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神の箱庭で剣鬼は踊る  作者: 剣鬼
6/10

事件

 それから3日ほど歩き続けて、アカネと引き摺られるようについてくることとなったナイアは小さな町にたどり着いた。

 それは小さいながらに活気のある町だったが、アカネは真っ先にどうすればこの街を落とせるか、という事ばかりを考えていた。

 対して横にいたナイアはアカネの思考を読み取り、どうやって止めようかと頭を悩ませていた。


「全力で正面突破……警備の手薄なところからの強襲……」


 ナイアは不穏なことを口走るアカネの首筋をつかみ、強制的に歩かせる。

 子猫のような扱いにアカネは多少ムッとしたものの、気を取り直したのか町に目を向けた。

 そこには検問などはなく、一歩街に踏み入るとそこは活気づいた商店街が並んでいた。


「シャッター商店街しか見たことないから不思議な気分」


「私はいろんな世界見てるんで慣れてますけどね」


「そう、ところでこれからはどうすればいいの」


 アカネは、街を見つけるという目標を早々にクリアしてしまったため次の目標を定められずにいた。

 おいしい物を食べたい、強敵と戦いたい等考えればいくらでも目標はできる。

 しかしそのどれもアカネを突き動かすには弱い物だった。


「どうすればと私に言われましても」


「言い方を変える。

提案、アドバイスの類はないの」


「そうですねえ……当面の生活費はありますからひとまず宿をとりましょうか。

それからご飯でも食べながら考えるとして……まあ次の街を目指すというのを目標にするのもいいんじゃないですか? 」


 ナイアの言葉を聞いて、それもそうかとうなずく。

 そして宿を探すべく、あたりを見渡した瞬間、腰に差していた紅霞に重量を感じた。


「ほう、細いがいい武器だ」


 その重量は紅霞を道行く男がつかんだためだった。

 通常の場合、無断で相手の武器に触れるのは重大なマナー違反であり、最悪の場合法に抵触する可能性がある。

 当然と言ってしまえば当然だがこの世界の常識を知らないアカネは刀をつかんだ男を睨みつける程度にとどまってしまい、この行為が男を増長させた。


「高く売れそうだ、俺様がもらってやろうではないか。

……武器同様、少々貧相だがその体ごと俺様が買ってやってもいいぞ。

そちらの女なら武器と小娘の倍払ってもよい」


 男は、アカネの機嫌が急降下していくことに気付かず語り始める。

 それは、重大な命とりだった。


「【霞掛け】」


 紅霞の鞘の先をつかまれたままアカネはそう呟く。

 それは技というにはあまりにも単純な動作であった。


「がっ」


 アカネは刀の鍔を握りしめ、力の限りと振り下ろす。

 それにより、シーソーの要領で鞘が跳ね上がり、男の顎を打ち抜いた。

 本来の用途は狭い空間で後方に対する迎撃を行う技だが、それは使い手次第という事だろう。


「貴様! 」


 アカネの力では大の男一人を気絶させるには至らなかったのか、すぐ様に起き上がってアカネに掴みかかろうとする。

 それを防いだのは意外にもナイアだった。

 暇つぶしにアカネの動向を見守る、というのがナイアの方針だったためアカネも助力に期待はしていなかった。

 それが道を示すこと程度であればナイアの協力を得ることは難しくないだろう。

 しかし物理的に、戦闘的に手を借りることはできないと考えていた。


「ふっふっふ、映画を見るよりもゲームをしたい!

私はそういう性格なのです! 」


 言葉の意味が一瞬理解できずに首をかしげたアカネを見て、ナイアががっくりとうなだれる。


「見てるよりも遊びたいんです」


 その言葉を聞いて合点がいったと手を打ち合わせるアカネを内心可愛いと思いながらもナイアは男に向き直り観察する。

 男の格好は、装飾の施された高価そうな服装だ。

 アクセサリーもいくつか身に着けていること、先ほどの言動全てを踏まえてそれなりの地位を持っているのではないかと考えた。

 そのため、ただぶちのめしただけでは禍根が残る。

 ならばただでは済まさねばいいだけのことだ、とナイアは考えた。


「では、混沌らしい方法をとってみますか」


 ぼそり、とつぶやいたその言葉を聞き取れた者は多くはいなかった。

 混沌らしく、その言葉が意味するところは破滅である。


「ではまず月にでも吠えてみますか」


 そう言ったナイアはアカネに向き直り、耳をふさげとジェスチャーで伝える。

 アカネは疑問を持つこともせず耳をふさぎ、そのついでに視界の端にナイアが移らないように目を閉じて反対側を向いた。

 苦笑しながらもいい判断だとナイアは思い、そして吠えた。


「GUOoooooooooooooooOOOooO!!!! 」


 その声は、人が発してよい物ではないとその場に居合わせたすべての人間が感じた。

 それと同時に自身が見ている世界がガラガラと崩れ去るような錯覚を覚えた。

 それは、世界が崩れたわけではなく声を聴いたもの全ての心が崩れただけのことだった。

 平穏だった日常は、小さなきっかけ一つで不穏な異常に変わる。

 誰も気にしないような町の一角でのいざこざ、それが人々に絶望をもたらした。


「……ふぅ、まあこんなもんですか」


 ナイアの周囲には絡んできた男以外の人々も倒れ伏していた。

 加減したため、死人は一人も出ていない。

 だが精神に大きな傷を負ったものは少なくなく、さらに行ってしまえば絡んできた男の心は完膚なきまでに破壊されてしまっていた。


「ふんっ! 」


 周囲の状況に満足そうにうなずいていたナイアの後頭部に突如痛みが走る。

 それは鞘に収まったまま刀を構えるアカネの仕業だった。


 耳をふさいだ、とはいえ音を完全に遮断するのは難しい。

 それ故にアカネの精神も平穏とはいかなくなっていた。


 幸い剣術の修業は精神修行でもあるため、その程度で平静を保てなくなるようなことはなかったが、それでも怒りはこみあげてくる。

 そのやり場は、原因である男はもちろん、精神的に不安定になる攻撃をしたナイアに向けられた。


「あ、あのアカネさん? 」


「大丈夫、ちょっとの間死ぬほど痛いだけ」


「それは大丈夫とは言いませんよ。

ほ、ほら大丈夫。

この人たちみんな生きてる。

トラウマ持ったかもしれないけれどみんな無事ですから! 」


「どうでもいい」


「えーと、ほら私アカネさんの役に立ちたくって」


「そう、なら憂さ晴らしも手伝って」


「あー私ちょっと急用が」


 そう言って空間のはざまに逃げ込んだナイアは、あっという間に切り開かれた空間の亀裂から伸びた手によって捕獲された。

 それは冗談のような光景であり、その場にいたものは全員正気を失っていたため何か悪い夢を見たと判断したのだろう。

 結局のところ、この町の一角で凶悪だが霧散しやすい毒がばらまかれたという事件が発生、首謀者は旅の貴族であり、被害者は多数いたものの死亡者はなし。

 また首謀者は自身でも毒を吸い込みすぎて意識が戻らぬままとなった。


 と役所の調書には書かれることとなった。

 その際に難を逃れた二人の女性は、さめざめと涙を流しながら形見だという指輪を取出し家族が守ってくれたのだと語ったという。




 なお事件の真相が闇の中にあるという事は言うまでもなく、その女性二人が怪しいと意義を立てたものに限って翌日恐ろしい夢を見たという事から深く追及するものは現れなかった。

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