず、申し訳ございませんがこの話につきましては非常の大事な話となりますので関係者以外立ち退きをお願えませんか」
「なんだと!」
周囲から怒声が聞こえたが、クリスは教皇を見たまま反応を待った。
「良かろう。司祭以下は全員退出しなさい」
「しかし」
「私の言葉が聞けないと」
教皇がジロリと睨むと周囲は静かになり、関係者以外は退出していった。
「待たせたな。話を聞こう」
「はい、ありがとうございます。まず、神の像に触れた件に関してそれが神託とはいえお詫びを申し上げます」
「何、神託とな」
「はい、今隣にいるのが像から現れた女神アイリス様です。私はその命により触れました」
「ふむ。神託とあらばしかたがなかったのかもしれないな。しk」
「はい、ただ私のようなものが触れる了承を得られないと思いやむを得ずでした。ご理解ありがとうございます」
教皇のその後の言葉をあえて遮ったクリスに繭を顰めたが、所詮小娘と判断したのか教皇は言葉を続けた。
「それで、女神アイリス様というのは本当なのか」
ちらりと教皇がアイリスを見た。アイリスはキョトンとしているが何かを察したらしい急に立ち上がると笑顔をつくりこういった。
「教皇様。神様の前で上座で話すのは失礼だと思いますよ」
周囲が凍りついた。教皇も突然の言葉にぽかんのしていたが意味がわかり怒りでワナワナと震えだす。
その様子に気づいたクリスが慌ててフォローに入る。
「アイリス様、よく考えてください。教皇様は女神様だとはっきりと確かめておられないのです。宗教のトップだった人があなたを女神だと認めれば偽者であったときに大変なことになってしまうので本人確認をとれるまでこうしいらっしゃるのですよ」
「まあ、そうだったんですか。なかなか面倒な仕組みなんですね」
「それが人の作る組織というものですから」
「じゃあ証明するにはどうすればいいのでしょうか」
そういうとアイリスは教皇を見た。教皇は少し考えて口を開いた。
「ではこれから起こることを予言してもらいたい」
「予言ですか。そうですねえ。予言といえるのかはわかりませんが、とりあえず部屋の外にいる武装した兵士をどっかにやって欲しいですね。先ほどから拘束しようとしているみたいですし。断ったら殺すというのはどうかと思いますよ」
「ははは、そんなこと想定できる範囲の話ではないか。どうやって殺すというのだ」
「しかたありませんね。証明して差し上げましょう」
アイリスがそういうと突然場外から悲鳴が上がった。
「貴様、何をした」
「ご要望どうり証明してあげましたよ。可哀想に教皇様のために人が死んでしまいましたよ。それで納得いかないのであればこの場いる人にも同様のことをしてあげましょうか」
アイリスは笑顔でいっていたがどう考えても怒っていることは明白だった。
その言葉を聞いて周囲が者の顔が青くなるのがわかった。ついでにロザリーも顔を青くさせていたが。
「わ、わかった。その話信じよう」
「だったら対等の立場になるのがまず先だと思いますよ」
そう言われて教皇が悔しげにアイリスの前までやってくる。
「そう、最初からそうしていればよかったんですけよ。神様だからといって人の命を助ける優しい存在なんて思わないでくださいよ。神にあだ名す者は誰だって容赦はしませんよ」
「ま、まあアイリス様。その辺にして、このままだとお尋ね者になっちゃいます。教皇様にお願いするのが目的だったんでしょ」
「あ、そうでしたね」
クリスに言われて我に返ったのかアイリスは笑顔で表向きはお願いをした。
もっとも教皇に拒否権があるようにはみえなかったが。
「私はここにいるクリスと旅をしますね。ただ、これまで私を祭っていたことに対する信仰心は賞賛に値するものですので聖地と名乗り続けることとその証明として石像を復活させておきましょう。ただ、密かに下界を回りたいと思っているので私が降臨したことについては内密にお願いします。あ、もし追っ手を差し向けるような行為をした場合はこの国を消滅させるのでそのつもりでお願いしますね」
「わ、わかりました」
最初から教皇に選択権などなかった。アイリスに跪きただただ畏怖していることだけが周囲にもわかっている。
そしてクリスがアイリスの言葉に補足した
「申し訳ありませんが、アイリス様を連れていくために少し私と二人でお話しませんか。アイリス様少し付いて来てください。」
「う、うむ」
こうしてあっさりと教皇から了承を得た。
教皇は最初はアイリスをずっとアストゥリアス国においておくつもりだったものの下手に怒りを買ってしまえば国を消滅させると宣言されてしまった。もはや触らぬ神に祟りなし。おいておくよりも出て行ってもらった方が安心だった。
そして、話し合いの結果。
教皇がアイリスを女神と認めること。
アイリスに新たに聖騎士の称号を与えること。
アイリスの降臨は関係者内で内密にすること。
今回の犠牲者については不問とすること。
教皇とアイリスが仲直りししている姿を並びあう形で司祭たちにアピールすること。
なお、バラ騎士団に関してもアイリスがメンバーにいるときは聖バラ騎士団と名乗っていいことになった。
上記の内容で合意した。
最後に関しては教皇の権威が揺らぎかねない状況に対して、教皇に下手に手を出したら司祭であっても神罰が下るいう保身をだしたものだったため。教皇はむしろ喜んで飛びついた。
なお、後でわかったことだったが兵士を殺したというのも女神様のはったりだった。何でも女神様いわく無闇に人を殺めるつもりはないらしい。悲鳴は恐怖の幻影を見せておき、あとは気絶させただけだというネタばらしをしてくれた。
こうして無事内容がまとまると再び客室にまで戻ったクリス達はアイリスの紹介をメンバーにした。
「この度新たに旅に加わることになったアイリス様で聖騎士の称号をアストゥリアス国から頂いています」
「はじめまして。アイリスです。みなさんよろしくお願いします。あと対等に接してほしいのでアイリスと呼んでくださいね」
そう言うとアイリスはにこりと微笑んだ。
「あ、あと彼女は怒らせると恐いからあまり怒らせないように」
その言葉を聞いた一行は驚きながらアイリスを見たが、どうみたっていたいけな少女にしか見えない。
ロザリーのみが顔を青くさせて震えているのを不思議そうに見ていた。
その様子に気づいたアイリスがロザリーの元へ向かっていく。ロザリーはそのことに気づいてピクリとし硬直している。
そして、アイリスが手を差し伸べロザリーの手を握った。するとみるみるロザリーの表情が元に戻って優しげな表情へと変わっていくのがわかった。
「よかった。青い顔をしているから心配したんですよ」
「え?あ、ああ。ありがとうアイリスさん」
ロザリーは驚いた表情をしながらもアイリスに礼を言っている。
もしかしてアイリスには人を安らげる力でもあるのだろうか。
クリスはその様子をつぶさに見ていたが。深く考えないことにした。
まあ、相手が神様なら何でもありな気がする。
そう思うと自然と納得がいった。




