ホワイトドッグは尻尾までホワイト
「すっ」
アカネが小さく息を吐き、それと同時にホワイトドッグの後ろに回り込む。
それはまさしく眼にもとまらぬ早業だった。
「お見事、以前火吹きトカゲにもやってましたよねそれ」
「男のロマン」
アカネの言葉には迷いがなく、それ故にナイアも貴女は女でしょうにという突っ込みを入れられずにいた。
しかしながら、ナイアとて千の顔を持つ身。
男の感性という物もある程度理解しており、その趣向もわからないわけではなかった。
むしろナイア自身相手の背後に回り込んで、どこを見ているといった発言や、攻撃を避けて残像だなどと言ってのけるなどの行動は心惹かれるものがあった。
「では今度は私が……【無貌の神】」
ナイアが呟くと同時に、その顔が変質していく。
先ほどまでは黒い瞳、東洋人的だが整った顔立ちをしていたナイアの顔が、子どもの絵のようにゆがんでいく。
それは刻一刻と形を変えてゆき、そして不意に元の顔立ちに戻った。
同時に対峙していた数匹のホワイトドッグが泡を吹いて倒れ伏した。
「何をしたの」
「本性をちらりと見せました。
こういった手合いはこの程度で十分ですね」
十分、とはいったもののナイアにはまだ余裕があり、どころかドラゴンのような化け物でさえ今ので十分といえる。
それだけの実力を隠し持った二人の女性は、地面に倒れ伏しているホワイトドッグの亡骸を集め、今度はどのようにして運搬するかという点で頭を抱えていた。
およそ40匹の死体の山は、到底二人で運べるものではなかったが、アカネはとあることを思い出した。
ナイアからもらったあの家、あそこに収納する事が出来れば可能ではないか。
「それはできなくもないですけどあそこに仕舞うには一度に運び込める数、という限界がありますよ」
ナイアからもらった家に物を運び込むための条件はは一度に運び込めるものという条件がある。
それは、すべての死体を運び込むためには何度も往復しなければならないという事だった。
「まあ現状それしか方法はありませんね」
ナイアがそういうと、陽炎のように空間が揺れ動き、そこには例の家の玄関があった。
「大サービスです。
ここに放り込みましょう」
ナイアの言葉を聞いて、アカネは後で何かお礼をしようと思いながらもその言葉に甘えた。
相手がナイアなので、もっと言ってしまえば相手がナイアルラトホテップという最悪の神なので相応に警戒はしていたが、ナイアの本心を読むには至らなかった。
そのことを知るのは、死体を全て放り込んでからになる。
「さて、では今回のサービス料は体で払ってもらいましょうか」
すべての死体を家に放り込んだアカネに、ナイアはそう言ってのけた。
さすがに唖然としてナイアを見つめるアカネに、ナイアは気にする様子もなくその耳元で呟いた。
「安心してください、やらしいことはないです……ちょっと、ね。
くふふふふふ」
怪しい笑みを浮かべるナイアにアカネは警戒心の足りなかった自分を呪いつつ、あきらめたのか、それとも何か策があるのか黙って頷くのみだった。




