フラグ回収
「綺麗なフラグの回収、脱帽もの」
「馬鹿言ってないでどうにかしましょうよ」
ナイアの頭上を通り過ぎた火球は、一匹のトカゲが吐いたものである。
何もないといったそばから問題が転がり込んできたあたり、ナイアのフラグ回収能力は高いのかもしれない。
「ちょっと『こんなとこにいられるか、私は帰るぞ』って言ってみて」
「それ高確率で死にますよねぇ! 」
「ナイア、私貴女が無事に戻ってこれるよう神様に祈ってるわ」
「やめてください冗談抜きで死んでしまいます!
というか私も神様です!
フラグの神様今だけはサボってください! 」
ばかばかしいやり取りをしているもののアカネとナイアの方がトカゲよりも強力であるということは疑いようがない。
むしろだからこそ気の抜けるような漫談をしていられるという物だ。
「それで、どうするんですかあれ」
先ほどから無視され続けたトカゲは舌をちろちろと動かしながら二人を威嚇している。
しかしその様子からは、むしろ追い詰められた動物のようである。
そのことを隠すためか、はたまた別の理由かトカゲは口を開き再び火球を吐き出す。
今度は先程の物と違い、アカネに直撃するであろうコースだ。
「……【雛菊】」
ぽつりとつぶやきながら紅霞に手をかけ、そして一瞬アカネの体がぶれる。
それに合わせてトカゲの吐き出した火球が消滅した。
「【陽炎】」
紅霞に手をかけたままトカゲに体を向ける。
その直後、アカネの姿は掻き消えいつの間にかトカゲの背後に立っていた。
そのまま表情を変えることなくトカゲの頭部に紅霞を突き刺し、刀をねじってから引き抜いた。
「お見事……でもなんでいちいち技名いうんですか? 」
「練習」
アカネは日ごろの鍛錬の際に技の名前を言ってから体を動かしていた。
そうする事でこの技の動きはこうだ、と体に覚えさせることができる。
それを終えると次は技名なしで体を動かす。
これを繰り返すことで、アカネは数多くの技を修めてきた。
「ちなみに技名はどなたが? 」
「初代、たぶんよろしくない病気だった」
技名を付けた初代の人間は、アカネの中では剣術以外は残念な人物という評価だった。
それはおおむね正しいのだが、今それを知るすべはない。
「あ、それとその流派なんて言うんですか?
ふつう何かしらの名前がついていますよね」
「無名、正確には名前はあったけど空襲で焼失した」
秘伝書、と呼ばれる書物がアカネの流派には代々伝わっている。
それは長子のみに相伝されるものだが最初の数冊は既に存在しない。
「だから私も爺さんも、そのまた爺さんも名無し流って呼んでた」
「名無し流……言いえて妙な名前ですね」
「そこは同意」
「それで、その名無し流ですが……いやに対化け物に特化している気がするのですが」
ナイアの疑問は、狐狸妖怪といった類はともかく、ドラゴンのようなモンスターと戦う機会のなかったであろう地球でなぜこれ程までに対人外戦に特化した剣術があるのか、という事だ。
その疑問は最もであり、アカネ自身も不思議に思っていることではあった。
「というか、なんでそんな剣術をアカネさんは習得できているんですか」
モンスター、化け物、それらに相対できる存在は同様に人間から化け物と呼ばれる存在である。
なぜならば、化け物の一撃を受け止められる腕力は時として人に害をなす。
それ故に、対化け物用の剣術を修めたアカネは、それらに勝るとも劣らぬ存在であるといえた。
「爺さん曰く、鬼才らしい」
「鬼才って……それで済ませるあなたのおじいさんも大概ですよね」
実際はもう少し面倒なことがあったが、それはナイアにとってはどうでもいい事である。
「ところでナイア」
「はい? 」
「とかげっておいしいのかな」
「やめておきなさいな」
アカネの旅は始まったばかりだ。




