春の宵
朧月夜の窓の下
透き通った緑の瓶から
トクトクと注がれる芳しい液体が
君の頬をほんのり染めていく
熱く香る息
夜空を見上げて
ごろんと転がるフローリング
――ねえ、生まれ変わったら何になる?
わたしの膝の上でふにゃっと笑って
思いつくまま問いかける君
――今度は僕たち親子かな? それとも兄弟だったりして
――どっちも嫌だな
また夫婦がいい
口を尖らせそう答えてから
ちょっと待てよと考える
――うん
あのね
やっぱり生まれ変わらなくていいや
だって
もう充分だもの
そう呟いて髪を撫でると
酔って潤んだ君の瞳が揺れた
――それは……何より嬉しいことばだよ
え、そうなの、と問い返すと
君は続ける
――僕も、もういいや
君と出会って
こうして人間にしてもらったからさ
うん
わたしもそう
それだけでもう
充分だよね
雲の隙間
ぼんやり霞んだ光の輪
温んだ夜風をまといながら
柔らかな君の耳朶をつまんで
くいっと引っ張って
そして小さく
くすくすと笑い合った